『おちょやん』第18週「うちの原点だす」

第86回〈4月5日(月)放送 作:八津弘幸、演出:小谷高義 〉

朝ドラ『おちょやん』大阪に空襲 安置所に眠る菊と福松と対面する千代たち
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

大阪大空襲

1945年3月13日、大阪に大空襲があり、道頓堀が燃えた。そのとき、千代(杉咲花)一平(成田凌)は京都で舞台の初日を迎えるところだった。

【前話レビュー】ついに道頓堀に空襲が……岡安は!? シズは!? 無事を祈りつつ次週へ

話を聞いて急ぎ駆けつけると、福富のあった場所が跡形もなくなっていた。
どこもかしこも丸焦げで、場所も判然としないが、蓄音機があったので福富とかろうじてわかる。「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おちょやん」Part 1に、大正12年頃のおちょやんの舞台としての道頓堀の地図が載っていて、福富と岡安はものすごく近所に位置している。2軒の間に足袋屋と民家があるだけ。

千代が焼けた福富から岡安のほうに向かうと、岡安の玄関にあった大きなたぬきが焼けて転がっていた。建物は燃えてはいるものの、柱や屋根はかろうじて残っている。そこに通りがかった人に千代は尋ねる。


「岡安のご寮人さん、どないしたはるかわかれしまへんやろか?」
「ああ、町外れにでけた遺体の安置所やわ」

いかにも、まさか、シズが? と心配になる返答である。

その安置所に向かうと、亡くなっていたのは――
菊(いしのようこ)福松(岡嶋秀昭)だった。

Q:疎開したはずのふたりがなぜ?
A:疎開先で、大事な福富の暖簾を置いてきたことに気づいて、ふたりで取りに来て、不運にも巻き込まれたから。

Q:そんなに大事な暖簾をなぜ忘れるの?
A:昨年、桐箱に入れ替えたことを忘れて置いてきてしまったから。

菊の大事な暖簾は彼女の遺体にかかっていた。福富は早々に芝居茶屋を辞めて音楽喫茶に事業替えをしたものの、菊は老舗芝居茶屋・福富のことをずっと大事に思っていた。
ことさら口にはしない彼女の意地を、シズ(篠原涼子)が受け継ぎますという話はそこだけ切り取れば、哀しいけれど良い引き継ぎの話になっている。

疎開しないと意地を張っていたシズが菊の懸命な説得のおかげで生き残り、「死んだらしまいや」と生きることを説いた菊のほうが亡くなってしまう。かくも運命とは残酷なものなのか。たしかに現実にもそんなありえないことがある。哀しいとはそういうときこそふさわしい。

構成の点から見ても巧みである。
途中まで、シズが空襲に巻き込まれたのではないかと心配で続きが気になる工夫にもなっている。こうなるかと思っていたことが意外な展開に。みんな大好きドンデン返しの一種である。

朝ドラ『おちょやん』大阪に空襲 安置所に眠る菊と福松と対面する千代たち
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』大阪に空襲 安置所に眠る菊と福松と対面する千代たち
写真提供/NHK

朝ドラ国防婦人会的な見地(うるさいものの見方)で考えると、よくまあうまく辻褄合わせをするなあ、千代並みにほげた(口)が達者だなあと感心する。デリケートな戦争や死の話にドンデン返しを仕込むことに対する葛藤があってほしい。仮に、作り手に戦争を題材として伝えたいことがあるとしても、それよりも、シズの安否というフックのほうが勝って見えてしまうのである。
本当に巧いドンデン返しとは、事情を事情に見せずに豊かな物語に変えることであろう。

みつえと一福、千代の家に居候になる

天王寺の千代と一平の家は空襲を免れた。そこにみつえ(東野絢香)一福(歳内王太)が居候することになる。疎開は義父母が亡くなったのでとりやめたようだ。福富の後始末や福助を待つためというアンサーがされていた。かつて、千代の奉公先のお嬢さんだったみつえが千代の家に居候することになる人生のドンデン返し。

菊の死とはいえ、千代の「ほんまに人生は何が起きるかわからへんな」が染みる。


千代は、一平に芝居の本を書くように言う。劇団員はちりぢりになって連絡がとれないので(けっきょく、京都で芝居はできなかったのだろうか)。千代と寛治(前田旺太郎)と一平と3人でやろうと千代は考える。

すると寛治は満州に行くと言い出す。慰問団に入って芝居で兵隊さんを励ますために。だが一平は。
日本の負けを予想し、満州に行くことを心配する。一平の予測はみごとに当たり、満州は大変なことになるわけで、それは2019年放送の大河ドラマ『いだてん』第39回に詳しい。杉咲花が演じていた、金栗四三の弟子であり、震災で陸上の夢を叶えることなく亡くなったシマの娘リク(杉咲花二役)の夫・小松(中野太賀)の満州での顛末は、戦争と笑いを突き詰めた名作である。

それはそうと、猫とかめ(楠見薫)が燃えてないか心配!

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami