3月4日より『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』がいよいよ公開! 3年ぶりに春の公開となるシリーズ最新作は、ファンの間で強い人気を誇る『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(1985)を再映画化したものだ。
もちろん単なるリメイク作品ではなく、佐藤大が手がけた新たな脚本、3DCGで描かれる宇宙船バトルなど、様々な面で新たな取り組みがなされた必見の1作となっている。


本作公開を記念して、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』演出を経て今回シリーズ初監督を務めた山口晋監督インタビューを掲載(全2回)。後編である今回は前作『のび太の宇宙小戦争』からの変更点、そして本作に込められた80年代特撮作品へのオマージュについて熱く語っていただいた。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』に込めた特撮映画への思い

>>>スタッフのこだわりにも注目!『のび太の宇宙小戦争 2021』場面カットを見る(写真12点)

――前作の『のび太の宇宙小戦争』という作品が存在として大きいと思うのですが、前作を踏まえて取り組まれた部分などありますか?

山口 中学2年生までは『のび太の宇宙開拓史』を映画館で観ていたんですが、その頃やっていたアニメといえば『機動戦士ガンダム』、『伝説巨神イデオン』、『あしたのジョー2』などがあって……『のび太の宇宙小戦争』公開当時はもう高校生になっていて、その前年には『風の谷のナウシカ』が公開されたという状況でしたので、どうしてもそっちへの興味が強くて……。

――当時の10代のアニメファンなら、そちらへ行ってしまいますよね。

山口 そういうわけで、前作からリアルタイムで受けた影響や思い入れということよりも、、むしろ一から原作にあたって「自分たちだったらこうする」という方針で取り組みました。

――そういう意味で言いますと、原作から変わった部分もありますね。
大きいところで言いますとパピが物語の中盤までのび太たちと行動を共にしていること、そして原作には登場しないパピのお姉さん・ピイナの登場です。

山口 パピとの別れのタイミングをズラそうというのは、佐藤さんたちとも相談した上で大きく構成を変えた部分ですね。まず改めて原作を読み返してみると、知り合ってかなり早い段階でパピがPCIAに連れ去られて、スネ夫・ジャイアンと親睦を深める間もなく離れてしまっているなと感じました。
なので、もう少しのび太たち5人組とパピの親交を深める過程を見せたいという狙いがありました。さらに親しくなったその後で、それでもパピが自分の意志でPCIAの本部に向かうという流れにしたことで、パピの決意の強さも見せられるんじゃないかなと考えたんです。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』に込めた特撮映画への思い

ピイナの追加に関しては、あまりにもパピの設定がかわいそうだと思ったからです。
家族もなく、10歳なのに大統領という重荷を背負わされてるのは大変すぎるだろうと。。もちろん後見人的なゲンブという人物は出てくるんですが「どうしてここまで頑張れるんだろう」という疑問がどうしてもあって、その人の前でなら泣けるというキャラクターを用意しないと、ちょっと心情的に辛かったんです。
もちろん新しいキャラクターを作るということに関してはいろいろ問題があったのですが、それでも今回は追加させてください、とお願いして実現しました。

――今回、白組が制作したCGミニチュアモデルが劇中に取り込まれて登場することも話題ですが、これも山口監督の発案だそうですね。

山口 実はアイデアの一つで「劇中のスネ夫のミニチュアを立体物で作って、宣伝物としてどこかに展示したりすれば面白いんじゃないか」ということを言ったら、いつの間にか白組さんがやってくれるということに話が膨らんで、出来てきたものを見せていただいて「そういう方向性でしたら是非お願いします」となった、というのが本当のところです(笑)。


――そういう流れだったんですね(笑)。

山口 それを見たら逆に欲が出て、「ラストシーンでの見せ場であるピリカ星の街並みもミニチュアで出したい」とお願いしました。観る人に「急に質感が変わったな」と極端な違いを感じられても失敗なので、わかる人だけわかればいいという、あくまで制作側の自己満足が大きかったかもしれませんが……。

実写と二次元ではパースや質感がキッチリ合うわけがないので、そこは白組さんや撮影スタッフにいろいろやっていただきつつも、80年代の特撮作品に対するリスペクトを込めて、少し違和感を残すくらいの按配で作っています。

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2021

――なるほど! 確かに原作の『のび太の宇宙小戦争』も、特撮作品へのこだわりが感じられる作品でしたからね。

山口 スネ夫のミニチュアに関しては、小学生が自主製作の特撮映画用に用意したものですから、あえて部分的にディテールを抜いてもらう方向で作ってもらいました。
先ほどの話にもつながりますけど、昨今のアニメ作品の絵作りはどんどんデコレイティブになっていますが、それは『ドラえもん』の目指すところではないと思います。
例えばクジラ型宇宙戦艦はCGなので、やろうと思えば表面処理もコテコテのものができるんです。しかし「CGだから情報量を増やそう」とならないよう、全体的な情報量の配分にも気をつけたつもりです。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』に込めた特撮映画への思い

――『映画ドラえもん』は、毎回主題歌も大きな話題を呼んでいます。本作はOfficial髭男dism『Universe』で、これもまた名曲ですね。

山口 前作の『のび太の宇宙小戦争』における武田鉄矢さんの主題歌『少年期』の存在の大きさは言うまでもありませんが、それに勝るとも劣らないと思っています。
ヒゲダンさんのピアノの前奏を聞いた時点で、成功だったと確信できましたから。自分はアニメーターの延長として演出をやっていますので、音楽とか、主題歌、挿入歌、ゲスト声優さんを含めて、ある程度は音響監督さんたちに委ねるしかないわけですけれど、皆さん良い仕事をしていただいて、つくづく自分はラッキーだなと思います。

――ビリー・バンバンの挿入歌『ココロありがとう』はピリカ星への潜入前夜の場面で流れ、とても場面にマッチングした曲になっていましたが、あのシーンで流すことを前提に作詞などを依頼されたのですか?

山口 ビリー・バンバンさんの起用は製作プロデューサーからのお願いがあり、作業の途中で仮歌をいただきました。本作の作業中は思い通りにならないことばかりで荒んでいたんですが、ビリー・バンバンさんの歌声を聴いた時すっかり心が浄化されました。一時的にですが(笑)。

さらに、曲に引っ張られる形で「ドラえもん、のび太、ジャイアンが特殊任務を帯びて、しずか、スネ夫と別れるシーンに入れられるんじゃないか」と思い付いて、その場面のコンテを膨らませてみたんです。
結果、流れにメリハリもついて良い感じになったので、そのまま決定しました。

――『のび太の宇宙小戦争 2021』は1年間の延長を経ての公開となり、ファンにとってはまさに「待望の一作」になります。山口監督も同じ気持ちではありませんか。

山口 はい、自分が一番待ち遠しかったかもしれませんね(笑)。待望の『映画ドラえもん』を監督させていただきながら、完成したとほとんど同時に新型コロナの影響で公開延期になりましたから。「もしかして、映画が完成したこと自体が夢の中の出来事だったんじゃないか」と思うくらいの心境でしたが、やっと公開の日を迎えられてとても嬉しいです。

恥じらうことも臆面もなく、少年少女たちの友情や冒険を真っ向から描こう、観た後で「自分も頑張ろう!」と思ってもらいたいという気持ちで作った作品です。どうか旧作が好きな人も観ていない人も、原作が好きな人も何も知らない人も全部ひっくるめて、新たな気持ちで21世紀の『のび太の宇宙小戦争』を観ていただいたら嬉しいです!

――ありがとうございます。何度でも堪能したいと思います!

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