『おちょやん』第13週「一人やあれへん」

第61回〈3月1日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』一平は千代のことを真剣に好きなのか考える……結論。作家とか俳優はやばい
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「千代…俺と一緒にならへんか」

最愛の弟・ヨシヲ(倉悠貴)に端を発する休演問題もいったん解決し、千代(杉咲花)一平(成田凌)の関係が急展開をはじめた。求婚、引っ越し、襲名と襲名即辞退……と人生のイベントが矢継ぎ早に描かれ、ますます盛り上がる『おちょやん』。

【前話レビュー】千代、弟と涙の別れ それもこれもすべて子供を責任もって育てない親のせい

「済ませること済ませてますから」と『おはよう日本 関東版』の高瀬アナがいささか下衆い言い方で表した千代と一平の仲。
12週でお芝居のうえとはいえ、ふたりは接吻を交わした。これですこし距離の縮まったふたり。ヨシヲがヤクザ者の道を選び去っていき、孤独を噛み締める千代に、一平は自分の孤独を重ね「ひとりやあらへん。俺がおる」と抱きしめたところまでは12週で描かれた。13週はその続きから。

千代「もう大丈夫や」
一平「大丈夫やあらへん」
千代「大丈夫や」
一平「おれが大丈夫やあらへん」

感極まって、「おまえは俺と一緒や」「千代…俺と一緒にならへんか」と求婚する一平。

一平の気持ちは止まらない。一方、千代はそこまで成熟してないから戸惑う。

脅迫による休演を経て再開したお芝居で、「若旦那のハイキング」のクライマックスを再び演じると、ここにも「わてらずっと一緒や」「お前をもう離さへんで」というセリフが一平にあって、それと現実を重ねた千代は芝居に身が入らない。

「千代千代千代千代……」とスクラッチみたいに映像がリフレイン(回想場面に再現イラストまで挿入されていた)。このとき、いやや〜というふうに顔をそらす千代と困惑する一平の表情と、奥でハラハラする劇団員たちが可笑しい。

それにしても、接吻は舞台の上、求婚はアヴァン。
『おちょやん』ではヒロインの恋愛と結婚が重要視されていないように見える。通常のドラマだったら、こういうところはその回のクライマックスに設定されるはず。そうではないところがこのドラマの独特なところだ。なぜ、こういう描き方なのか。一平の感情から考察してみよう。

朝ドラ『おちょやん』一平は千代のことを真剣に好きなのか考える……結論。作家とか俳優はやばい
写真提供/NHK

一平が千代のことを好きなのは事実であろう。

ただ、その好きは若さゆえの衝動的なものであるとも考えられる。
さらに、恋のみならず、自分の孤独を埋めたい欲求でもある。
その証拠に、彼は以前から何かと酒と女遊びに逃げていることがあった。

また、彼は作家であり、俳優である。想像力や思い込みが豊かなのである。
しかも彼が求めていることが現実と虚構の混じり合ったもののなかに真実を見出すことなのだ。

そのため、自分の芝居に酔って、現実と芝居をごっちゃにしてしまっている可能性も考えられる。

よって、どんなに千代に対して真剣に見えても、一平の言動は要注意なのである。
簡単に言えば、作家とか俳優はやばい。

一平、引っ越す

脅迫事件は解決したため公演再開にあたり、千代が弟のしたことを劇団員に謝罪すると、皆、千代のせいではないと優しい。いろいろあったが劇団員の結束は強くなっていることを感じさせる一場面にはほっこりする。

漆原(大川良太郎)が「俺が一人前の男に鍛えたるわ」と色男ふうに決めて、「にいさんが言うと説得力あるなあ」とはやしたてられると、「そないな意味違いますて」と声色を変えて、みんなで笑う流れが良かった。

それにしても座長・一平の意向を聞いて女形を辞めて男役になった漆原、千之助(星田英利)の婆さん役をどう思っているのだろうか。


公演が千秋楽を迎えた3月、一平は急に引っ越しを決める。場所は天王寺。ハナ(宮田圭子)に言われ千代が食事の世話に行くと、劇団員の香里(松本妃代)が来てかいがいしく世話を焼いていた。

機嫌を損ねて帰る千代を一平は追いかける。千代がいるから気が散って本が書けないため引っ越したと気恥ずかしそうに言う一平に「うちのせい?」と千代はますます機嫌を悪くする。

朝ドラ『おちょやん』一平は千代のことを真剣に好きなのか考える……結論。作家とか俳優はやばい
写真提供/NHK

甘えている男とその気持ちを返さない女のすれ違い。
ふたりがやいのやいの揉めていると、馴染みの芸子たちまでやってくる。劇団員たちも来て宴会に突入。

香里が料理屋の仲居じゃないとむくれるのに対して、千代は、テキパキと美味しい鍋をこしらえ、まず一平がそれを食べて「うまい」と喜ぶ。さらに千代はお酒の支度もし、一平が好きな古漬けをもってきて、香里に勝ち目のない感じを漂わせる。

小柄で健気に見える千代がニコニコしながら繰り出すマウント。内心、一平のことを憎からず思っているからこそのこの行為ながら、千代はまだ自分の気持ちに気づけていないところが微笑ましい。恋はこういう過程が面白い。

そこへ、熊田(西川忠志)と、いつもドアップの大川社長(中村雁治郎)がやって来て、社長は一平に父・天海天海を襲名せよと提案するが……。一平の気持ちは本当に読めない。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami