まだまだ車がごく一部のお金持ちのモノだった時代。自転車での旅はフランス国内で大流行し 、シクロツーリズムというフランス独自の自転車文化が開花した。この当時の自転車屋というのは、メーカーの吊しの自転車を販売するのではなく、オーダーメイドが基本。乗る人の手足の長さから用途に合わせて、フレームのサイズや角度を決めていき一つ一つ作っていく。
1938年当時から変わらないブティック。
この時代は星の数ほど、そういったオーダーメイドの自転車メーカーがあった。
例えば、ハンガリーからの移民のエルネスト・スューカがいた。彼の脚力はプロにも劣らないもので、アマチュア競技でサンジェに乗ったエルネストは何度も優勝を重ねていった。メーカーとしてのアレックス・サンジェはこの頃すでにトップメーカーとなっていた。元々体の弱かったアレックス・サンジェ氏は、このブティックをエルネストと弟のローランに譲った。
ブティックにはエルネストの乗った自転車や、自分たちの自転車を展示している。基本的にオーダーメイドなので吊しの商品はない。中古はあるがサイズが合うかなど中々悩ましい。
初期の彼らの作った自転車は、ブレーキも独自のパーツでフレームやフォークに直付けされた一点物。「ブレーキを買うお金が無かったからね」そういうのはエルネストの息子、オリビエ ・スューカ。
カーボン全盛の中で、今でもスチールバイクを作り続けている。「決して軽いわけではない。でも長距離乗ったときにスチールフレームの良さが分かる。
2か月前に入ってきた新人のメカニックと電動自転車を組み上げていくオリビエ。
ここ数年の自転車ブームの再来で新しい、いわゆるフレームビルダーがあちこちで誕生している。新時代の自転車が生まれてきている。
アシスト無しで走ったときにサンジェの乗り味がきちんとあり、必要なときにアシストを使うとその味を残しながら快適にすいすいと走ることが出来る。ほんの少しだが試したところ、アシストのかかり方が程よいのだ。まるで漕いでないくらい軽いのに、グイグイとスピ ードが上がるというのではなく、ほどよく抵抗がありしっかりと漕いでいる感覚がある。気がつくすっかり進んでいるのだ。なるほど、これなら自転車に乗り慣れている人が乗っても違和感なく乗れるし、何より楽しさがある。通りで、オリビエが予想以上に気に入っているわけだ。
バッテリーはキーを使用してロックできる。取り外して充電。満タンの充電でどのくらい走ることが出来るか?それは使い方による。上り坂ばかり、例えばツールドフランスの山岳コースを攻めたとき、町中をゆっくりながすとき、普段はアシスト無し、時々使うだけ…様々な使い分けが出来る。一般的な使い方で50kmほどだという。
こちらも基本的にオーダーになるので、好きな色を選ぶことが出来る。フレームは二種類。トップチューブのある一般的なフレームと、ミキストと呼ばれる女性でも乗りやすいフランスのママチャリだ。どちらかのフレームを選んで、ハンドルのタイプを選んで荷台はどうするか?泥よけはどうするか?などと自分だけの一台をオーダー出来るのだ。
ミキストと呼ばれるいわゆるママチャリスタイル。女性でも乗りやすい 。
フレームに使われるパイプは英国のレイノルズ。自転車のパイプは接合部分はやや厚く、中間は薄くなっている。その薄さやテーパーの かかり具合でしなり方、重量が変わる。レイノルズはこのチューブの老舗であり、大戦中はスピットファイアなど航空機のフレームとなるチューブを製造。この手の自転車の中で伝説と言ってよいレイノルズ531。これは自転車用でありながらも、爆撃機にも使用された銘品だ。そんなレイノルズの525。クロモリ鋼のチューブで531を受け継いだ現代のスタンダードチューブ。それを使用している。
サンジェはこのレイノルズを使い続けている。伝統とテクノロジーを融合させ、フランス製にこだわってフランスのCAVALE社との提携で誕生した新世代のサンジェ。プジョー508、いや、新生アルピーヌと共にガレージに一台。自転車でなければ見られない風景に気軽に触れられるのが、このサンジェのアシスト自転車なのだ。