かつて日本にいた、おのが生を断ち切る男たち。彼らの過した一日一日は、さぞ高密度だったことだろう

かつて日本にいた、おのが生を断ち切る男たち。彼らの過した一日一日は、さぞ高密度だったことだろう


『新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨 』(講談社) 著者:吉村 昭

◆高密度の生を描く
アメリカの商船カロライン・フート号が、 カムチャツカから下田港へ帰ってくる。船長の妻や長男長女など、十一人の男女が、宿泊所の玉泉寺で、今か今かと帰帆を待ちこがれていた。中に、当年二十歳の、水先案内人の妻がいて、夫恋しさのあまり、精神錯乱に近い取り乱した言動をする。やっと、その夫が帰ってきた。境内の入口で、走ってきた夫に駈け寄り、抱きつく。

“二人は激しく抱き合い、荒々しく唇を吸った。唇をもどかしそうに動かし、舌をからめ合う。女は肩をふるわせて号泣し、唇をふれさせたりはなしたりしながら泣きくどく。頬に涙がながれ、男の眼にも涙が光った。”

幕府の勘定奉行、川路聖謨(としあきら)が、ロシア使節プチャーチン中将を相手に、日露和親条約の締結へこぎつけるまでの、歴史に名高い悪戦苦闘をつづけていたころの話である。たちまち一室に引きこもって、声を放ちつつ男女の交わりをするこの紅毛人夫婦の「愛」の生態に、わが日の本の侍たちがどれほどの衝撃をこうむったか、誰しも想像がつこう。

四百四十ページに余るこの歴史大作は、「文化十四年、(川路聖謨は)十七歳で勘定所の筆算吟味をうけて及第し、翌年、支配勘定出役、評定所書物方当分出役となった」というような乾いた記述と、「川路は、絶句した。自分でも容貌はととのっていないことは知っているが、プチャーチンに慰められるほどひどいとは思っていない」のような平淡な「語り」と、初めに引いた急調子の、映像喚起ふうな描写がないまぜになっている。

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