じつは、日本のプロ野球がちょうどいい投手だと思っていた。それだけに昨年末、日本ハム・有原航平がMLBのテキサス・レンジャーズとの契約が決まったと聞いて、意外な思いがしたものだった。
たしかに、広陵高校(広島)も、その後に進んだ早稲田大でも不動のエースとして、甲子園でも神宮でも大いにスタンドを沸かせた投手だ。ドラフトでも日本ハムのほかに、DeNA、阪神、広島が1位で指名し、ルーキーイヤーには8勝をマークしてパ・リーグの新人王にも輝いた。
レンジャーズと2年契約を結んだ有原航平
日本ハムでの6年間で通算60勝。一時期、故障でマウンドを離れることはあっても、ほぼコンスタントに日本ハム投手陣の屋台骨を支えてきた。
そんな王道を歩んできたエースに大変失礼だが、私のなかではどことなく"存在感"が薄かった。これといって大きな理由があるわけではないが、ひとつ挙げるとすれば、有原が投げる試合でビックリしたことがなかったからではないかと思う。
昨シーズンも異例のシーズンで8勝を挙げたが、ピッチングに"波"があったように思う。試合終盤まで安定したピッチングを披露して2、3点に抑えて勝利を呼び込んだかと思えば、序盤で大量失点を許すこともあった。とらえどころのない結果に「本当の有原はどっちなんだ」と戸惑ってしまうほどだった。
今まで"メジャー挑戦"をぶち上げるのは、こっちが「すげえなぁー」と思うような選手だった。イチローや松井秀喜の例を引き合いに出すまでもなく、たとえば投手なら、日本ハム時代のダルビッシュ有(現・パドレス)は日本でまともに勝負できる打者がいないのではないかと思うほど無双だったし、広島時代の前田健太(現・ツインズ)も投手の最高栄誉である沢村賞を2度獲得するなど、満を持してメジャーへ挑戦した感があった。
それだけに有原は、好投手であることに間違いないのだが、インパクトという部分で物足りなさがあったのも事実だ。
大学時代とプロ入り後、何度か有原と言葉を交わしたことがある。決して声を張ったりせず、冗談を言うわけでもなく、おとなしいというか、品があるというか、こちらが質問したことにきちんと答えてくれる選手だった。
当時の雰囲気からは"メジャー挑戦"など、まるで察することはできなかったが、有原を見ていて、以前、プロの現場に身を置く人から言われた言葉を思い出した。
「野手は誰にも負けない一芸があればプロに挑んでもいい。でもピッチャーは一芸じゃダメ。逆に欠点のないピッチャーが高い給料をもらえるんですよ、プロは」
まさに、有原というピッチャーはこれに当てはまるのではないか。
189センチの長身オーバーハンドでありながら高精度の制球力。両サイドのゾーンが広いと言われるメジャーなら、まさに腕の見せどころだろう。
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ちなみに、日本での6年間通算の有原の与四球率は2.09。四球の少ない投手は、日米問わず歓迎される。安定した投球テンポがバックを守る野手にも好影響を及ぼし、それが援護にもつながる。そんなことを考えていたら、レンジャーズ・有原の今シーズンが楽しみになってきた。
飛び抜けた"一芸"はなくても、ピッチャーに必要な要素をすべて兼ね備えていて、走者を背負ってからのけん制やクイックも達者にこなす。メジャーの強打者をねじ伏せるようなボールはないが、きっちりとコーナーを突き、絶妙にタイミングを外す。
「まだ日本にはこんな投手がいたのか......」。メジャースカウトたちの日本人投手に対する評価や見方を変えるかもしれない。それだけの実力が有原には備わっている。