晴明伝説のネタ本、見〜つけた!

晴明伝説のネタ本、見〜つけた!


『兵法秘術一巻書・簠簋内伝金烏玉兎集・職人由来書』(現代思潮新社)

◆晴明伝説のネタ本、見~つけた!
偽書は、近代の自我意識の産物である盗作や贋作(がんさく)とは別物だ。平安末期から鎌倉時代にかけての院政期、秩序の混乱に乗じておびただしい偽書が産出された。現行の諸制度を支える権威が失墜するとともに、過去のいつか、または異国(唐天竺<からてんじく>)のなにがしかの権威に仮託して、まことしやかなメッセージが発信されたのである。

日本古典偽書叢刊(そうかん)の本巻に収録されているのは主として暦の偽書。乱の時代であればこそ天体運行の必然から割り出される暦数書が頼りにされるので、「兵法秘術一巻書」といった兵法書までもが暦占に左右された。

兵法の駆け引きを描いた書といえば、伝・定家の小説『松浦宮物語』を思いだす。九人の分身の神兵が活躍するストーリーにリアリズム小説にはない抽象的構成の新鮮さを覚えたものだ。本巻編集の深沢徹氏によれば、これも定家が「文殊宿曜経」をふまえた偽書だという。さもありなん。ちなみに囲碁も偽書時代の伝来。偽書はそもそものはじめから遊戯(ゲーム)感覚と関(かか)わるところが大だったようだ。

さて、収録偽書のハイライトは、なんといっても「簠簋内伝金烏玉兎集(ほきないでんきんうぎょくとしゅう)」。小説に、マンガに、今をときめく陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明ブームの源流がこれだ。そうはいっても「ほき内伝」の肝心の部分は宣明暦(貞観四年<863>施行、以後八二三年間使用)と重なる「文殊宿曜経」。これを権威づけるために、いかにして唐天竺から伝来したかを西遊記ばりの取経譚(たん)として虚実こきまぜて語ったのがいわゆる晴明伝説で、これが人気沸騰の平成晴明像のネタ本だ。(ALL REVIEWS事務局注:本書評掲載年:2004年)おかげで実際は渡唐していない晴明が先人の阿倍仲麻呂や吉備真備を巻きこみ、さらに大江匡房までもが一役買って、にぎやかなことこのうえなし。

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