“BIG4”と称される佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)、西純矢(創志学園)、及川雅貴(横浜)の4人のうち、奥川以外の3人は地方大会で姿を消し、甲子園で見ることができない。もちろん、彼らだけではない。

全国各地で繰り広げられた地方大会のなかで、「甲子園で見たかった」という逸材は何人もいた。そのなかから、今後の活躍が楽しみな選手を何人か紹介したい。

 この夏、青森大会の組み合わせを見て、思わず「あっ!」と声を上げてしまった。八戸学院光星と青森山田が順当に勝ち進めば、3回戦で顔を合わせるからだ。この2校は言わずと知れた青森の”2強”であり、長年ライバルとして数々の名勝負を繰り広げてきた。決勝で当たるならまだしも、こんなに早くぶつかるとは予想外だった。


 この春のセンバツは八戸学院光星が出場を果たしたが、夏は青森山田だろうと勝手に決めつけていた。それほど、4月以降の青森山田の戦力は充実していた。

 その原動力となったのが、エースの堀田賢慎(ほった・けんしん/3年/右投右打)だ。この春から夏にかけて、ブームとなった佐々木朗希の”脱力投法”。140キロほどの力感から150キロ台のスピードボールをサラッと出す投法に、打者のバットはことごとく空を切った。堀田の場合、さすがに150キロ台には届かないが、130キロ台後半の力感から放つ145キロ前後のストレートは、高校生のスイングをかいくぐるには十分だった。


 力任せじゃないからコントロールに破たんがなく、カーブ、スライダー、チェンジアップ、フォーク……多彩な変化球も荒れることなく、きっちり投げ込んでくる。

 堀田のすばらしいところは、カウントが取れる変化球を、最低でも2種類は用意してマウンドに上がることだ。変化球で簡単にストライクが取れる高校生って、じつはそれほど多くなく、安定感という部分では間違いなく全国レベルの投手だ。

 県下屈指の進学校だから「甲子園は厳しいだろうな……」と思いながら、好投手がいるため、つい甲子園で投げる姿を想像してしまう。茶谷哲兵(3年/右投右打)がエースを務める西宮東高校は、甲子園から徒歩5分ぐらいのところに位置し、これまで甲子園出場経歴がないことから「甲子園に一番近く、遠い高校」として知られている。

 茶谷は、サイドハンドから140キロを超すストレートを投げ込む本格派だ。

これまでサイドハンドの高校生を何人も見てきたが、これだけ強い球を投げる投手は初めてかもしれない。

 春の県大会で好投した投手が、夏に打ち込まれるというシーンはこれまで何度も見てきた。夏は打者の振りも鋭くなり、しかも春に好投したとなれば当然マークも厳しくなる。それなのに茶谷は、春に続き夏も自慢のストレートで打者から面白いように空振りを奪っていた。ボールのキレはもちろんだが、茶谷という投手はただ捕手に向かって思い切り投げるのではなく、しっかり相手を見ながら投球できるという技を持っている。これは教え込んでもできるものではない。


 茶谷の卒業後の進路だが、志望は「国公立の工学部」と聞いている。4年後、再びプロ注目の投手として注目されているのか。これからの成長が楽しみだ。

 九州国際大付の下村海翔(かいと/3年/右投右打)は、福岡大会準決勝でセンバツベスト8の筑陽学園に0対3で敗れた。下村は2点リードされた5回からリリーフとして登板。それまでイニング数を上回る三振数を記録しており、常時145キロのストレートとタテ・ヨコ2種類のスライダーは、わかっていても攻略困難なボールだ。


 下村はストレートのリリースの瞬間、ボールを人差し指と中指の2本で押し込んでいるのだが、この技術は昨年夏の甲子園でフィーバーを巻き起こした金足農の吉田輝星(現・日本ハム)を彷彿とさせる。

 兵庫大会決勝で明石商に敗れた神戸国際大付の松本凌人(3年/右投右打)は、8回まで完璧に抑えながら、9回に乱れ、変わった投手が逆転を許し甲子園を逃した。

 前日の準決勝で7回コールドながら育英を完封しての決勝のマウンドだったが、疲れをまったく感じさせない躍動感あるピッチングを披露。決して力任せになることなく、それでも140キロをマークしながら、スライダー、チェンジアップを交えた緩急で、明石商の強打者たちを翻弄していた。

 ピッチングの肝とは、いかに打者のタイミングを外すか……松本のピッチングを見て、そのことを再認識させられた。バットの芯を外し、思いどおりのスイングをさせなければ強力打線だって怖くない。

だからこそ、甲子園の大舞台で東海大相模(神奈川)、智弁和歌山、花咲徳栄(埼玉)といった全国屈指の強力打線と松本が対戦する姿を見たかった。

 野手も同じく「甲子園で見たい」と思った選手が、次々と姿を消した。

 スラッガー系なら、開星(島根)の外山優希(3年/右投左打)を挙げたい。開星はリードオフマンの大型遊撃手・田部隼人がプロ注目と言われているが、バッティングに関しては断然、4番を打つ外山だ。

佐々木朗希だけじゃない。甲子園に出られなかった多士済々の精鋭...の画像はこちら >>

島根大会決勝でも本塁打を放った開星のスラッガー・外山優希

 スイングスピードの凄まじさと、それだけフルスイングしてもまったく体を開かずに打てる技術は、社会人野球でプレーしている選手のようだ。左投手の130キロ台後半のストレートをしっかり踏み込んで逆方向(レフト方向)に長打を打てる。石見智翠館との決勝戦で、延長13回表に勝利を決定づけたかに思えた一発を、左中間中段にライナー性の打球で叩き込んだ。「甲子園でも注目されるに違いない!」と思っていたら、その裏、まさかの逆転サヨナラ負け。本人はもちろん悔しかっただろうが、スカウトたちのため息も聞こえてきそうだ。

“機動力”を兼ね備えたスラッガーなら、浜松工(静岡)の外野手・塩崎栄多(3年/右投左打)。バットの重さをまったく感じない美しいスイングから外野の間を破る打球を放つと、50m5秒台の俊足で二塁打を三塁打にしてしまうスピードを兼備。

 打席での姿、ランニングフォームからスローイングの身のこなしまで、柔軟性とバランスのよさが見てとれる。本格的に野球を始めたのは中学からだが、祖母が日本舞踊の先生をしており、塩崎も幼い頃から優雅に舞っていたという。その頃に覚えたしなやかな所作が、プレーの端々に出ている。

 プレーのスピードなら、上田西(長野)のセンター・齋藤慶喜(3年/右投左打)が群を抜く。ベースランニングはもちろんだが、とくに盗塁のスタートとスライディングの速さを甲子園で見たかった。

 齋藤の盗塁のスタートは「速い」というより、一瞬にして爆発するパワーが見ていて伝わってくる。モーションを盗まれたら、もう捕手は「やられた!」と送球意欲を失ってしまうような破壊力。

 本当にすごいランナーというのは、捕手が送球する前に「もうダメだ……」とあきらめさせられ “快足”の持ち主である。

 以前、スポルティーバのコラムで西日本短大付の近藤大樹を紹介させてもらったが、彼と同じぐらいセンスのよさを感じるのが、京都国際のショート・上野響平(3年/右投右打)だ。

 センターが「オーライ!」と手を上げた打球を、背走して、センターとすれ違いざまにグラブに収めたプレーが忘れられない。打球に対する反応、なにより一歩目のスタートのスピードがすばらしい。バットに当たる瞬間、すでに動き出しているのだから、センターの「オーライ」という声はまったく耳に入っていなかったのだろう。

 バッティングはお世辞にも「すごい!」ということはないが、柔軟なスイングでこの夏の京都大会では2本塁打をマーク。今宮健太みたいな選手……甲子園のグラウンドを所狭しと駆け回る姿を見たかった。

 最後に紹介したいのが、徳島商のショート・石上泰輝(3年/右投左打)だ。今年の春、県名で開催された「野球部競技会」で、遠投116m、ベース1周13秒8という抜群の数字をマークしたという。じつは石上だけ、今回紹介したなかで実際に見ていない唯一の選手である。

 噂は以前から聞いていた。「必ずどこかで!」と思っていたら、都合が合わなかったり、雨で順延になったり……「なんとか甲子園で!」の願いもむなしく、準決勝で敗退した。それだけにショックは計り知れない。

 今回紹介した選手たちは甲子園出場こそ逃したが、実力は折り紙付き。必ずワンランク上の世界で活躍するに違いない。甲子園を逃した悔しさをバネに、次のステージでの活躍を願いたい。