読者は宙吊り状態に置かれるのだが、この〈宙吊り〉が、春樹の世界のメタファーであることは言うまでもない

読者は宙吊り状態に置かれるのだが、この〈宙吊り〉が、春樹の世界のメタファーであることは言うまでもない


『カンガルー日和』(講談社) 著者:村上 春樹
村上春樹の小説の魅力は、何よりもまずその語り口にある。語り手は〈僕〉であり、その背後には大抵音楽が聞えるからちょうど〈僕〉のディスク・ジョッキーを聴いているような気分になる。しかも、川本三郎が『風の歌を聴け』の批評で指摘したように、作品の真の主人公は多くの場合、言葉そのものだ。

その意味で、村上春樹がマヌエル・プイグの小説に強い関心を示したのも当然と言える。つまりプイグの作品の主人公は、常に言葉自身なのである。また、音楽、映画を巧みに取り入れ、軽い文体を作っていることも二人に共通しているのだが、興味深いのは、それをマスメディアとの関わりという風に見れば、〈ブーム〉以後のラテンアメリカ作家たちに共通して見られる特徴でもあることだ。その背景には、経済成長にともなう近代化、都市化、中間層の増大があり、それらが村上春樹の作品同様、彼らの作品に〈世界的共時性〉を与えていることも見逃せない。ラテンアメリカの新しい小説の多くは、日本の読者の期待に反して(?)、少しも〈土俗的〉ではないのだ。二十年代のブエノスアイレスの発展が生んだボルヘスは、その先例にすぎない。

『中国行きのスロウ・ボート』に次ぐ短篇集『カンガルー日和』に収録された作品は、前者の作品よりもはるかに短いため、語りの要素が一層重要であり、ほとんどそれだけで読ませると言っていいだろう。例によって、カンガルーをはじめ、羊、あしか、鴉、かいつぶりといった動物もしくはその名が盛んに現れる寓意的な作品が多く、また著者もあとがきで触れているように、長篇

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