未成年者の家出が危険きわまりないことは、大人であれば容易に想像できることでしょう。しかし未成年者本人は、危険なことがあるかもしれないとはわかっていながらも、学校や家庭での苦しみから解放されると思い込み、家出を実行してしまうことも少なくありません。



今回は、かつて家出を経験した筆者が置かれていた環境や、家出中の未成年者が巻き込まれる可能性のある犯罪とリアルに遭遇した危険な状況に触れながら、子供たちが家出をせずに家庭に留まれる環境づくりについて考えたいと思います。未成年のお子さんを持つ親御さんに加え、未成年の方にも読んでいただければ嬉しく思います。



■ある冬の日に家出をした理由



いまにも雪が降り出しそうな寒い日のこと。その日は、知り合って間もない1つ年上の高校1年生、A子とファーストフード店へ行き、ひょんなことからお互いの親が厳しくクレイジーすぎるという話で盛り上がっていました。



怒ると近所にも聞こえるぐらい大声で怒鳴り散らすこと、追いかけ回され、髪の毛をつかんで引っ張り回されることなどなど。筆者が言うことを聞かないのが積み重なってそうなっていったのか、自宅で内職をしながら家事を切り盛りする母のストレスが原因でそうなったのか、いまとなってはわかりません。



そんな話に夢中になるうち、門限の17時はとっくに過ぎていました。



「このまま、家出でもする?」



どちらが言い出したのかは覚えていませんが、この言葉をキッカケに3日間外で野宿し、そのまま断続的に1年半以上の家出をすることになりました。



夜の世界で働く外国人たちが宿泊するホテルや民宿で寝泊まりし、ホステス(いまで言うキャバ嬢に近い)として働くなどしていましたから、大人に詐取されそうになる出来事もありましたし、危険な目にもたくさん遭いました。それでも、もう家には帰りたくなかったのです。



「そんなことで、ばからしい」「お前が軽率すぎるんだ」など、いろいろな意見があると思いますが、思春期の頃というのは心が揺れやすく、誘惑にも負けやすいものです。また、近寄ってくる人たちの本音や人間性を見抜く力も十分ではないために、目に見えるやさしさがすべてだと思い込んでしまう傾向にもあります。



■家庭に居場所がない…という孤独感



家出を繰り返していたその頃の筆者は、どこにも自分の居場所がありませんでした。小さい頃から怒られたことが記憶の8割以上を占め、節約のためとアイロンでテカテカになった制服や明らかに時代遅れの服を着るしかなく、いつも劣等感がありました。友達のことを話せば、その友達の悪口を言われたり、その友達と比べられる毎日に嫌気がさしていたのです。



すべて家庭環境や親のせいにするのはお門違いな部分もあるとは思いますが、このように子供が家に居づらい状況は、家出の大きな原因の一つとなることは間違いありません。



筆者が家出をしていたときに出会った家出少女や家出経験者(大人)は、同じように精神的もしくは身体的な意味で家に居場所のない人がほとんどでした。家出中には、強姦・傷害・恐喝・薬物使用・殺人などの前歴のある人たちとも接触する機会がありましたが、ほぼ全員が育った家庭には居場所がなく、家庭のあたたかさに憧れがあることを知り驚いたものです。



そのように、家に居づらいと感じている未成年者が家出をしてしまうと、悔やんでも取り返しのつかないことに陥る可能性が少なくありません。親の視点や考えで子供を躾けるだけでなく、子供たちが息苦しいと感じていないかなど、ときどき様子を見ながら、言葉や態度でフォローやケアをしてあげる必要もあるのです。



筆者は若い頃のさまざまな経験と、自分が母となり子供を成人させた経験から、親子で「ただ話す」「ただ遊ぶ」……そういったコミュニケーションがとてつもなく大切だと感じています。何気ない世間話で楽しく盛り上がる時間を多く持つだけでも、「親は子」の「子は親」の考え方が伝わりやすく、また理解しやすくなるものです。



■交渉の上手な大人たちに詐取される



家出少女には、お金が必要です。食べるもの、着るもの、そして住むところ。



夜の世界で未成年者を働かせたり、未成年者をうまく使ってお金を儲けようとしている大人たちは、家出少女もしくは家出少年だということを見抜く力を持っています。そして、たとえば「お店で(現在でいうキャバクラ)で働くなら前貸しもできるけど、どう? ただ、前貸しする場合は1日8千円」などと、交渉してくるのです。



前借りをしない場合は1万円だったので、2千円も安いお金で働かされるわけですが、着の身着のままの家出少女は、お店で働くために最低限、「服・靴(ヒール)・化粧品・髪留め」を購入しなければなりません。前借りをした場合に2千円を差し引くというルールは、筆者とA子のみに適用されており、成人した女性たちは前借りをしても全額手渡されていましたし、1日の日当は1万2千円だったようです。



■足元をみて抜け出せないループを作る大人たち



家出をしてから、ふとしたことがキッカケで知り合った女性に、「どうせ、ワケアリなんでしょ? なんなら1部屋余ってるから貸してあげるよ。1人2万円ずつでどう? あと、お店に行くための服もたくさんあるから、1日2千円とか3千円で貸してあげるし」と、築年数の古いマンションに連れて行かれ、年季の入ったスーツやドレスを見せられながら、上から目線で言われたことがありました。



たとえ1日1万円もらったとしても、毎日スーツや服を2~3千円で借り、マンションの1室を2万円で借り、お店までの交通費(タクシー代)を毎日約千円支払えば、いつまで経ってもその生活から抜け出すことはできません。



こういう人たちは、チンピラが彼氏だったり、半グレ的な人間が周囲にはびこっていたりするため、家出少女たちが体調でも崩そうものなら、「部屋代が払えていない」「服代が足りない」「ずっと部屋にいられるから、私がプライベートな時間を外で過ごさないといけなくなった。外出先でかかった費用を払え」などと難癖をつけ、主従関係を作りあげ、最後にはヘルスなどの風俗店で働かせるわけです。



最初は、やさしく親切なフリをして近づいてくる場合が多いところも巧妙な点です。よく報道されている家出少女の売春や風俗店での労働なども、こういったことがキッカケとなることが少なくありません。



■家出少女に客の相手をさせるママ



お店で働き始めて数日経ったある日、ママに「お店が終わったあと、時間ある?」と耳元で囁かれ、何か話でもあるのかと頷いたところ、「今晩、頼むわよ」「飛べば気持ちいいから」などと言われ、肩をポンと叩かれたのです。



何のことかわからず、ママの視線のほうを見ました。すると、何人もの女性に囲まれながら、上機嫌でお酒を飲んでいたでっぷりとした中年男性がこちらを見てニヤリと笑いました。半ズボンからは刺青が見え、色の薄いシャツからも刺青が透けています。



「これって、もしかして…? このオジサンとエッチをしろってこと!?」嫌な予感が込みあげてきて、一緒にお店に入っていたA子に尋ねたところ「絶対そういうことだよ! ヤバい、逃げよう!」と言われ、1人ずつトイレに行くフリをして店から逃げ出しました。トイレがビルの共有だったため、店外にあって本当に助かったと思っています。



「飛べば気持ちいい」というのは、たぶん、薬を使用しての性行為だったのではないかと思いますし、いま思い出しても本当に身の毛がよだちます。



■罪をなすりつけられる家出少年たち



最近では、オレオレ詐欺の受け子などを、普通に学校に通う高校生がやっているなど衝撃を受けるニュースが多いですね。これが家出少年ともなると、犯罪に関わってしまう傾向が顕著です。



お金に困って自ら恐喝や強盗、窃盗などを繰り返すことはもちろん、知り合った大人や自分よりも年齢が上の「先輩」からうまく使われてしまうケースも少なくありません。



大人や先輩は、自分たちは罪を被らないよう、ときには未成年者をやさしく言いくるめて犯罪に加担させ、次第に脅して自分たちのグループや傘下から抜けられないようにしてしまうのです。たとえば最近の事例であれば、一緒に万引きをしようと誘っておきながら、自分は何も盗らずに動画撮影をして脅すようなケースです。



特に少年の場合、グループや傘下から抜けようとすると暴力を振るわれたり、家族を傷つけると脅されたりしていたため、一度関わってしまうと抜け出せないという印象を受けました。そして、数年経つと成人して犯罪報道で名前が出る子もいれば、行方不明となった子もいます。



そのため、何らかの問題を抱えていそうな子どもの心が外に向いて夜間の外出などを繰り返し、怪しいグループと接触してしまう前に、家庭でフォローすることが必要と言えるでしょう。たとえば、「いじめに気づいて対処する。学校が嫌というなら、それ以外の選択肢を考える」「いじめには遭っていなくても本人が疎外感を持っているようなら、心をケアする」などといったことです。



■おわりに



筆者の経験にはここには書ききれないようなことがたくさんあり、もっと危険な目に遭ったこともあります。しかし、今回の内容は、ただ単に記事のネタとして過去の体験を綴ったのではありません。未成年者が居場所を見つけることができずに家を出てしまうと、一生後悔するような体験や危険な目に遭う可能性が非常に高いということをリアルにお伝えしたかったのです。



そして、心身ともに落ち着ける居場所が家庭にない未成年者が少しでも減ることが筆者の強い願いであることを、最後に改めて記したいと思います。