当時、中嶋のキャディを務めたのはニール・ボーリンガルという15歳の少年だった。現在47歳となったボーリンガル氏はセントアンドリュース、フェアモントでコース管理人を務めている。同氏が激闘の78年大会を振り返った。
夏休みのアルバイトに全英オープンへの出場権をかけた予選のキャディを選んだボーリンガル少年は、友達とのコイントスで中嶋のキャディを務めることになった。当時は「この小さな東洋人ならとても望みはない」となかば本戦出場をあきらめかけていたそうだ。しかし、少年の予想を裏切って小さな東洋人はプレーオフの末に全英オープンへの出場権をもぎとる。本戦に進んだ中嶋は初日70、2日目71と好スコアで回る快進撃。そして、トップタイで3日目の17番に足を踏み入れる。
17番、中嶋のセカンドショットは左に切ってあるピンに対しグリーン右手前にオンした。そして迎えたバーディパット。ボーリンガル氏は振り返る。「中嶋は素晴らしいパットをした(と思った)。ボールはカップに向かって真っすぐ転がっていったと思ったが、最後の瞬間ボールはグリーンのスロープに掴まりバンカーに落ちていった」がっくりとうなだれた中嶋は、バンカーからまさかの4打を叩き優勝戦線から脱落。言葉も通じず経験もない少年キャディはそれを見守っているしかなかった。中嶋は最終的に17位でフィニッシュし、ボーリンガル少年は150ポンドという夏休みのアルバイトとしては十分すぎるお金を手にした。