2016年4月に登場したPC接続型のVRヘッドセット「HTC VIVE」。VR体験施設などのエンターテイメント領域や産業、医療、教育といったビジネス領域など様々な場で活用がなされています。
本記事ではHTC VIVE系列のデバイスの紹介や特徴、各機種どういった違いがあるか、価格、目的ごとのオススメ機種などをまとめて紹介します。
目次1.HTC VIVE系製品には何があるか
-HTC VIVE
-VIVE Pro/VIVE Pro Eye
-VIVE Focus/VIVE Focus Plus
-VIVE Cosmos(未発売)
2.それぞれの違い
-PC接続か一体型かの違い
-法人向けか一般向けかの違い
-プラットフォームの違い
-価格の違い
3.何を買うべきか
-VIVE系列のスタンダードはHTC VIVE
-ハイエンド志向ならVIVE Pro
-VIVE Pro EyeやVIVE Focus2機種は用途に応じてセレクト
-気になる新型VIVE Cosmos
「HTC VIVE」は、台湾のスマートフォンメーカーであるHTCがゲーム配信プラットフォーム「Steam」を運営するアメリカのValve社と共同開発したPC接続型のVRヘッドセットです。2016年4月発売。棒状タイプの専用コントローラー「VIVEコントローラー」は、VR内で自分の手を動かしているように「物を掴む」「銃で狙う」などのアクションを行うことができます。
HTC VIVEの特徴は、VRヘッドセット装着者の頭や手の位置を認識し、VR内を自由に歩ける「ルームスケール」という高精度の6DoF(※)トラッキング機能です。
(※6DoF:向きと位置情報の両方を認識するトラッキング方式。回転のみ認識するトラッキング方式を3DoFと呼ぶ)
周辺機器の「VIVEトラッカー」は、装着した物の位置を正確にトラッキングすることができます。たとえば、腕や足に装着してより現実に近い動きをVRで表現できたり、棒やモデルガンに装着することで現実の物をVR内に持ち込むことができたりします。
VIVE Pro/VIVE Pro Eye
「VIVE Pro」は、HTC VIVEの登場から2年後の2018年4月に発売されたたPC接続型のハイエンド向けVRヘッドセットです。
VIVE Proは、HTC VIVEで利用可能であったルームスケールを拡大する新規格「ベースステーション2.0」に対応しており、6m×6mの空間を認識することができます。またベースステーションを4つに増やすことで、最大10m×10mのルームスケールを実現します。ベースステーション2.0を利用する場合は、対応したコントローラーやVIVEトラッカーが必要となります。
「VIVE Pro Eye」はVIVE Proに視線追跡(アイトラッキング)機能を実装したPC接続型のハイエンド向けVRヘッドセットです。
アイトラッキングにより、「眼球操作でのコントロール」「VR内のアバターにおけるより自然な人物表現」「ユーザーの視線データの取得」といったことが可能となります。またアイトラッキングを用いた、IPD(瞳孔間距離)を自動で検知するキャリブレーションサポート機能も利用できます。
VIVE Focus/VIVE Focus Plus
「VIVE Focus」は、上記で紹介してきたPC接続型と違い、PCやスマートフォンを使用することなく、単体でVRを体験できる一体型VRヘッドセットです。
VIVE Focusのトラッキングは、PC接続型のヘッドセットと同じようにVR内を自由に動くことができる6DoFトラッキングです。ヘッドセットの前面に搭載されている2基のカメラを通して位置を検知するため、ベースステーション等外部センサーを設置する必要はありません。
VIVE Focusにはリモコン型のコントローラーが付属します。こちらのコントローラーのトラッキングはジャイロセンサー等を使った回転のみ認識する3DoFとなっていますす。
「VIVE Focus Plus」は、2019年6月に発売された法人向けの一体型VRヘッドセットです。前機種のVIVE Focusと比較すると、新型レンズを搭載し、付属のハンドコントローラーが6DoF化するといった改良が行われています。
VIVE Focus Plusのハンドコントローラーは、2018年10月に開発者版が発表されたモデルの製品版です。超音波を使って物体の位置を測量する超音波トラッキングが採用されており、ヘッドセットに搭載されたエミッターが超音波を発し、その音波をコントローラー側のエミッターが受信することでトラッキングが機能します。
VIVE Cosmos(未発売)
「VIVE Cosmos」は、2019年1月に開催された 「CES2019」にて発表されたコンシューマー向けのPC接続型のVRヘッドセットです。
2019年7月時点で発売時期や価格などの詳細は明らかになっていませんが、PC接続型でありながら外部装置を使わずに、VIVEやVIVE Proのような高精度な位置トラッキングとハンドトラッキングを実現する、としています。
VIVE系製品は大きく分けると「ハイスペックなパソコン(PC)が必要/PCが不要」に分けることができます。
表にまとめると以下のようになります。
PC接続型
一体型
・HTC VIVE(要ベースステーション)
・VIVE Pro(要ベースステーション)
・VIVE Pro Eye(要ベースステーション)
・VIVE Cosmos(ベースステーション不要)
・VIVE Focus
・VIVE Focus Plus
PC接続型のヘッドセットは、VRゲームやアプリ等をPCで動作させ、ヘッドセットで描画する仕組みです。処理能力はPCに依存するため、一定以上のマシンパワーが必要となります。また、ベースステーションが必要な機種はセットアップにその設置が含まれるため、移動などには向きません。
一方、一体型はこれらの処理をヘッドセット単体で行います。PCが不要な分手軽にVRを体験できますが、PC接続型と比較した場合に処理能力が劣ってしまうという面もあります。
法人向けか一般向けかの違い次に大きな違いとして「法人(エンタープライズ)向け/一般(コンシューマ)向け」があります。2019年7月現在、「VIVE Pro Eye」「VIVE Focus」および「VIVE Focus Plus」は法人向けに販売されており、原則として一般向けには販売されていません。
法人向け
一般向け
・VIVE Pro Eye
・VIVE Focus
・VIVE Focus Plus
・HTC VIVE
・VIVE Pro
・VIVE Cosmos(法人にも対応するかは不明)
また、法人ユーザーは商用利用ライセンス「VIVE ENTERPRISE 向けアドバンテージパック」を購入することで、各種デバイスの商用利用が認めらます。
プラットフォームの違いVIVE系製品は、Valveが運営する世界最大のPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」、HTCが独自運営するVRコンテンツ配信プラットフォーム「Viveport」という2種類のアプリケーション配信プラットフォームに対応しています。
表にまとめると以下のようになります。
Steam
Viveport
HTC VIVE
○
PC版
VIVE Pro
○
PC版
VIVE Pro Eye
○
PC版
VIVE Focus
-
モバイル版
VIVE Focus Plus
-
モバイル版
VIVE Cosmos
○
PC版と推測
SteamはPCゲーム配信プラットフォームということもあり、VRゲームを中心に3,400以上のコンテンツが配信されています。
Viveportでは、ゲームだけでなく、アートやクリエイティブツール、デザイン、教育、ファッション、ミュージック、スポーツ、トラベルなどといった様々なVRコンテンツが配信されています。定額制のサブスクリプションサービス「VIVEPORTインフィニティ」も提供されており、600本以上のゲームやアプリを無制限に利用することもできます。
価格VIVE系製品はVIVE公式サイトほか国内正規販売店で販売されています。各ヘッドセットの価格は以下の通りです。
・PC接続型
価格(税抜)
HTC VIVE
64,250円(フルセット)
VIVE Pro
162,880円(ベースステーション2.0同梱のフルセット)
133,000円(ベースステーション1.0同梱のスターターキット)
94,000円(ヘッドセット単体)
VIVE Pro Eye
186,120円(フルセット)
VIVE Cosmos
未発表
また、PC接続型ヘッドセットを動作させるためには一定上のPCスペックが必要となるため、15万~20万円前後のPCが必要となります。
HTC VIVE公式サイトに記載されている推奨PCスペックは以下の通りです。
HTC VIVE
VIVE Pro(VIVE Pro Eye)
プロセッサ
Intel Core i5-4590、AMD FX 8350、または同等クラスのCPU以上
Intel Core i5-4590もしくは AMD FX 8350 の同等品またそれ以上
グラフィクス
NVIDIA GeForce GTX 1060、AMD Radeon RX 480、または同等クラスのGPU以上
NVIDIA GeForce GTX 1060 もしくは AMD Radeon RX 480の同等品またそれ以上
エンタープライズVRソリューションを最適なグラフィックで利用するには、NVIDIA GeForce GTX 1070/Quadro P5000以上、もしくはAMD Radeon Vega 56/Pro WX7100/FirePro W9100以上のグラフィックを推奨
メモリー
4GB RAM以上
4GB RAM以上
ビデオ出力
1x HDMI 1.4ポートまたはDisplayPort 1.2以上
DisplayPort 1.2以降
USB
1x USB 2.0ポート以上
USB 3.0 以降 1口
オペレーティング システム
Windows 7 SP1、Windows 8.1以上、Windows 10
Windows 8.1、Windows 10以降
・一体型
価格(税抜)
VIVE Focus
66,750円
VIVE Focus Plus
89,750円
3.何を買うべきかVIVE系列のスタンダードはHTC VIVE
VIVE系製品の中で「まずVRを体験したい」という方には「HTC VIVE」がオススメです。HTC VIVEはスタンダードでありながら、VR内で自由に動くことができるVR体験が可能です。映像は一体型のVRデバイスなどと比較しても段違いで美しく、コンテンツもSteamとViveportに対応しているので豊富なラインナップが揃っています。
ハイエンド志向ならVIVE Pro
「より高品質なVRを体験したい!」という方は「VIVE Pro」がオススメです。特に広範囲のトラッキングにこだわらない人のための「スターターキット」も用意されています。
VIVE Proは、HTC VIVEと比較して解像度や装着感、オーディオ機能が向上しています。HTC VIVEと比較しながらVIVE Proの各特徴を見ていきましょう。
VIVE Proの解像度は、HTC VIVEから78%向上した2880×1600です。ピクセル密度もHTC VIVEから37%向上し、615ppiになっています。これにより、VR内の映像がより鮮明に見えるようになり、文字なども見やすくなっています。
VIVE Pro
HTC VIVE
ディスプレイ
対角3.5インチ 有機EL×2枚
対角3.6インチ 有機EL×2枚
解像度
2880×1600
2160×1200
ピクセル密度
615ppi
448ppi
リフレッシュレート
90Hz
90Hz
視野角
110度
110度
またオーディオ機能に関しては、HTC VIVEにはヘッドホンが付属しておらず、アクセサリとしてデラックスオーディオストラップを購入・換装する必要がありました。VIVE Proでは、ハイレゾ対応のヘッドホンがヘッドセットに一体化していています。マイクもディアルマイクとなり、ノイズキャンセル等も実装されたことでVR内での会話などで快適にコミュニケーションできるようになっています。
(VIVE Proではデラックスオーディオストラップをベースとした新デザインを採用。後頭部には大きなスポンジクッションもあり、装着中も快適に)VIVE Pro EyeやVIVE Focus2機種は用途に応じてセレクト
視線追跡の機能を使いたい場合にはVIVE Pro Eyeとなります。視線追跡は一部の対応コンテンツしか動作しないため、一概に「アイトラッキングが搭載されている方がいい」わけではないことにご注意ください。
また、一体型の2機種は、手を自由に動かせるかどうかがポイントになります。手を自由に動かしたい場合はVIVE Focus Plusを、手を動かす必要がない場合はVIVE Focusを選びましょう。
気になる新型VIVE Cosmos
ここまで紹介してきた中で、VIVEシリーズの位置づけを大きく変える可能性があるデバイスが未発売のVIVE Cosmosです。PC型なのでHTC VIVEと同系統となりますが、ベースステーションが不要なため、非常に手軽にVR体験ができるようになります。
2019年6月後半から、VIVE Cosmosの徐々に情報が公開されています。執筆時点までに、ヘッドセットのデザインおよび内蔵ディスプレイのスペックが明らかになっています。
VIVE Cosmosの内蔵ディスプレイには、LCD(液晶ディスプレイ)が採用されています。解像度は2880×1700(左右のディスプレイの合計)です。この解像度はHTC VIVEの2160×1200と比較して解像度ベースで88%向上しており、本来高解像度がウリだったVIVE Proすら凌駕します。
CES2019での発表では、トラッキング用のカメラは前面2基、側面に左右1基ずつの4基でした。最新版のデザインでは、トラッキング用カメラが前面に2基、左右に1基ずつ、上下に1基ずつと計6基のカメラが搭載されています。トラッキングできる範囲を広げつつ、認識の精度を高めるためと推測されます。また、フロントパネルのデザインはメッシュに変更。これはエアフローを改善して排熱等を促すためと考えられます。
今後もVIVE Cosmosに関する情報が発表されることが予定されており、動向に注目が集まります。