現実世界でゲームの登場人物となってフィールド内を歩きまわり、会話や戦いなどを行いながらストーリーを楽しむ体験型ゲーム「LARP」(Live Action Role-Playing)。例えるならばリアルTRPGのようなもので、いわゆるリアルゲームの一種だと言えます。
欧米では大規模なイベントが開催され、盛り上がってきているLARPですが、日本では注目度が高まっている一方で、遊ばれている場所がまだまだ少ないのが現状です。

そんな中、ホラーイベントを多数手がける「方南町お化け屋敷オバケン」は、2016年12月23日に阿佐ヶ谷のTRPGカフェ「DARKGAME」で、クトゥルフ神話をモチーフとしたLARP「生贄たちの挑戦~狂気の館から脱出せよ~」を開催しました。

このイベントは「オバケン」と国内でのLARP普及活動を展開する団体「CLOSS」とのコラボレーションによって誕生したもの。日本にてLARPが商業店舗で開催されるのは今回が初めてで、その注目度の高さと1日限定の特別開催ということもあって、告知すぐさまチケットは完売。今回はその現場を実施に取材してきましたので、体験レポートをお届けします。

◆表の顔と真の目的

まずは参加者全員にゲームマスター(以下、GM)からルールの書かれたハンドブックと、ロールプレイをするプレイヤー・キャラクター(以下、PC)の情報が書かれたカードが渡され、基本的な設定とゲームのルールが説明されました。
ルールはオリジナルのもので、全体的には親戚であるTRPGのルールに近い印象。テーマ的にも「クトゥルフ神話TRPG」の影響が感じられ、同作に親しんでいる人であればそのイメージで遊べるようになっています。

なお、各キャラクターにはクラスが割り当てられており、チケット購入時にクラスを選択するという仕組み。各クラスに設定されているスキルは、特殊な行動をするために使用します。例えば宝箱を空けるには「鍵開け」のスキルが必要ですが、その宝箱の中にあった古い地図の内容を解読するには「考古学」のスキルが必要になるため、ゲームを上手く進めて行くためには連携が重要になるのです。

■クラス
●学生(スキル:隠す、科学)
あなたは、都内大学に通う大学生だ。
1年前にこの館の近辺に家族旅行に来たことがある。あなたは誰かを探していた。大切なあの人は、きっとこの館の近くにいる───目撃情報をもとに、この地へと足を踏み入れるあなたの決意は、決して揺らがない。

●探偵(スキル:鍵開け、鋭敏感覚)
あなたは、新宿に探偵社を構える探偵だ。過去にいくつもの難事件を次々と解決して来たあなただったが、1年前からほとんどの仕事を断り、ただひとつの事件を追い続けている。その形相はまさに、鬼の如く───

●刑事(スキル:鋭敏感覚、科学)
あなたは、都内外れの署に勤務するしがない刑事だ。
しかし2年前、幼馴染の友人が突然と姿を消した。幼馴染の書き置き、その胸騒ぎに、刑事としてのカンが「危険」を伝える───あなたは長期休暇届けを出し、幼馴染の捜索に乗り出した。

●考古学者(スキル:考古学、オカルト)
あなたは、学会ではまだまだ無名の考古学者だ。様々な分野の中でも「宇宙的生物の存在」について研究を進めるものの、決定的な証拠は未だ見つからず苦戦している。学会に認めてもらうためには、様々な調査が必要だ。あなたは調査の末、この館の付近へと足を伸ばした。


●軍人(スキル:機械、隠す)
あなたは、世界各国で傭兵家業を請け負う機械対応専門の傭兵だ。2年前までアフリカで仕事をしていたが、とある事件をきっかけに部隊は解体され、呆然としながら母国である日本へと戻ってきていた。しかし忘れようとすればするほど、あの事件の悪夢はあなたを夜毎悩ます。2年の月日が経ち、あなたはようやく「ある決意」をする。手がかりを掴むため向かった先は、この館だった───

●犯罪者(スキル:オカルト、鍵開け)
あなたは、古道具屋を営む店主だ。細々と稼ぎながらも、様々な買い付けを行うため日本全国を転々と動いている。
そこへ、なんとも奇妙な話を聞いた。「あの館には、非常に歴史的な価値のある家具があるらしい」……おやおや、面白い。あなたは新たな商いのため、この地へと足を踏み入れた。

●占い師(スキル:占い、オカルト)
あなたは、水晶によって過去と未来を占うことができる占い師だ。その力は確かで、昨今少しずつ名が売れ始めている。たまたまこの近辺に旅に出ていたが、ふと、視界に入った大きく古い屋敷が気になった。
そして気がつけば、その足は館へと向かっていたのだ───

●医者(スキル:医術、科学)
あなたは医者だ。今までに何人もの命を救い、感謝されてきた名医である。しかし気がつくと、あなたはこの館の中に立っていた。そして7名の「訪問者たち」が入り込み、ドヤドヤと部屋を勝手にいじり始めた。どうにも不愉快だが、自分も協力した方が良さそうだ。

さらに、本作には「マスカレイドシステム」と呼ばれるルールがあり、各PCには「表」と「裏」の顔が設定されています。例えば表向きは「会計士」というクラスだが、実は凄腕の「暗殺者」で、今はターゲットを追っているところである――といった感じで、どのPCも2つの顔を持っています。

実はゲームの目的にも表裏があり、表の目的は「死なずに洋館から脱出すること」、そして裏の目的は「マスカレイドシステムに書かれている真の目的を達成すること」なのです。裏の設定・目的は明かしても明かさなくてもOK。中には個人での達成は難しそうなものもあり、このシステムからも自然と協力が生まれるようになっています。

続けてプレイする上での注意事項の説明が行われました。LARPはTRPGとは異なり、実際に体を動かしてロールプレイをする必要がある関係で、安全対策が必要不可欠。今回のイベントではPCもNPCも一切接触禁止となっており、非常に丁寧な説明で安全に気を配っていることが伝わってきました。

そして説明の後は、いよいよゲーム開始。GMに連れられ、一同は会場内へ移動します。(ストーリーのネタバレを防ぐために一部内容を変更しています。)

◆その行動、SAN値チェックです

物語の舞台は現代の日本にある洋館。集まった9名のPCたちは、それぞれの事情で嵐の中、この怪しげな館に迷い込んできたという設定です。そしてどこからともなく「館の主」と名乗る怪しげな声の男が、「自己紹介でもしながら、くつろいでくれたまえ」と姿を見せずに語りかけてきました。

というわけで、嵐の中に戻るわけにも行かず、PCたちはぎこちなく自己紹介を開始。それぞれが自分の名前に加えて職業と洋館に来た経緯を語っていきました。ちなみに、各自目的を抱えているはずですが、ここではまだ誰も明らかにしませんでした。

■筆者のクラスについて
一般PC用のクラスを使用してしまうとネタバレになってしまうため、筆者は今回の取材のためだけに用意された特別なクラス「記者」をロール。すごくいい表現を使えば、トレジャー・ハンター的なイメージでしょうか。

●表の顔
オカルト情報誌「月刊メー」の記者。取材の途中に洋館に迷い込んだ。

●裏の顔
実は魔法のかかった品々を手に入れて売りさばくためにやってきたというかなり怪しい男。

●スキル
・鍵開け
・オカルト(魔法めいた怪しいアイテムの鑑定や秘められた暗号の解読などができる知識)

館の主に言われるがまま自己紹介をした一行は、言い表せぬ不安を感じながら部屋の探索を開始。すると、すぐさまGMから「ストップ」という号令が発せられました。これはGMが演出を行う時にかけられるもので、その場にいるPCたちは、GMから再開の号令「タイムイン」があるまで動きを止めます。どうやらPCの一人が空けた箱に罠が仕掛けられていたらしく、「あなたは箱から飛び出してきた刃で重傷を負いました」という演出が入りました。

負傷したPCの手には出血を現す特殊メイク用の傷シールが貼られ、ダメージ処理を行った後に「タイムイン」。本作には部位ダメージの概念があり、特定の部位に一定のダメージを受けると痛みで(ゲーム内では)身体が動かせなくなってしまうのです。ちなみにダメージをたくさん受けると死亡し、それ以降は会場の隅に漂う魂(見学者)となるのだとか。

彼をこのまま放置すれば死亡してしまう可能性があるため、「この中にお医者さんはいませんか!?」的なやり取りの後、応急処置のスキルを持った「医者」のPCが部屋にあった救急セットを使って治療。腕には包帯が巻かれました。

適当に触った箱で重傷というデッドリーな仕様に驚かされていると、今度はゲーム内で判定が必要な時にかけられる「チェック」の号令が。PCの一人が「謎めいた魔術書」を発見したため、いわゆるSAN値チェックが入りました。

■SAN値チェック
本作では「恐怖チェック」と呼ばれており、失敗すると我壊値(正気)が減少。時には「一時的狂気」と呼ばれるパニック状態となり、様々な症状がPCに3分間発生するというルールも用意されています。

■判定について
多くのTRPGでは判定にダイス(サイコロ)を使用しますが、今回のゲームではトランプを使用します。自分の我壊値以下の数字を引くか、その恐怖に該当するスート(絵柄)を引くことができれば成功です。

今回は判定に成功し、その魔術書を調べることに。どうやらその魔術書は本物であり、読み上げると幾つかの魔法が使えることが判明しました。これは真の目的を達成するために確保しておきたいアイテムですが、盗みのスキルがあるわけではないので、この場で拝借するのはかなり困難……どうにかしなくては。

一旦魔術書の確保を保留し、私も何かを発見しようとアイテムを物色しているところで「フリーズ」の号令。こちらは「突然悪霊が現れた」「床穴が空いた」など、一瞬のうちに変化が起こる事を表現するための号令で、プレイヤーは目を閉じなければなりません。その間は専用のBGMが流れ、小道具の配置が変わったり、NPCが出入りします。そして「タイムイン」の号令と共に目を開けると、私たちの目の前に突然バラバラになった死体が登場し、全員で「恐怖チェック」。幸いにして私は無事でしたが、何名かが判定に失敗し、精神的にダメージを受けてしまいました。

「この部屋は一体何なんだ……危ないけど上手く持って帰ればリッチになれる!」なんてことを考えながら動いていると、またも「フリーズ」。そして「タイムイン」と「ステイ」の号令が。「ステイ」は身体は動かせないけれど、目は開けることができ周囲の状況は見られる状態。TVゲームでいうムービーシーンのようなイメージですね。すると「名状し難い者」が目の前に出現。恐ろしい叫び声と耐え、そして難い異臭を放つその怪異は、なんと我々PCを全員惨殺! なんという初見殺し!!

GMから目を閉じるよう指示され、そのまま待っていると、謎めいた男の声が聞こえてきました。その男は「この儀式が完成の時を迎えられるとは……クックックッ……こいつらに与えられた短い時間で止めることは無理に決まっている……」と満足気に語っているのですが、一体どういうことなのか……死んでしまった我々の運命は!?……と、いったところで一旦休憩&作戦会議タイムに。一旦部屋から出て休憩をとりながら、発見したアイテムや起こったことをおさらいしていきました。

◆動き出すトレジャー・ハンターたち

休憩を終え、再び会場へ。「タイムイン」の号令と共にゲームが再開されると、部屋にあった檻の中に女性が現れました。彼女はこの館に長年捕らわれており、ここは「あの男」が殺人を楽しむ場所であることが判明。それを見かねた彼女は、我々が殺される度に時間が戻るような結界を張り、そのおかげで我々は生き返ったのだとか。さらに彼女は、「その結界は後何回持つかわからないので、我々が生きて帰るためにもなるべく早く『あの男』の企みを阻止してほしい」と頼んでくるのでした。

そしてここで「フリーズ」&「タイムイン」。すると彼女の姿は消えていました。とりあえず、一定の時間の中で頑張る必要があることは分かったものの、「あの男」とは一体何者なのか、そして何を企んでいるのかは不明なまま。まずはそれを探る必要がありそうです……が、私は何より高値のアイテムをゲットしてリッチにならなければなりません!

罠に掛からないよう慎重に行動をしながら、アイテムを物色。いくつか目ぼしいものを見つけるも、これを他のプレイヤーに伝えてしまうと拝借しづらいので、こっそりGMを呼んではスキル「オカルト」を使ってアイテムを鑑定し、そっと戻すことを繰り返します。ただ、いくら鑑定してもそれを持ち帰らねば意味がありません。そこでスキル「隠す」(他のPCからアイテムを見えない形で持ち運べる)を持っている学生に「ここを生きて抜け出したら分前を与えることを約束する」とこっそり耳打ちをして結託。目ぼしいアイテムを隠してもらいました。

さらにその過程で、同じく高価なアイテムを持ち帰ろうという同業者を発見。そしてここに3人の盗賊……ではなく、トレジャー・ハンターのチームが人知れず結成されました。

「魔法のアイテムはどんどんしまっちゃおうね~」といった具合に、協力して回収を続けていったのですが、ここで問題発生。他のPCがこの部屋に隠された謎を発見していくに連れ、我々のチームが回収した物のいくつかが、さらなる謎を解明するのに必要なアイテムであることが判明したのです。

そこで隠したアイテムをあたかも今見つけたかのように取り出し、他PCの注意がそれた隙きを見ては隠す――を繰り返し、生存とリッチの両立を目指すことに。しかし、これらの行動を他PCに怪しまれてしまい、少しずつ警戒されていきます。「大丈夫、ただ俺たちはリッチになりたいだけなんだ」と思いながらも、PCには「刑事」などもいるので、「もしかしてもしかすると、私の犯行現場を抑えるのが真の目的なのでは……」などと疑心暗鬼になった場面もありました。

そんなこんなで何度も怪異に殺されては復活を繰り返し、怪しまれつつも他のPCと協力して謎を解き、恐るべき狂気に立ち向かって「あの男」の野望を打ち砕き、(アイテムを拝借しつつ)洋館から無事に生還することに成功したのでした。(ネタバレを防ぐために、後半戦はだいぶ端折ってあります。ご了承ください。)

最後にゲームをクリアしたPCには素敵な封蝋の付きの手紙(内容は秘密)が渡され、各PCの「真の目的」も発表されました。私も同業者と共に、実は魔法のアイテムを狙っていた事を明らかにし、手に入れたものを公開。さらにそこで、私は別のタイミングで入手したアイテムを学生と同業者には内緒で隠し持っていたことを白状。これが悪党の生き様よ!きっと私は、今回の冒険(?)で財を成したものの、目にした数々の凄惨な場面を思い出し、悪夢に悩まされながら生きてゆくことでしょう……。

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

こうして初めてのLARP体験は終了。体験時間は3時間ほどで、体を動かしてのロールプレイはTRPGに比べて一段回難しいだろうと思っていましたが、実際にやってみると思ったほど困難ではなく、普段TRPGをやる私としては非常に新鮮な体験でした。TRPGでは口頭でできる「私のPCは素早いネック・スプリングで起き上がり体勢を立て直しました」的な描写をLARPでやるのは難しいかもしれませんが、むしろPCの細かな動きはTRPGよりも直感的に表現しやすいかもしれません。

また、今回のイベントではTRPGと「人狼」に代表されるような正体隠匿型のゲーム、そして脱出ゲームが組み合わさったような、緊迫感のあるゲームでした。行動の自由の幅が大きかったこともあり、最初は何をしようか戸惑いましたが、話が進んでくるに連れて目的が定まり、PCたちの間に連携が生まれていくのが楽しかったところ。部屋の内装、小道具が共に作り込まれていて、さらにお化け屋敷を長らく運営してきた「オバケン」のイベントということもあって、モンスターの描写も叫び声も一級品でした。

そしてなにより、実際に顔を合わせて同じゲームで遊ぶというアナログゲームに共通する根源的な楽しさが、これでもかというくらい存分に味わえるもので、LARPはぜひまた遊んで見たいと思うものでした。