大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第44回「士族たちの動乱」11月25日(日)放送 演出:石塚 嘉
「西郷どん」44話。薩摩で私学校をつくる。もうすぐ西南戦争

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版

お風呂シーンは視聴率アップを助けるのか


あと3回(これをいれて4回)を残すばかりとなった「西郷どん」。明治7年、佐賀の乱も起こり、日本はどうなる? と気になる44話で印象に残ったのは4つ。

・西郷どん(鈴木亮平)と熊吉(塚地武雅)の温泉シーン
・大野拓朗(桐野役)のたっぷり時間をとったアクションシーン
・大久保の正妻(美村里江)と愛人(内田有紀)が対峙するシーン
・玉山鉄二(木戸孝允役)の碇ゲンドウポーズ

視聴率は12.4%と43話よりアップ。

水川あさみの入浴シーンが冒頭にあった33話が視聴率が上がったことに続き、男であれ女であれお風呂シーンがあると視聴率が上がるものなのだろうか。

ちなみに「今日から俺は!!」とは10.6%で、その差1.8ポイントとさらに差が縮んだ。
「残り3回、「今日から俺は!!」の追い上げから逃げ切れるか。

600人も薩摩に帰って来た


「官もいらず名もいらずそれが薩摩隼人の心意気でごわす」
半次郎こと桐野(大野拓朗)たちが西郷を追って東京から薩摩に戻って来た。
大久保(瑛太)に愛想をつかして桐野たちはいまの政府を認めず、西郷にこそ政府を率いてほしいという。
同じ思いを抱いた者が多く、なんと600人もの士族が薩摩に帰ってきてしまった。
この状況に「いかんいかん」と鹿児島県令となった大山(北村有起哉)は血気盛んな人たちが薩摩で暴走することをおそれ頭を抱える。

しつこく西郷を訪ねくる桐野を糸(黒木華)は叱咤する。
西郷はこれまで新しい国をつくるためにがんばってきた、今度はじぶんたちでやればいいではないかと糸は思ったのだ。

玉山鉄二の碇ゲンドウポーズ


東京に残ったのは、西郷の弟・従道(錦戸亮)、新八(堀井新太)、川路(泉澤祐希)など。
この頃、参議兼内務卿となった大久保は内務省の頂点に君臨していて、新八と川路に自分の仕事を手伝ってくれるように依頼する。
「西郷どん」を見てると大久保のビジョンがぼんやりしていて、行動のモチベーションが、世のため人のために大きな仕事をし人望も勝ち得る西郷への対抗意識にしか見えないのだが、実際どうだったのだろう。

そんなおり岩倉(笑福亭鶴瓶)が刺客(土佐の者)に襲われた。
息も絶え絶え運び込まれた屋敷のステンドグラスの赤、青、紫を使った照明が不穏さを醸すいいアクセントになる。
「西郷どん」は最初から最後まで照明と美術の連携が見事だった。

これを機に反乱の火の手が一気に燃え上がるのではないか……と悩ましい気持ちを、前で手を組むポーズで表す木戸孝允こと玉山鉄二。
エヴァの碇ゲンドウですっかりおなじみになったポーズである。
これをやるとそれっぽく見えるので、玉山鉄二の選択は適切かと思う。
その後、江藤(迫田孝也)が斬首された時には、悩ましい顔で指で顎を支えている玉山。これもいかにもポーズではあるが、何もしないで、全員、ただ座っているよりはひとりこういうアクセントになる人物がいると画面が生き生きする。


満寿さん、東京へ


糸の武勇伝を、温泉にのんびりつかりながら語り合う熊吉と西郷さん。
西郷は、このまま農民として生きていきたいと言う。民衆と共に生き、民衆の目線をもつことを最後まで大事にしようとしているのだ。その気持を、民衆代表のような素朴な男・熊吉と楽しく温泉につかる場面で語るのはとてもいい。働いて汗をかいて風呂に入って幸福を感じる、それこそ平和ってものだ。
「官もいらず名もいらずそれが薩摩隼人の心意気でごわす」という最初の桐野のセリフともつながっているようにも思う。
この温泉は、NHK のスタジオに作られた見事なセットであったと、鈴木亮平はブログで紹介していた。
鹿児島の温泉の素が入っているそうだ。なんと微笑ましい。

だが、状況はそんなのんきなことでは済まなくなっていた。
大久保への反発は彼の妻子まで脅かす。家に石を投げ込まれ危険を感じた満寿はとうとう東京に移る。
東京には愛人・ゆうがいて、気が進まなかったが、ついに彼女とも対面。
糸と愛加那(二階堂ふみ)と同じパターン。
女ふたりは勝手に、1と6のつく日にはうちに来る(大久保は正妻の家に住み、愛人の家にはってことだろう)ことに取り決める。
「よろしうおたのもうします ほな」のときの内田有紀の意味深な顔。
このへん世話物感。
いつもしかめっ面している大久保も子どもと遊ぶのは楽しげだ。

それにしても石を投げ込まれた満寿さんと子どもがかわいそうだった。


人斬り半次、大活躍


明治7年、佐賀の乱が起きる。
江藤が西郷を訪ねてくるが、西郷は政府を倒そうとは思わず、鹿児島から政府を支えたいと思ってると言う。江藤の行動を「それは私情じゃ」と指摘する西郷。やはり大久保も私情に見えるし、みなが私情を交えて国作りを見ている中で、西郷だけが私を捨て、ひたすら国や国民のことを考えているように描かれている。

江藤は捕まり、大久保の命により死刑(さらし首)になり、残った薩摩隼人は怒りで爆発寸前。
思案した西郷は、士族の学校をつくって、年上の士族は若者に、兵法をはじめあらゆる学問を若者に教えることを考える。こうすれば、せっかくの能力を無駄にしないですむという案だ。
そのため金を出してほしいと頼まれ、大山は「わいは押し込みか」と喚く。
一連の士族の帰還で、銭のような禿ができたと嘆く。北村有起哉の演技には地方に残った庶民的な小役人感がよく出ている。

結局、新八も東京から帰ってきてしまった。
西欧の視察で学んだアコーディオンを弾きながら、西郷家の人々にル・ペルなんとかにオペラを見に行ったという話をする新八に、熊吉はその単語は聞いたことないが、「聞いとるだけで夢見心地になりもうなあ」とうっとり。ほんに、塚地武雅は「西郷どん」の宝である。
西欧の優れた文化は人を幸せにもするのだ。すべては使い方なのだと思わせる場面。

やがて私学校ができた。菊次郎も異国から帰って来た。

兵法の勉強中、ふいに覆面した賊が現れ、剣をふるい、銃を一刀両断に。
それは桐野で、
「弾がつきれば剣で戦うしかない」
「戦場で最後まで生き残るのは剣の強い者だ」と人斬り半次郎伝説を彷彿とさせる動きを見せる。
いろいろ反発していた桐野であったが、結局、西郷の私学校で働くことを決意した。

突然の桐野による長い時間をかけた派手なパフォーマンスはいったいなんだろう。
演じている大野拓朗は、BS4Kで放送される世界初4K南極中継のレポーターという栄えある仕事をしている。これがけっこう大変な道中らしく撮影スタッフと同じ部屋で寝泊まりするのだとこの間、何かの番組で語っていた。「わろてんか」出演時には、大阪に住民票を移すというやる気を見せた。こういう献身によって勝ち得た出番だろうか。若く血気盛んな雰囲気はよく出ていた。

それはともかく、いよいよ西南戦争が……。
あと3回!
(木俣冬)