三菱食品・小野瀬卓取締役常務執行役員

――足元の冷凍食品市場環境

冷凍食品市場全般は昨年も1.5%ほどの成長と見ており、まずまずだと思うが、配送費・倉庫経費・人件費がかさむとともに、原材料の水産・畜肉や、資材・包材のコストが上昇し、卸もメーカー様も総じて収益は厳しい。

市販用は、米飯、麺類、唐揚げ、餃子など主力カテゴリーで5%以上伸びたものもあり、全体でも2%強の伸びと堅調だった。
昨年は台風など自然災害が多かった。従来、災害対応では真っ先に水や即席麺などが必要とされたが、冷凍食品の出荷が予想以上であった事に注目したい。停電さえなければ、冷凍食品は極めて簡便で美味しい食品であると消費者に広く認知されているのだろう。

業務用も1.5%ほどは伸びたが、消費増税が外食に悪影響を与えた他、働き方改革で早く帰宅する人が増え、特に居酒屋業態にはダメージがあった。しかし一方、中食・惣菜は順調であるし、外食の中でも好調な企業は数多く存在する。又、高齢化が一段と進むに伴い医療・介護給食向けの配食は今後も大きく伸長するだろう。


当社低温事業の業績推移は市場全体の傾向と同じく、売上はまずまずだが、物流コスト増を十分に吸収し切れておらず、又ここ数年積極的に先行投資した負担が重く、収益面では苦戦している。新たな物流施設や新規事業・ビジネスへの投資は収益寄与するまで、どうしても最低2~3年はかかる。将来の成長の為には、目先の業績にはマイナスでも、今の内に投資を行い、新たな事業の種を蒔いておかねばならないので、今後共、積極果敢に投資を継続するつもりだ。

――業界の課題について

今年は東京オリンピック・パラリンピックの開催や、日本の冷凍食品が100周年の節目を迎える年ゆえに各種イベントが目白押しである為、市場が更に一段と拡大することは確実だろう。冷凍食品は全食品カテゴリーの中でも持続的成長が確実であり、それ自体は結構なことだが、今後、増加する物量を支える為の物流が大きな課題だ。現在も業界を悩ましている物流コストの上昇は長期的な懸念材料と覚悟しなければならないが、それに留まらず、物理的なキャパシティ(保管能力・配送能力)を深刻に心配せざるを得ない状況になりつつある。


現在の冷蔵倉庫の庫腹不足は、日欧EPA、TPPに続く日米貿易協定による関税引き下げを想定した、畜肉品などの輸入増加が主要因とされるが、冷凍食品の物量増に庫腹の増加が追い付いていない点は深刻であり、それ故に庫腹不足は一過性の事象と言えない。特に首都圏では倉庫の立地に適した土地の価格が大幅に高騰している上、建築資材・建設費が高値のままであり、冷蔵倉庫を新設しても現行料率では収益を見込む事が到底難しい。それゆえ新設が見込まれる冷蔵倉庫の物件は非常に少なく、今後益々庫腹不足が深刻化する事は確実だ。

既存の倉庫についても、安泰ではない。冷凍庫内では-20℃の過酷な環境で作業を行う為、今後一層、作業員の確保が至難になってくる。もはや時給を上げた処で、作業員を集める事は容易ではない。
先日、某倉庫会社の作業員が一度に大量に離脱するという事態が発生し、改めて冷蔵倉庫に於ける労務リスクを痛感した。庫内作業は極力、自動化する事が否応なしに必要になるし、その為には倉庫会社だけでなく、製配販三層を挙げて従来の業界慣習・ルールを見直し、パレット納品の標準化や検品作業の自動化・省略、ロボット機器の導入等、出来る限りの機械化・自動化を推進しなければならない。

〈食品ロス削減の流れで生鮮・惣菜のフローズン化も〉
そして庫腹不足と並び、というより更に深刻な問題が、配送ドライバーの不足である。工場や倉庫の現場では、外国人の起用比率が高まっているが、免許取得がネックになり、ドライバーは依然、殆どが日本人なだけに、ドライバーの確保が非常に困難な状況だ。現役ドライバーの多くは高齢者である為、このままだと近未来、確実に現在の物量ですら配送出来ない事態が来る。配送時間帯の見直しや、庫内待ち時間短縮等に急ぎ取り組むべきだし、外国人材のドライバー起用を容易とする規制緩和も必要だろう。
只、日本は30年間安売り一筋に走り、デフレが慢性化した結果、賃金水準が先進国は元より、アジア各国にも追い付かれてしまったので、日本に働きに来る外国人は減少するかもしれない。今や日本は、アジアから働きに来る国ではなく、観光に来る国になりつつある。

昨今はSDGs への注目度が高くなり、食品業界は食品ロスの削減に真剣に向き合う事となる。日本では鮮度管理に敏感で、且つ欠品を厳に戒めてきた為、流通段階で食品を大量に廃棄することがしばしば見受けられた。食品廃棄ロスを削減する機運が高まる中、今後は生鮮やチルド惣菜のフローズン化が進むに違いない。日本でも既に水産売場では、その兆しが見えるし、チルド惣菜が多種多様で圧倒的な存在感を誇る英国では、製造から店舗のバックヤードまでの配送は殆どがフローズンであるのが実態だ。
日本でも着実にフローズン化の動きが進む可能性は高く、それだけに物流面の課題を心底懸念している。

〈非効率・ムダの削減で人材を成長領域に投入〉
――三菱食品の現在の重点方針


既存の卸売取引は競争環境が依然として厳しく、物流等のコスト増も当面は続く見通しである為、自らの贅肉を削いで筋肉質な体質とすべく、非効率・ムダの削減を積極的に進めている。収益を産まない業務・無駄な作業を無くすことで、人員を捻出し、その人材を成長領域(既存取引の中にも成長が見込まれる領域は多い)と新規に育成する領域にシフトしている。

新規の分野としては、先ず1つは商品軸でのアプローチとして、国内・海外問わずオリジナル商品の開発を強力に推進している。未だトータルの数字は大きくないが、今期は前年比で2倍以上に伸長する見込みだ。低温事業の売上規模が1兆円超なので、いずれ将来的には1%の構成比を目指したいし、その規模に到達すれば、収益に大きく貢献する筈だ。
商品を開発する際、メーカー様の商品と同等では当社が扱う意義がないし、メーカー様の商品の方が優れているのは自明であるから、敢えて比較的手のかかる商品に取り組んでいる。例えばフローズン惣菜「フローズン ダイニング」は2年前から取り組んでおり、昨年はフローズンのミールキット「ララ・キット」を発売した。又、フローズンデザート「& me Time」(アンドミータイム)も強化商品だ。日本はアイスクリーム・冷菓のレベルが高く、デザートに近いものも多いが、本格的なデザートをフローズンで紹介したい。日本では市販デザートの多くはチルドで販売されているが、フローズン先進国の欧米ではフローズンデザートが既に大きな市場を形成しており、本邦でも大きな商機が生まれると期待している。フローズンならではと思わせる商品を如何に作れるかがポイントだ。

健康志向の「からだシフト」では2019年にフローズン商品を投入した。順調に導入が進み手応えを得ている。今年も商品のリニューアルと新製品の投入を行い、従来以上に積極的に販促プロモーションを実施する計画を立てている。海外商品では、フランス「ポモーン」社の冷凍タルト・ケーキが引き続き好調に販売を拡大している。又、昨年お披露目した豪州のカンガルーミート「ルーミート」は業務用中心に販売中だが、これも着実に導入店が増えている。現在は冷凍精肉として販売しているが、これを原料とした業務用冷凍調理品の開発を進め、市場への導入を更に加速させる予定だ。

以上の商品軸とは別に、これまで当社が手掛けていなかった市場への参入や、フローズンの新たな事業展開も計画中だ。今内容を明かす事は出来ないが、フローズンの可能性を非常に広範に捉えており、挑戦したい分野は幸いにも数多く存在する。今の内に、それら新事業の種を蒔く事に全力投球するつもりだ。

〈冷食日報2020年2月17日付〉