日本代表全員の現状を5段階評価>>

 森保一監督がヨーロッパ組を含めた実質的なA代表を率いるのは、昨年11月19日に行なわれたベネズエラとの国内親善試合以来、約11カ月ぶりだ。日本はそのベネズエラ戦で前半に4ゴールを叩き込まれ、1-4で完敗。

以降、不甲斐ない采配をつづける指揮官に猛烈な逆風が吹くことになった。

森保采配における変化の兆候。レアケース発生で3バック化は加速...の画像はこちら >>

カメルーン戦の前半を4バック、後半を3バックで戦った森保ジャパン

 その後、A代表の活動は新型コロナウイルスの影響で長く休止したが、森保監督とスタッフたちにとっては、この休止期間をいかに有効活用するかが最大の任務だったはず。その意味で、10月に2試合が用意された今回のオランダ合宿は、森保ジャパンの強化プロセスにおける大事なリスタートと捉えられる。

 再開第1戦となった9日のカメルーン戦、そして13日のコートジボワール戦は、森保監督がいかにしてチームを再建するつもりなのかが、最大の焦点だ。

 カメルーン戦のスタメンは基本布陣の4-2-3-1。GKに権田修一、DFは右から酒井宏樹吉田麻也、冨安健洋、安西幸輝、ダブルボランチは柴崎岳と中山雄太、2列目は右に堂安律、左に原口元気、トップ下に南野拓実、そして1トップにはカメルーン戦限定出場の大迫勇也が入った。

 いつもの顔ぶれと異なるのは、長友の代わりに左サイドバック(SB)に入った安西と、柴崎とコンビを組んだ中山のふたりだ。つまりそれ以外は約1年前のレギュラーをチョイスした。

 対するカメルーンは、試合3日前のPCR検査で2選手に陽性反応が出てしまい、濃厚接触者1選手を加えた計3選手が緊急離脱。メンバー18人での戦いとなった。また、19年9月から指揮を執るポルトガル人のトニ・コンセイソン監督は「怪我で呼べない選手がおり、人数が限られたなかでの試合となる。とくに若手に出場機会を与えたいと思っている」と試合前日に語り、テストの意味合いの強い試合になることを示唆。

そのうえで、スタメンには現状のベストな11人を起用し、布陣は4-3-3を採用した。

 試合は、序盤からカメルーンペース。GKを使いながら、左右の幅をとって速いテンポでボールを動かし、日本の前線からのプレスを回避した。しかし、ペースを握った最大の要因は、守備面で日本の心臓部でもあるダブルボランチをインサイドハーフのふたりが消していたからだ。

 そのため日本は、相手3トップの圧力を浴びる最終ラインから、前線へ可能性の低いロングパスやミドルパスを強いられた。その結果、ボールを相手に渡してしまい、再び攻撃を受ける悪循環に陥った。

 これは、過去の森保ジャパンの試合で何度か見られた、"日本封じ"の典型的パターンだ。昨年11月、格下のキルギスにベストメンバーの日本が苦しめられた時もそう。キルギスの布陣は3-5-1-1だったが狙いは同じボランチ封じで、日本の最終ラインは「ボールの出口」を見つけられず、チームとしてペースをつかめなかった。

 しかも今回の相手は、身体能力も含めた個の能力が高いカメルーンである。無理して出したパスが相手の伸ばした足に引っかかるシーン、あるいはデュエルに負けてボールを失うシーンなどが重なると、日本がペースをつかむのはさらに困難になった。

 そんな状況でとりわけ顕著だったのが、日本の左サイドの裏を突かれるシーンだ。

攻撃的なポジションをとろうとする安西のポジショニングが、周囲との距離感を中途半端にし、それをカバーすべく左ウイングの原口、ボランチの柴崎、あるいは左CB冨安もそのエリアの火消し役としての対応に追われた。

 14分、攻守が入れ替わったあとにトコ・エカンビ(11番)が右サイドのスペースでパスを受けてクロス、エンガマル(10番)がヘディングシュートを放ったシーンは、その典型だ。幸いシュートはわずかにバーを越えたが、以降24分、28分と、日本が左サイドを破られるシーンはつづいた。

 逆に、日本がフィニッシュにつながるよい攻撃を見せたのは、前半で2度あった。ひとつは19分、前にスペースを見つけた中山が飛び出して右サイドの堂安からパスを受け、それをダイレクトで前方の南野に縦パスを入れたシーンだ。

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 もうひとつは22分に見せた右サイドの攻撃。

堂安と大迫のパス交換から、最後は酒井がマイナスのクロスを入れて、ゴール前の南野がシュートするに至っている。いずれも、ダイレクトパスを使った森保ジャパンらしい連動性のある攻撃だった。

 しかし、それ以外に特筆すべき攻撃シーンはなかったのが現実だ。

 それを象徴するかのように、森保ジャパンのバロメーターでもある敵陣でのくさびの縦パスは3本のみ(そのうち1本は失敗)。ダブルボランチからの縦パスがゼロだったうえ、最大の武器でもある大迫のポストプレーが成功したのも1度だけだった(37分)。また、サイドからのクロスボールもわずか3本で、そのうち唯一成功したのが前述22分の、南野のシュートシーンである。

 またしても繰り返された同じタイプの機能不全。前半を見る限り、森保監督の采配からは、過去試合の検証から導き出されるべき改善策を見ることができなかった。

 ところが、後半開始から森保監督が動いた。安西をベンチに下げて伊東純也を投入すると、布陣を3-4-2-1へチェンジしたのである。

 過去A代表で森保監督が3バックを採用したのは、昨年6月のトリニダード・トバゴ戦とエルサルバドル戦の計2試合。試合途中のシステム変更については、そのエルサルバドル戦以来、今回が2度目だ。

 ただし、エルサルバドル戦では予め選手に試合途中のシステム変更を伝えていたのに対し、今回は「準備の段階で4バックも3バックも試したなか、試合の流れを見て(決めた)」(森保監督)と、布陣変更時のシチュエーションが異なっている。

 ちなみに、エルサルバドル戦では3バックから4バックへの変更だったため、今回のケースはその逆パターン。また、その試合で両ウイングバックを務めていたのは原口(左)と伊東(右)で同じだった。

 試合後、システム変更した戦術的理由を問われた森保監督は、次のように答えている。

「攻撃ではウイングバックがワイドなポジションをとり、4バックの相手に対して守備対応を難しくさせる部分(を意図した)。(つまり)我々がサイドの突破を考えながら、ワイドなポジションに選手がいることで1トップと2シャドーが中(に生まれるスペース)で起点となり、攻撃を仕掛けられる。

 守備では、前半に相手の右SB(2番/ファイ)と左SB(6番/オヨンゴ)がかなり高い位置をとり、我々の守備対応が難しくなっていたので、3バックにして(守備の)役割をはっきりさせた」

 これは昨年6月のトリニダード・トバゴ戦後にも語った、3バックの狙いとメリットを改めて説明した格好だ。しかし、これまで戦術が機能していない試合でもシステム変更をしなかった森保監督だけに、戦況を見極めてそれを実行した今回は極めてレアケースと言える。ある意味、森保采配における変化の兆候とも受け止められる。

 では、肝心のシステム変更の効果はどうだったのかと言えば、少ないながらも変化は起きていた。

 ひとつは、2シャドーが相手アンカーの両脇にあたるハーフスペースに立ち位置をとるため、カメルーンのインサイドハーフが背後を警戒。それにより日本のダブルボランチへの圧力が弱まり、日本のビルドアップ時に柴崎を経由する余裕が生まれた。

 ただし、それでもカメルーンの個人能力は高く、当初は思ったほどの効果は得られていない。実際、柴崎から効果的なパスが出るようになったのは後半25分以降で、それはカメルーンが選手交代と疲労によって動きが鈍り始めてからだ。後半に日本が見せた敵陣でのくさびの縦パスも、3本にとどまっている。

 もうひとつの変化は、サイドからのクロスが明確に増えた点。とくに伊東が右ウイングバックに入って、日本の右サイドの攻撃が活性化。後半に計8本見せたクロスのうち、伊東が記録したのは4本で、酒井と途中出場の鎌田大地もそれぞれ1本を記録した。カメルーンの左SBオヨンゴ(6番)の攻め上がりが、後半になってから激減した理由でもある。

 とはいえ、ボランチのパス供給と同じく、後半のクロスのうち5本は後半25分以降のものであり、日本のシステム変更が直接的に影響したというよりも、むしろ選手交代と選手の疲労によってカメルーンの圧力が低下したのが大きく影響したと見られる。その意味でも、ボール奪取後の攻撃バリエーションとその精度を含めて、まだまだ森保ジャパンの3バックシステムには改善点が多い。

 注目は、13日に行なわれるコートジボワール戦で、森保監督がこれまで基本布陣としてきた4バックを採用するのか、あるいはオプションとする3バックを使うのか、という点だ。ゴールレスドローに終わった今回のカメルーン戦で手にした材料と、コートジボワールの実力を考慮すれば、4バックより一定の効果を示した3バックを採用する可能性は高い。

 しかも、この試合で出場機会がなかったメンバーの顔ぶれを見ても、3バックのほうが選択肢も増える。たとえば3バックには植田直通、吉田、冨安を並べることもできるし、板倉滉も3バックとボランチに対応可能だ。また、右ウイングバックは酒井、室屋成、伊東、左ウイングバックには原口、安西、もしくは左右に対応する菅原由勢もいる。

 果たして、今回のカメルーン戦をきっかけに、森保ジャパンの3バック化は加速するのか。森保監督が見せた采配の変化に継続性が見られるのかどうかも含めて、コートジボワール戦最大の見どころは指揮官のベンチワークになりそうだ。