「国民食」という言葉を聞いたことがあると思います。厳密な定義はないようですが、一般には、世代・地域・性別などに影響されることなく大衆に親しまれている食品、または料理を表すと言われています。

日本の国民食として定着しているものもいくつかありますが、代表的な1つが「カレー」ではないでしょうか。



定番のカレーライスを始め、麺類(うどん、蕎麦、スパゲティ等)、カレーパン、カレーまんなど、そのバリエーションの多さも特徴です。また、概ね手頃な価格であることから、週に2~3回はカレーを食べるという人もいるでしょう。



■カレーのチェーン店では「ココイチ」一強



カレーは外食産業でも存在感を高めています。街中では、カレーのチェーン店「CoCo壱番屋」(通称「ココイチ」)を目にすると思います。



同店を展開する(株)壱番屋の資料によれば、その店舗数は約1,262(2020年8月末)。

この店舗数は、吉野家(同1,213)より多く、モスバーガー(同1,270)と同等の規模です。エリア別で見ると、約20%が同社の地元である中京地区(愛知、岐阜、三重)、約27%が首都圏、約16%が関西圏にあります。



ところで、ハンバーガーや牛丼は複数の有力チェーン店が、日々厳しい販売競争を行っているのはご存知の通りです。しかし、カレーは全く異なります。店舗数で見ると、第2位のチェーンの店舗数が70強であるため、「ココイチ」は圧倒的な断トツ1位です。



代表的な国民食でもあるカレーなら、もう少し競合相手がいてもおかしくないと思われますが、なぜ「ココイチ」の独壇場が続くのでしょう? もちろん、「ココイチ」の美味しさ、メニューの充実度、サービスの良さは大きな要因です。

とはいえ、参入障壁がさほど高くないと見られるカレーのチェーン店はもっと登場してきてもいいはずです。



■存在感が大きい“ご当地カレー”



考えられる理由の1つとして、カレーは家庭料理の定番であることが挙げられます。外食で食べるよりも、お母さん(お父さん)が作った我が家のカレーが一番おいしいと感じている人は少なくないのではないでしょうか。



そして、もう一つ見逃せない理由が、いわゆる“ご当地カレー”の存在です。一般に、ご当地カレーは地元に根強いファンがいるだけでなく、そのカレー目的の観光客も多いと見られます。そのため、全国展開するチェーン店が苦戦する傾向があり、こうした点はラーメンと似ていると言えそうです。



ただ、ご当地カレーと言っても、カレーに地元産の具材(肉、野菜、海産物)を入れているだけのものが多いのも実情であり、その土地が発祥の地となっている真の意味でのご当地カレーはそう多くないと考えられます。



■札幌スープカレーと金沢ブラックカレーが2大ご当地カレー?



そのような中で、名実ともに日本の代表的なご当地カレーと言えるのが、札幌スープカレーと金沢ブラックカレーではないでしょうか(注:諸説あります)。



詳しい説明は省略しますが、スープカレーはスパイスの効いた汁気の多いスープ状のカレー、ブラックカレーはその名の通り濃厚で黒味がかったカレーです。ただ、店によってレシピが異なりますので、明確な定義はないかもしれません。



また、少し古くなりますが、2013年に発表された統計数値(非公式)では、人口10万人当たりのカレー屋店舗数は、



  • 第1位:石川県(9.29軒)
  • 第2位:北海道(8.86軒)
  • 第3位:東京都(7.81軒)
  • 第4位:富山県(5.73軒)
  • 第5位:沖縄県(5.61軒)

となっています。この少し古い数値だけで決めるのは問題がありそうですが、石川県と北海道でのカレー人気が突出していることがわかります。

ちなみに、現在の「ココイチ」店舗数(1,262)のうち、北海道は26店舗、石川県は9店舗です。やはり、ご当地カレーの人気の前に苦戦しているのでしょうか。



また、最新の総務省の家計調査によれば、「カレールウ」への支出金額と購入量では、いずれも鳥取市が第1位です(2人以上の世帯対象)。「鳥取市=カレー」はちょっと意外な感じがありますが、実際、県知事が先頭に立って“カレー県”をアピールしています。



なお、現在の「ココイチ」店舗数(1,262)のうち、鳥取県は5店舗しかなく、ここでも苦戦している可能性があります。



■”なんちゃってご当地カレー”では生き残れない?



スープカレーとブラックカレーに共通しているのは、地域おこしや観光目的で“開発”されたものではなく、以前から町の文化として根付いていたということです。

その意味では、「ココイチ」も最初は地元(愛知県清須市)で人気があったご当地カレーと言えるかもしれません。



カレーが国民食と言われるのは、ただ単に多くの消費者が食するだけでなく、各地域にそれぞれ特色のあるカレーが根付いてきた歴史も一因だと言えましょう。そう考えると、地域差を超えて全国展開している「ココイチ」のすごさを感じずにはいられないのは筆者だけではないと思われます。



カレーに限らず、最近は観光客誘致のために、ご当地名産やご当地グルメを造り上げようとする動きが少なくありません。しかし、そのような急造品や急造グルメは長続きせず、とりわけ、現在のように訪日外国人が激減すると、すぐに化けの皮が剥がれます。コロナ禍で飲食業が苦境にある今こそ、改めて見直してみる必要があるでしょう。