荒川洋治の著作には、勇気と率直さに貫かれた真っ直ぐな文章が溢れかえっている。処世術や世間智とは無縁の場所で、本当に思っていることだけを表現し続けている。詩集『空中の茱萸』でも、その姿勢は一貫して揺るぐことがない。たとえば、前衛画家の岡本さんと政治家の浜田さんのテレビ対談を下敷きにした「完成交響曲」。まさに拙文の冒頭で紹介したブロツキイのエピソードさながらの〈無理解という壁〉を嘆くでも、怒るでもなく肯定し、現代詩はその壁を相手に話をしていくのだと、荒川洋治は凛々(りり)しく宣言する。その気持ちを高潔に保ったまま、全部で十六篇の詩を生み出している。〈無理解という壁〉たちが、無頓着に生活使用されている死に体の言葉たちを、裸のままにすっくと立ち上がらせてみせている。
詩は一体、どこで、何をしているのか――。今日、わたしが出会った荒川さん家(ち)の詩は、真っ裸で胸を張って堂々真っ直ぐと歩いておりました。
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『そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド』(アスペクト) 著者:豊崎 由美