先月のカナダとの国際親善試合(〇4-0)に続き、今度はMS&ADカップで急成長中の南アフリカと対戦したなでしこジャパンは、2-0で勝利をおさめた。

 南アは球際にしぶとく、ターンも鋭い。

さらに、中央に入れてから左右サイド奥を活用するカウンターには定評のあるチームだ。

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熊谷紗希の相方としてセンターバックを務めた土光真代

日本がある程度ボールを保持することは予想されたが、「攻撃のビルドアップ改善」を掲げる現状で、なでしこジャパンは南アのパワーに混乱する場面もあった。ただ、マンマーク気味の南アの守備は、日本の攻撃陣にとっては好都合だったと言える。

 東京オリンピックの選手枠は18名。ここからの8カ月、毎回シビアな戦いになる。今年6月に開催されたワールドカップではケガ人が多数出て、ユーティリティプレーヤーの必要性を痛感した。
もともと高倉麻子監督は、就任当時から複数のポジション兼務を求めてきたが、ここからオリンピックまで、その精度と組織力の向上が重要となってくる。

 南ア戦では、本来サイドハーフの遠藤純(日テレ・ベレーザ)が左サイドバックに入り、ボランチにはサイドバックの宮川麻都(日テレ・ベレーザ)が起用された。

 高倉監督はもちろん、先輩たちから「とにかく力を出し切ること」と、送り出された2人に対し、周りは献身的にサポートした。遠藤がひとつ前の長谷川唯(日テレ・ベレーザ)の動きに反応するように左サイドを駆け上がると、必然的に守備に穴ができる。そこを南アは狙ってくるため、カバーは不可欠だ。そのスペースを確実にケアしていたのが、初スタメンのセンターバック土光真代(どこう・まよ/日テレ・ベレーザ)だった。


 ベレーザのチームメイトで気心が知れていることもあり、「思い切って前に出ていいから」と、土光は遠藤の背中を押し、遠藤が上がっていくと、そのスペースを突かれないために最終ラインの上下でカバーした。

 そんな土光の代表キャップ数は、昨年7月にアメリカで開催された、トーナメント・オブ・ネイションズのブラジル戦で途中出場した「1」のみ。まだまだ”若手”なのだが、正直な感想は”まだ23歳”だったのかということになる。

 というのも、土光の素質の高さは育成年代の頃から定評があり、2012年のFIFA U-20女子ワールドカップ(日本開催)では、飛び級で選出され、史上初の3位に貢献。現在、ベレーザではセンターバックとして最終ラインから前線へのフィードでゴールチャンスを生み出し、攻守の要となっている。かつて、ビルドアップが苦手だったDFとは思えない成長だ。

DFラインからのビルドアップを強化したいなでしこジャパンにとっては、最も欲しい人材でもある。

 土光は、冷静に南アのウィークを突くロングフィードで敵陣をバタつかせた。世界上位チームとの対戦に必要な守備については、まだ経験値が追いついていないが、攻撃面では南ア戦でも十分に手応えを感じさせるパフォーマンスだった。

 また、今回の試合でもっとも沸いたのは、熊谷紗希(オリンピック・リヨン)の代表110試合目にして初ゴールとなった先制点だ。チーム内ではネタとなっていた熊谷の初ゴールに、先制点の喜びのほか、愛ある笑いがピッチ上にも、ベンチにも溢れていた。「そろそろ(ゴールしても)いいんじゃないか」と前夜に熊谷と話をしたという高倉監督もまた、熊谷のゴールを楽しんでいるように見えた。


 このゴールの立役者のひとりが土光だった。CKで中島依美(INAC神戸レオネッサ)が寸分の狂いもなく狙ったのはファーサイドに空いたスポット。土光は迷うことなくそこに飛び込み、そのこぼれ球が熊谷の目前に来たのだ。

 その直後、もう一本CKのチャンスが巡ってきた。中島が蹴り出す直前、土光は誰よりも先にニアサイドへ向かってスタートを切った。そこへ速いストレートボールが入る。
そのこぼれがまたしても熊谷のもとへ転がるという実に惜しいシーンだった。

「アレは絶対にいけました、触れました、ボールがよすぎました」――。この場面を土光は勢いよく話し、悔しがった。と同時に、面白がってもいた。

「依美さん(中島)は、いいボール蹴るなってリーグでも思っていましたが、同じチームとしてそのボールを受けるとより感じます」と中島のキックを大絶賛。

 それでも、なでしこジャパンがセットプレーで得点することは珍しく、最重要課題のひとつでもある。

これまでは毎回のように選手が入れ替わる状態で、ツメることができなかったセットプレーだが、今回のトレーニングでは、いつも以上にセットプレーに時間を割いた。

 それが実を結んだわけだが、それは土光の思い切りのいいプレーがなければ成立していなかっただろう。

 土光は自身のパフォーマンスを問われると、表情を引き締める。

「もっとできたなって感じです。もっとチャンスの芽を摘むこともできたし、1トップを相手に、もっと少ない枚数で剥がせれば前線に楽に配球できた。課題ばかりです」

 それでも、高倉監督からは及第点の評価を得た。次に試されるのは格上に対しての攻守の対応だろう。プラスしてセットプレーで自身がゴールを叩き込めば、一気に東京五輪の最終18名入り、ということもある。なでしこジャパンで新たなCBが台頭した一戦だった。