一介の技官から国鉄総裁へ。鉄道に人生を捧げた男の数奇な運命

一介の技官から国鉄総裁へ。鉄道に人生を捧げた男の数奇な運命


『鉄道人とナチス: ドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラーの二十世紀』(国書刊行会) 著者:鴋澤歩
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに加担したドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラー。日本ではほとんど知られていないこの鉄道人について、その生い立ちからヒトラーとの関係性まで、ドイツ国鉄の成り立ちを交えて活写した『鉄道人とナチス』。第44回交通図書賞受賞も果たしたこの労作の執筆秘話を、著者鴋澤歩氏自身による後書きで紹介する。


◆第二次世界大戦の最中、技術官吏からドイツ国鉄総裁へと上り詰めた鉄道人はなぜユダヤ人虐殺に加担したのか?
まだ20代のおわりごろであったように記憶している。とある編集者の方に会うことができた。駆け出しの経済史研究者を大阪に尋ねてくれたのは、同じ出版社のご同僚の紹介によるものだったが、私が19世紀工業化時代のドイツの鉄道を扱っていると知ると、その方は少し考えて、「『ドイツの鉄路はすべてアウシュヴィツに通じていた』という本なら、出してあげます。」という意味のことをおっしゃった。わかりましたありがとうございます書きます―と即答しなかったのは、我ながらいかにも若かった。また、たいした考えがあってのことでもなかったのである。ドイツの鉄道の発展が、ナチス・ドイツに収束するだけだったのでは必ずしもなかろう、という確たる主張をもっていたのではない。その時の感想を言葉にすれば、「そういう本を書くのは、俺の柄ではないなあ。」に、ほぼ尽きる。当時の私はドイツ経済史をもっぱら数字いじりでやれないかと考えており―今もそれはあまり変わらないのだが―、新しいデータも新鮮な視角も手元にないのに、それについて自分に何か書くべきことがあるか疑わしく感じた。いかにも禁欲的な研究者然としているようだが、もちろん自慢したいのではないし、実際に私は昔からそう立派ではない。有体にいって、ナチや戦争やホロコースト(ショアー)について書くのは、おっかないことだと思えたのである。20世紀前半のドイツ史に興味がないはずはないが、それについて文章を書くのは自分ではない、もっと何かの確信のある人たちではないか……。

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