「俺、からかって言ったわけじゃなくて、先生が好きです。だから、先生が自分の思いたいように事実を捻じ曲げてふわふわするのは勝手ですけど、僕はそういう人間なんで」

10月16日(火)放送の火曜ドラマ『中学聖日記』(TBS系)第2話。

第1話のラストで、男子中学生・晶(岡田健史)が国語教師の聖(有村架純)に告白をした。告白に対して、聖は2話の冒頭で「先生、黒岩くんに嫌われてると思ってた。ありがとう」と答える。教師としての立場から、感謝を伝えて受け流した。しかし、それでは晶の思いはおさまらなかった。
「中学聖日記」有村架純と岡田健史は似ている。青い稲と夕暮れが表したのは…2話
イラスト/まつもとりえこ

恋愛の皮の下で人間同士の共鳴を描く


「とにかく、距離を取る」

生徒に告白されてしまった聖は、新任だけあって経験が少なく、そういう場合にどう対処したら良いか迷っていた。先輩教師の千鶴(友近)に晶のことを相談するなどして、まずは距離を置くことを決める。
勉強でわからない部分の相談に乗ったり、怪我の面倒をみたりするのは、教師として常識的な範囲の接触だ。

そんな聖の態度は、晶にとっては「常識的な教師の振る舞い」ととらえることができなかった。

「聞いてもいいですか。どうしてこんな風に」
「ん?」
「僕のこと助けてくれて、こんな風に面倒みてくれて」
「怪我してるんだからさ、担任として当然でしょ」
「それだけですか?」

晶にとって聖は、多少なりとも特別に自分を助け、面倒をみてくれる人。聖の「教師と生徒」の線引きをしようという意識が、かえって晶に特別な印象を与えてしまっていたのかもしれない。

2話までを見て、これがひとつの描きたいことだろうと感じるものがあった。
それは、「こどもの人格に対する大人の不誠実さ」だ。

晶は、体育祭の最中に衝動的に聖を倉庫に連れていってしまうし、「誰に見られてもいい」と言って聖を抱きしめてしまう。世間体や常識、立場を考えない率直な晶の思い。
それに対して聖ははぐらかそうとし、「迷惑だからやめて」、「誰かに見られたら」と、あくまで教師という立場からものを言う。立場を取り払った状態の聖が晶の思いについてどう感じているのかは、聖自身、考えてすらいなさそうだ。

また、晶は家庭で親に隠しごとをされている。
離婚して離れて暮らしている父親からの手紙の存在を、母親・愛子(夏川結衣)は晶に知らせない。晶を立派な家族の一員としてではなく、こどもとして扱っている。

本作が示す「こども扱い」が、こどもを一人の人間として扱わず人格をないがしろにすることだとする。そう考えると、聖もまた晶と同じ扱いを受けている。

婚約者・勝太郎(町田啓太)の実家で両家顔合わせをしたとき、聖は教師になった理由を質問された。それに答えようとするが、すぐに聖の親が「お友達の真似っこしたのよねえ」と遮る。
仕事も「辞めなさい」と言われる。聖は自分なりに理由を持っているのに、それを認めてくれる人があの場にはいなかった。

勝太郎も、当初は聖に仕事を辞めさせて大阪に呼び寄せようとしていた。それは善意でもあったが、聖にとってもそれが良いだろうという一方的な想像によるものだ。また、聖は職場でも半人前扱いを受けている。

「教師と生徒」の対比は、大人とこどもの立場の違いを如実に表す。
一方で、かけ離れた立場であるからこそ、共通点や共感のポイントが浮き彫りになりやすい。同じTBS系で放送されていたドラマ『高校教師』(2009)なども、教師と生徒の恋愛ドラマという皮をまとう一方で、立場が違う人間のあいだの共鳴を描いたものだった。『中学聖日記』もまた、そうしたヒューマニティを描き出す作品になっていく可能性がある。

幻想的な画づくりの中に残る存在感


聖に「迷惑」と言われたのち体育祭を抜けて帰宅した晶は、青々とした稲が広がる田んぼに囲まれた道で、空をあおぎ深呼吸をする。その後、晶が車に残したハチマキに気づいた聖もまた、顔を空に向けて目をつぶる。

晶の姿に、2001年公開の映画『リリイ・シュシュのすべて』の市原隼人を思い出した。
大人からは見えづらいこどもたちの心の声を描いた作品だ。自我が芽生えつつもこども扱いされてしまう年齢の子たちの青臭さと、これから実りゆくはずの成長の予感が、無数の青い稲と重なる。
「中学聖日記」有村架純と岡田健史は似ている。青い稲と夕暮れが表したのは…2話
岩井俊二監督映画『リリイ・シュシュのすべて』(2001) 主人公を演じたのは市原隼人

夕暮れが近い太陽の光の下で、オレンジ色の車を背景に晶と同じく空を仰ぐ聖。太陽と車のオレンジ色は秋の訪れを思わせ、聖が晶よりも少しだけ成長した存在だと示しているようにも見える。
夕日がさしてくるほうに向かって、晶が無心で自転車をこいでいく。でも、途中で転んでしまう。つまずきながらも、晶は大人である聖に近づこうとしているのだ。

晶役の岡田健史も、聖役の有村架純も、どちらも鼻筋とあごのきれいな俳優だ。本作は、演者の後ろから逆光になるように自然光があたる画づくりが印象的。幻想的な画になっているからこそ、二人の顔立ちのシャープな部分が際立ち、鮮明に存在感を残す。
舞台になっている町・子星平や中学校などの風景がどれも美しく撮影されていることからも、画づくりには制作陣もかなりこだわっていることがうかがえる。

教師と生徒の恋愛という、わかりやすくセンセーショナルな面につい目が奪われてしまうかもしれない。けれど、改めて見るとやはり細かいところまで作り込もうとしている、丁寧なドラマだ。3話以降も、その繊細さが表現するものを見逃さないでいたい。

第3話は、今夜10時から放送。

(むらたえりか)

火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系にて、10月9日(火)スタート 毎週火曜よる10時から放送
出演:有村架純、岡田健史、町田啓太(劇団EXILE)、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(フィールコミックス/祥伝社)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/