9月22日に放送された『キングオブコント2018』(TBS系列)。11回目を迎えた今年は、大会にいくつかの変更点があった。
決勝当日にファイナリストを発表したこと。そして、ネタ時間が4分から5分に増えたこと。この変更が大会にどのような影響を及ぼしたのか。審査員の点数から大会を振り返りたい。
「キングオブコント2018」採点データ分析。新要素ネタ時間5分が分けた明暗、松本人志が突きつけたNO
『キングオブコント2018』全組の審査結果。審査員がつけた最高点が赤、最低点が青

ファーストステージ:460点台の混戦


審査形式をおさらいしておこう。採点は5人の審査員(バナナマン、さまぁ〜ず、松本人志)が100点満点で行う。ファーストステージは10組がネタを披露し、上位3組がファイナルステージに進出。
ファイナルステージも同様に500点満点で採点し、ファーストステージと合わせた合計得点が最も高い組が「キング」となる。

ファーストステージを1位で通過したのはチョコレートプラネット。誘拐された男が犯人の話を全然聞かず、「教えろ!」のハイテンションと犯人の狼狽で5分を押し切った。478点は現在の審査形式での最高点タイ記録だ(2015年ロッチ「試着室」、2017年かまいたち「ウェットスーツ」が同じ478点)。

この高得点に続き、わらふぢなるお、ハナコ、さらば青春の光、ロビンフットが460点台でひしめき合う。ハイレベルなコントがぶつかる大激戦になった。

「キングオブコント2018」採点データ分析。新要素ネタ時間5分が分けた明暗、松本人志が突きつけたNO
ファーストステージ 1位〜5位までを合計点数順に並べたもの。2位以下は460点台の団子状態に

例年ならファイナルステージ進出者は「上位5組」であり、先ほど挙げた組は全員進出できる。しかし今年はネタ時間が4分から5分に伸びたため、放送時間の関係から進出者は「上位3組」に減ってしまった。さらば青春の光とロビンフットは、ここで脱落となる。

3位から5位までの差は1点ずつしか開いていない。もし上位5組がファイナル進出だったら……と、どうしても考えてしまう。続くファイナルステージで、ハナコはトップとの14点差をひっくり返して優勝しているのだ。
ハナコと僅差だった2組にも優勝のチャンスがあったかもしれない。たらればを話しても仕方ないが、当人たちが一番悔しいだろう。

460点台の4組について、審査員の点数はほぼ90点〜96点で推移している。レベルの高さがうかがえる結果だが、ロビンフットは松本96点に対して三村89点と、7点の開きがあるのが気になる。放送内では三村にコメントを振られなかったので採点の根拠はわからない。ネットでは一人だけ点数が低いことに違和感を訴える声もあった。


多様な視点を持った審査員を揃えることは、公平な審査のために必要不可欠だ。ただ、審査員の数が少なければ、1人の点数が全体に大きく影響してしまう。「あの点数のせいで」と指を差されやすくもなるだろう。2015年に審査員5人体制になってから、審査結果は常に視聴者の「納得感」と戦っているように思えてならない。

ファイナルステージ:5分ネタの明暗


ファイナルステージでは、トップバッターのハナコが472点の高得点をマーク。バナナマンの2人がこの日の最高点をつけている。

例年、バナナマンはファーストステージの最高点を92〜93点ほどに抑え、ファイナルでグッと高得点をつけて点数を差別化している。
一方、さまぁ〜ずはその時一番面白いと感じたネタに、素直に高い点数をつける傾向にある。松本人志は最低点と最高点の点差を大きめにとって散らしていく。

松本は「やさしいズより〇点高くつけました」と何度かやさしいズをいじるコメントをしていたが、1組目のやさしいズを基準に点数を考えてたのかもしれない。
「キングオブコント2018」採点データ分析。新要素ネタ時間5分が分けた明暗、松本人志が突きつけたNO
ファイナルステージの採点。設楽と日村はハナコに今回の最高点を付けた(赤字で記載)

ファイナルステージ、ハナコの2本目のネタに対し設楽は「マジで面白いです」「思っている以上にヤバいと思います」「相当面白い」とべた褒め。それでも「97点」と伸びしろを残すのは、この先の2組がハナコを上回る可能性を考えてのことだろう。

残る2組とも、1本目と同等の点数を保てればハナコを上回る。
しかし思ったほど伸びない。最後のチョコレートプラネットでは、バナナマンが90点、さまぁ〜ずが88点とそれぞれ揃う。「低めにつけて他の審査員の様子をみる」ような形だったが、最後の松本人志が84点で明確に「NO」を突きつけた。

ネタ時間が4分から5分に伸びたことで、フリや展開を盛り込みやすくなっただろう。トリオであるハナコは後半に菊田を出すなど、飽きさせない構成を作っていた。一方で5分という時間は、ワンシチュエーションに頼ると間延びするリスクもはらんでいる。わらふぢなるおとチョコレートプラネットの2本目は、その罠に陥ったように見える。

ファイナリスト発表からすぐ「敗者」に


今回のキングオブコントは初めての試みとして、生放送中にファイナリストを発表した。準決勝終了後、既にファイナリストは決定していたが、決勝までの2週間は「完全シークレット」としていたのだ。
(※参考:「キングオブコント2018」新MCに葵わかな就任、浜田雅功からの手紙は「直筆じゃない」

厳密に言うと、内部関係者から一部の決勝進出者が漏洩したり、事前番組で楽屋にいる姿が見切れたりと「完全」とまではいかなかった。特に初期の番宣CMでは10組のシルエットが映っており、コアなお笑いファンから特定されていたりした(そしてそれはほとんど当たっていた)

この試みが番組宣伝にどう影響したかは、視聴率の発表を待たないとわからない。内容のハイレベルさや過去最高クラスの点数からは、順当に面白い組が勝ち上がり、評価されたと感じる。5分のネタ時間で練りに練ったコントを堪能でき、笑いすぎて疲れるほどだった。

それだけに、ファイナリスト発表からすぐに「敗者」となってしまった芸人たちが気にかかる。例年なら準決勝から決勝までチヤホヤされる時間があるのに、誰にも結果を言えず我慢するしかなかったのだ。準決勝で敗退した芸人も、ネタバレ回避のために決勝当日の仕事がキャンセルになったと聞く。コントに罪はない。関わる人全てが幸せになる大会になればと切に願う。

(井上マサキ)