マスクをしているだけで、まるでひいきのチームのユニフォームを着て試合観戦している者同士のように、最初から明確な共通点を持ち、そのことだけで大いに盛り上がることができる。
私自身、ひどい花粉症なのだが、この時期だけは、同じマスカー(※マスクをしている人。勝手にいまつくった)に対してだけは、初対面でも心を開いて饒舌になることができる。
近所の八百屋さんと、スーパーのおばちゃんと、娘の友達と、お医者さんと、タクシーの運転手さんと、仕事で会った人と、目が合った途端に繰り広げる会話は、すでに用意されているのだ。
そんな花粉症の人たちからよく聞く話題には、いくつかのパターンがある。
○「今日の花粉がいかにすごいか」……これは、ほんの挨拶がわり。「今日はあたたかいですね」くらいの軽いフリである。
○「自分はどのタイプか」……続く話題は、自分の症状だ。鼻水が出る、鼻が詰まる、くしゃみが出る、目がかゆくなる、肌がかさかさする、そのすべてなど。さらに、「私は、杉は平気なんだけど、ブタクサがだめで」など、年間通しての話にまで発展する。
○「いつ発症したか」……「×年前まではなんともなかったのに」とか「とうとうきちゃいましてねえ」「そろそろきそうですよ」など。自分の人生と花粉との出会いについて、話は及ぶ。
○「自分はいかに重傷か」……いよいよ話題もクライマックスに。自分自身も、花粉に対する敏感さ(?)にはかなりの自信があり、「なんらかの探知機などに搭載して、世の中のために役立てないものか」などと常日頃思っているのだが、症状の重さについては「我こそは」という自信の持ち主がけっこう多い。「戸をあけた瞬間にわかる」「朝起きた瞬間にわかるからね!」「雨降ってても、なぜかくるんだよなぁ」などなど。
○「これまでどんな対策をしてきたか」……甜茶、ヨーグルト、レンコン、モーツアルトの音楽、さらにはレーザー治療まで、とりあえず良いといわれるものはたいてい行ってきたが、まだ改善されないというトークもよく聞くパターンだ。
ちなみに、これまで花粉症に関して様々な医師に取材したなかで、共通して言われていたのは、こんなこと。
「皆さん、本当に辛いから、花粉にものすごく敏感なんですよ。外から来た人が花粉をつけてるだけで、すぐ気付くとか」
「花粉がとんでいるオレンジ色の山の映像をニュースで見るだけで、目がかゆくなるという人もいますし、『花粉』という言葉を聞いただけでクシャミが出る人もいるくらいです」
実際、心身医学の分野では、心理的なストレスがアレルギーに影響を及ぼすということが、昔から知られていることでもある。
鼻づまりで夜も眠れず、脱水症状にならないか不安になるほど滝のような鼻水を流し、シャレにならない辛さを抱える私たち“花粉人”は、それを話題にすることくらいでしか救われないのかもしれません。
(田幸和歌子)