ウクライナ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏が2月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米バイデン大統領のウクライナ訪問について解説した。
【ウクライナ侵略1年】ボロディアンカには、ロシアによる攻撃を受け倒壊した集合住宅が残る=2023年2月10日午前、ウクライナ・ボロディアンカ 写真提供:産経新聞社
バイデン大統領がウクライナを電撃訪問
アメリカのバイデン大統領が2月20日、ウクライナの首都キーウを予告なしに訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。バイデン氏のウクライナ訪問は2022年2月24日のロシアによる侵略開始以降初めて。ロシアの侵略を撃退するためにウクライナに5億ドル(約670億円)規模の軍事支援を実施すると表明し、対ロシア制裁を強化する考えも示した。また、アメリカの高官はバイデン大統領のウクライナ訪問後、ロシア側に事前通告していたと明らかにした。
飯田)バイデン大統領の電撃訪問、どうご覧になりましたか?
グレンコ)ウクライナにアメリカの大統領が来たのは、ブッシュ大統領以来ですし、歴史的な出来事だと思います。また、ロシアやその周辺地域の安全が完全にコントロールされていない状態でアメリカの大統領が来るという意味でも、異例の出来事であり、ハードルが高かったと言えるでしょう。
ウクライナが勝つまで支援を続ける
グレンコ)そのハードルを乗り越えてでも来たということは、ウクライナとの連帯を示すことがいかに大事かという判断をなされたのだと思います。
飯田)ウクライナとの連携を。
グレンコ)基本的にこういう訪問は実務というより、象徴的な意味合いの方が大きいのですが、メッセージとしては「ウクライナが勝つまで引き続き支援を続ける」、「支援疲れは起きていない」ということだと思います。
自由民主主義世界はウクライナとともにいる ~ウクライナ国内では「引き続き支援を続ける」と受け止められている
飯田)ウクライナ国内ではどのように受け止め、報じられているのでしょうか?
グレンコ)アメリカが自由民主主義世界のリーダー国として連帯表明したということは、自由民主主義世界は引き続きウクライナとともにいるということです。ともにいるというのは参戦するという意味ではなく、引き続き軍事支援をはじめ、多面的な支援を続ける。そして精神的にもウクライナが勝つまで連帯する、という受け止め方がメインです。
「戦うしか道はない」ウクライナ ~降伏すればウクライナ民族はロシアに絶滅させられてしまう
ジャーナリスト・有本香)アメリカの大統領がウクライナのキーウを訪問しましたが、ウクライナの「徹底的に戦っていくのだ」という国民的意思に変わりはないのでしょうか?
グレンコ)間違いなく変わりはありません。ロシアは何としてでもウクライナを征服し、ウクライナの国土を併合した上でウクライナ民族を絶滅させたいと思っているのです。我々には戦う以外の選択肢は残されていません。
有本)なるほど。
グレンコ)「名誉ある敗北も道ではないか」と言う人もいますが、今回の場合、名誉ある敗北、名誉ある降伏という道は残されていないのです。なぜなら、降伏してしまうとロシアによって、ウクライナ民族が完全に絶滅させられてしまうからです。自分の命を維持するという意味でも、「戦うしか道はない」ということがはっきりしています。
ロシアの侵略戦争にこれまであった4つの段階
飯田)ブチャでの一連の流れなどを見ると、グレンコさんが指摘されたことが本当に起こり得るということが白日の下に晒されたわけですからね。この1年間で、グレンコさんはさまざまなところで論文を出していらっしゃいます。「3つの段階があった」と分析されていますが、どういうことなのでしょうか?
グレンコ)厳密に言うと、現在では4つの段階になっていると言えます。第1段階は電撃戦、そのあと第2段階として砲弾を大量に撃ち込む作戦に移りました。第3段階では、民間インフラなどを集中的に攻撃するミサイル大量攻撃作戦を行いました。そして第4段階として、いま東部で人海作戦が行われています。4つの作戦があったということです。
ある程度失敗してもロシアが「自分の意志で止まることは見込めない」
グレンコ)次から次へとさまざまな手段を使って、ウクライナを征服しようとするわけです。しかし、どれも上手くいかなかった。
飯田)すべて成功しなかった。
グレンコ)ポイントは、1つの作戦がうまくいかなくても、次から次へと新しい手段に切り替わるということです。
飯田)1つの作戦が失敗しても。
グレンコ)ロシアは、どんなに損害が大きくても、ウクライナを征服するまで戦争を続けるつもりです。この時点でロシアにある程度の損害を与える、また、ある程度敗北させても、ロシアが「自分の意思で止まることは見込めない」ということです。
ウクライナに対して異常なほどの執着を持つロシア ~ロシア人の命がどんなに奪われても構わない
飯田)タイムスパンとして、ロシアはかなり長く見積もって戦おうとしているところがありますね。
グレンコ)かつてのソ連によるアフガニスタン戦争、あるいはアメリカのイラク戦争やベトナム戦争と同様に見ることはできないのです。ロシアのウクライナに対する執着は、いまの常識では考えられないほどのものです。彼らはどんなに時間が掛かっても、ロシア人の命がどんなに奪われても構わないのです。
飯田)考えられないほどの執着を持っている。
グレンコ)100万人~200万人のロシア人が亡くなっても、ウクライナの土地を手に入れれば、ロシアからすると妥当という認識なのです。
飯田)日本でよく言われる「どこかで停戦」などという話は、そもそも論として現実味が薄いわけですか?
グレンコ)ロシアの思惑からするとあり得ないことです。
ウクライナが勝つまでサポートして欲しい
有本)いまの話は、日本にとっても大きな教訓だと思います。一方で、日本もさまざまな支援を行ってきた面があります。
グレンコ)先日、岸田首相がウクライナに対する55億ドルの財政支援を表明しましたが、それは非常に大事なことです。戦争で経済どころではなく、常にお金がない状態ですので、ありがたいことです。
飯田)55億ドルの財政支援は。
グレンコ)アメリカをはじめとする自由民主主義諸国は、この1年ウクライナへの支援を続けていますが、引き続き必要です。日本も自由民主主義国家としての自覚を持って、アメリカに次ぐくらいの支援を行い、ウクライナが勝つまでサポートする。それを日本の国益と安全保障につなげるような姿勢を取っていただきたいと思います。
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