『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)著者:若竹 千佐子Amazon |honto |その他の書店

◆古層に眠る自己動かす言葉
第54回文藝賞受賞作。話題の「玄冬」小説だ。
玄冬、つまり、青春の対極。年を重ね、子育ても終わり、老いと向き合った女性の一人語りという形式をとっている。

だがそう要約してしまうと、この小説の美点が消えてしまう。何よりも主人公の桃子さんが魅力的だ。74歳になる彼女は、15年前、夫の周造を亡くしている。悲しみの淵に沈み込む彼女の中に、「おら」という一人称が甦(よみがえ)る。「わたし」という衣装のような自分ではなく、自分の古層に眠っていた自己が動き出す。「喋れ、喋ってみろ」という声に押されるように、桃子さんは東北の言葉で語り出す。

見事な完成度の小説。生きる力に溢れているデビュー作。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。
ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2017年11月30日

【書誌情報】
おらおらでひとりいぐも著者:若竹 千佐子
出版社:河出書房新社
装丁:文庫(192ページ)
発売日:2020-06-24
ISBN-10:430941754X
ISBN-13:978-4309417547
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