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 プロ野球が開幕して約1カ月が経ったが、パ・リーグは各球団で新戦力が活躍している。ソフトバンクの栗原陵矢、西武の鈴木翔平、ロッテの安田尚憲、オリックスの鈴木優……。

日本ハムも高卒2年目の野村佑希が開幕スタメンを果たし、未来の主砲を感じさせる活躍を見せていたが、右手の骨折で長期離脱となった。

 それにしても日本ハムは中田翔西川遥輝、近藤健介らが主力に定着するなど、高卒選手が育つイメージがある。次世代の主力候補である清宮幸太郎、高濱祐仁、万波中正らの台頭が待たれるが、はたして日本ハムはどのようにして若手を育てていくのか。現役22年間を同球団で過ごし、2015年から二軍監督を3年間務めた田中幸雄氏に、日本ハム流の育成法について聞いた。

ハム流育成法。どうやって高卒選手を不動のレギュラーにするのか...の画像はこちら >>

現在はケガにより離脱中だが、高卒2年目で開幕スタメンを果たした野村佑希

── 日本ハムは若手が伸びると言われます。

「みんなそう言いますよね。
もちろん、獲ってきた選手の能力が高くて、一軍でやれる準備ができれば昇格できると思います。野村が開幕からスタメンで出場した裏には、サードのレギュラー候補だったビヤヌエバが虫垂炎で出遅れたこともありましたが、実力もそうですし、期待感があるから一軍に上がれるわけで、試合に出るには運も関係してきます」

── 野村選手は故障で離脱するまでの13試合で打率.217、2本塁打という成績でした。この数字をどう見ましたか。

「去年は入団1年目で股関節のケガもあったので、一軍で出場するにはもう少しかかるかなと思っていました。まだ体の線も細いですし、これから成長していく段階です。それでもホームランを2本打つなど結果を出しましたし、このままずっと使ってほしいなと思っていたところでの離脱だったので残念です」

── 技術的に、野村選手の秀でた才能はどこにありますか。


「ボールに当てるコンタクト能力は、高卒2年目の選手にしては高いと思います。とくに、今のピッチャーはボールのスピードが上がり、変化球も多彩です。それでもしっかり対応して打てたのはすごいと思います。

 自分と比較するわけではないですが、僕は高卒1年目に一軍で14試合に出てヒット4本。2年目は112試合で打率.203でした。重要なのは、経験して慣れるということです。
一軍でいろんなことを経験するうちに、『もっと打ちたい』『活躍したい』という気持ちになり、自分で考えて練習していくようになります」

── 数年後、野村選手は中田選手の後継者になれますか。

「現時点では何とも言えませんが、(中田)翔はとにかくすごかったです。二軍とはいえ、1年目から11本塁打。2年目にはイースタンリーグ記録となる30本塁打を打ちました。ほかの選手と振る力が違いすぎて、比べ物になりませんでした。

 野村にしても、クリーンアップを打つ素質は絶対にあると思います。

身長も187センチと大きいですし、試合に出ながら成長していけるはずです。まだ体はできあがっていないですし、芯がしっかりしていないところもあるので、これからですね」

── プロ3年目を迎えた清宮選手はどうですか。

「まだまだこれからというのは、清宮も同じです。いいものは持っているけど、芯がしっかりしていない。まだふにゃふにゃで柔らかすぎるというか……ヤクルトの村上(宗隆)と比べると、キレが全然違いますよね」

── 今季、清宮選手は代打での出場も多いです。起用法はどうするのがいいと思いますか。


「今より上のランクに行くためには、試合で使い続けるほうがいい。経験は絶対に必要ですから。ファイターズのトップ選手にさせるまで、首脳陣がどれくらい我慢できるのか。使って外して、使って外してでは、成長のスピードが遅くなると思いますね」

── スタメンで使って、翌日はベンチスタートという起用法なら、二軍で使い続けたほうがいいと。

「一軍の控えで、たまに試合に出るのだったら、試合勘や体力を身につけさせるためにも二軍で使ったほうがいいと思います。たとえば、二軍の試合に1カ月全部出るとか。
一軍でレギュラーになれないのはそういう要因もあるわけで、そこは実戦経験を積めば鍛えられると思います。

 清宮をトータル的に見た時、期待されたバッティングでそこまで結果が出ていません。打つことだけを考えたら、首脳陣は外国人の大砲みたいな結果を求めてしまう部分があるのかもしれません。でも、まだ高卒3年目です。打つこととともに守ることも成長させて将来のレギュラーにしようとするなら、ある程度は目をつぶって起用し続けることもありだと思います」

── 日本ハムでは現在、不動のレギュラーとして活躍している中田選手、西川選手、近藤選手などは高卒出身です。若手が伸びるのは、どんな土壌があるのでしょうか。

「育成の方針として”自主性”があります。自分のことは自分でやれるようになりなさいと、最初から教えていきます。たとえば、二軍で決められた全体練習があるなかで、残りの時間を使って自分で考えてやりなさいという環境をつくる。怠け癖がある選手も絶対にいるので、それができるかは人間性にもつながってくる。

 チームとして、月別とか前期・中期・後期とか、目標を書かせていました。最終目標を立てて、そこに到達するまでにどうすればいいかを書かせる。1カ月の目標を立てて、翌月、どうだったかを振り返る。二軍に選手育成ディレクターの本村幸雄さんという方がおられて、社会人としての習慣やマナーを身につけさせていました」

── 育成ではどんな特徴がありましたか。

「選手が入団したあと、キャンプからオープン戦、公式戦に入っていくなかで、首脳陣が選手ごとに育成会議をしていきます。『この選手は今このくらいのレベルなので、こういう練習をさせて技術を高めよう』という話をします。そこがうまくできて、二軍の試合で結果が出るようになれば、一軍に上がるのは早くなります。

 それにファイターズの場合、二軍のほとんどの選手を一軍に上げて経験させます。一軍というのがどういうものなのかを味わうことで『一軍はいいな。もっと頑張ろう』という気持ちになる。そういう意図があります」

── 2019年は野村選手、万波選手、今井順之助選手、難波侑平選手、姫野優也選手、森山恵佑選手(同年限りで引退)の6選手が、二軍で300打席以上立ちました。この選手には打席をこれくらい与えようと決めて起用していくのですか。

「二軍選手全員に対して、最低でも何打席立たせようと決めます。たとえば、S、A、B、Cとランクをつけて、Sの選手は多めに立たせ、Cの選手は試合には出るけど、Sの選手に比べたら少ないとか。どちらかというと、Cの選手は練習を多めにといった具合に、それぞれ数字を設定していました」

── 森山選手には300打席与えて、球団の求めるものが見えなかったので戦力外という判断を下したのでしょうか。

「そうだと思います。森山は大卒3年目で、二軍での結果もそれほどよくなかった(287打数57安打、打率.199、7本塁打、26打点)。長打を期待されて入ってきなか、ボールにコンタクトする能力が上がりませんでした。力的には二軍で20発くらい打てる能力があるはずですが、そこが高まらなかったという判断を下されたのだと思います」

── 投手にもイニング数をどれだけ投げさせるという目安はありますか。

「あります。球数とイニング数ですね。二軍ピッチングコーチと球団が話し合って決めます。選手によっては、投げるゲームの数を決められます。もちろん、ケガ人が出ると変わってくることもあります」

── 選手の将来をしっかり判断するためにも、打者ならある程度の打席数、投手ならイニング数を経験させることが大事だと。

「そういうことです。ある程度の打席数やイニング数を経験するなかで、自分でいろいろ感じて練習していく。練習したことを試合で出せるようになったら、自分のなかで変化が絶対出てくる。『今のはすごくよかったな』『今までの自分になかった感覚が出てきたな』となっていくと、選手は徐々に変わっていきます。だからこそ、試合のなかでいろいろ経験させることが重要なんです」