甘美にして苦しい読書体験。苦しさの間に、心が平らかにぬくむひと時がある

甘美にして苦しい読書体験。苦しさの間に、心が平らかにぬくむひと時がある


『水声』(文藝春秋) 著者:川上 弘美

◆魂の荒野を彷徨い生まれ来る人間
思えば、「いもせ」という日本語は中世前には、夫婦を意味すると同時に、兄妹または姉弟も意味したのだった。両者には同じ語(妹背/妹兄)が充てられていた。古来、男女のきょうだいが結ばれて土地の始祖になる、世を治めるという考えは日本だけのものではなく、ギリシャ神話にも、古代エジプトの王家にも見られた。

『水声』の語り手の女性「都(みやこ)」と一歳年下の弟「陵(りょう)」は、母の没後十年を経た三十代後半から古い実家にふたりで暮らし、共寝している。「あらあら、そんなことして、いいのかしら」と死んだママの声。しかしふたりはそれ以前にも、「鳥が太く短く鳴いた」夏の一夜を密かに経験していた……。

人間というのは、魂の荒野を彷徨(さまよ)ってから生まれてくるのではないか。そこで感じた孤独、寄る辺なさ、悲しみ、怒りを体と心に刻印して生まれてくる。わたしたちは予め害された存在なのではないか。しかしながら同時に、わたしたちは予め赦し、赦された存在なのかもしれない――『水声』を読みながら、そんなことを思った。甘美にして苦しい読書体験だ。苦しさの間に、心が平らかにぬくむひと時がある。

陵は地下鉄サリン事件の現場に居合わせ、ほんの偶然から命拾いをした後、姉に同居の申し入れをし、眠れないという理由でふたりの共寝が始まる。「まだあの時のことをたびたび思い浮かべてしまう<中略>おれには確かに、あの時の手ざわりがあるんだ」……。

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