一夜のうちに出現したバンクシーのディストピア風ショールーム。その目的は?(イギリス)


 世界各地でゲリラ的活動をしている覆面アーティストのバンクシーは、風刺的でユニークな作品を手掛けるアーティストとして有名だ。

 今年5月には、イタリアで開催された国際美術展に招待されなかったことを皮肉った作品を動画で公開し、話題になった。


 また、去年10月には彼の代表作「Girl with Balloon(少女と風船)がサザビーズのオークションで落札された直後、額に仕掛けてあったシュレッダーによって半分裁断されてしまうというショッキングな事態が発生し、こちらも世界的ニュースとして伝えられた。

 次から次へと突拍子もなく、新たなレベルにチャレンジし続けるバンクシー。今回は、イギリスのロンドン南部で「ディストピア風ショールーム」をオープンしたことで、早くも話題になっている。

 一晩のうちに築かれたバンクシーのショールームは、本人のインスタアカウントでも紹介されているが、単なる風刺的アートのディスプレイではなく、どうやらバンクシー自身の商標権を守るためにオープンしたようだ。
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GrossDomesticProduct™ - Banksy Installation

【期間限定でバンクシーのディストピア風ショールームがオープン】

 ロンドン南部クロイドンのサリー通りに、突如バンクシーのショールームが出現した。

 オープン期間が10月1日から2週間のみというこのショールームは、廃業した店舗スペースに設置されており、巨大なガラス窓を通してのみ作品を見ることが可能で、実際に中に入ることはできない。


 「Gross Domestic Product(GDP 国内総生産)」と名付けられたショールームの中を外から見てみると、「コーンフロスティ」で有名なトニー・ザ・タイガーが、リビングルームのカーペットとして犠牲になっていたり、

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 小さな木製の人形が貨物トラックの中から手を出す密輸業者に赤ちゃんを引き渡していたり、

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 多くのカメラがベビーベッドに向けられていたり、

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 山積みになったライフジャケットがウェルカムマットになっていたりと、意欲的なライフスタイルを提供するには程遠い、資本主義のディストピアの世界が描かれている。

 その他にも、イギリス人ラッパーのストームジー(Stormzy)が、今年の音楽イベント「グラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury Festival)」で、ヘッドライナーとしてパフォーマンスした際に着ていたバンクシー作ユニオンジャックの防刃ベストや、

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 ロンドンの文化施設バービカン・センターで展示されているジャン=ミシェル・バスキアの作品にヒントを得たとされる観覧車などもある。

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 しかしそれこそが、バンクシーの今回のテーマとするところで、このショールームは強制的な移民問題、動物の搾取、監視社会といった世界の主要な問題を風刺的に批判するためのステージとなっている。

【ショールームオープンの目的は商標権を守るため】

 バンクシーは、このショールームの背後にある推進力は「商標権争い」だと明かしている。

 あるグリーティングカード会社が、バンクシーの名称を使用する法的申請を行ったのだ。もし、認められればカード会社はバンクシーの名を使って、偽の商品を売ることが可能になる。


 バンクシーの弁護士マーク・スティーブンス氏は、このように述べている。

バンクシーは、彼自身の作品を商品としては販売していないため、難しい立場にあります。

法理は非常に明確で、商標権者が名称を使用していない場合は、それを使用する人に譲渡することが可能なのです。

 そこで今回、バンクシーは「商標を積極的に使用している」ということを示すために、このプロジェクトを思いついたそうだ。いわば、この店は彼の法的措置の場となっているのだ。

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【一部の作品を公式サイト上で販売予定】

 現在準備中の公式サイト『Gross Domestic Product』では、ショールームに展示されてある作品の一部の販売が、間もなく可能になるということだ。


 販売作品のラインナップは、警察機動隊が使用する暴動鎮圧用ヘルメットで作られたディスコボール、レンガで作られたハンドバッグ、またバンクシーの署名入りで一部使用済みのスプレーペイント缶など、ユニークなものが勢揃いする予定となっている。

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 今回のプロジェクトに関する声明の中で、バンクシーは次のように話している。

誰にでも買える価格を考えて、作品の販売価格は10ポンド(約1300円)からにしたが、アイテム数は限られている。

全ての作品は、イギリス製ハンドメイドもしくは各地でリサイクルされた素材を使用したものだ。

展示品の収入は難民へと寄付される予定だ。また、人形セットの販売収益は、イタリア政府が押収した移民救助船を再購入するためのサポート基金となる。


私は、今でも娯楽や学術研究、また活動のために私の作品をコピーして使用する人がいることを気に留めていないが、名前だけを勝手に利用されることは望んでいない。

 商標権争いといっても、自分の作品の収益を手にすることを目的とせず、アーティストとしてプライドをかけたユニークな方法で自身の作品を守り抜くバンクシー。「そういうところが彼らしい」と思うファンも多いことだろう。

 現在クロイドンの一角には、バンクシーが手掛けたディストピアな世界をガラス窓越しに一目見ようと、多くのファンが詰めかけているという。

References:Colossalなど / written by Scarlet / edited by parumo

記事全文はこちら:一夜のうちに出現したバンクシーのディストピア風ショールーム。その目的は?(イギリス) http://karapaia.com/archives/52283125.html