『LUPIN ZERO』は、モンキー・パンチの原作漫画『ルパン三世』連載当初と同じ昭和30年(1960年)代を舞台に、まだ何者でもない ”ルパン” が高度経済成長期の日本を駆け巡るオリジナルストーリーだ。
本作のルパンは祖父から盗術を仕込まれながらも、自分の将来を決められずにいる中学生。
カタギになるか、それとも泥棒になるか……悩みながらも退屈な日々を過ごす中、ルパンは不良相手に銃を抜く同級生・次元と出会う。二人の距離は、ある女性との出会いをきっかけに急速に接近することに……。

『ルパン三世』(『ルパン三世 PART4』)では作画監督、『ルパン三世 PART5』で副監督を務めた酒向大輔監督、同じく『PART5』でシリーズ構成・脚本を務めた大河内一楼は、本作でどんなルパンと次元を描くのか、話を伺った。

>>>ルパン&次元の出会いに注目!『LUPIN ZERO』場面カットを見る(写真17点)

――まず今回、ルパンの少年期を描くことになった経緯をお聞かせください。

酒向 ルパンの少年時代を描く、というのは企画の前提としてありましたが、どの年齢にするかは僕らが決めていったんです。小学生か中学生かというところで、僕としては観てほしい想定年齢層――勿論老若男女に楽しんで頂きたいのですが、特にこの作品で初めて『ルパン』に触れる層にアプローチしたかったんですね。


彼はルパン一族なので泥棒家業を継ぐわけですが、それってお爺ちゃんやお父さんに言われたからやる、というわけではないと思うんですね。他人に「やれ」と言われたことをやりたくない、でもその理由を上手く言葉にできない年齢の男の子がルパン三世になることを自分で決めていく、というストーリーをお願いして書いていただきました。「自分のことは自分で決める」ということが、6話を通して描きたいテーマとしてありましたので、そこから13歳という年齢に決めていきました。このようなルパンを描いたので思春期の視聴者さんの共感を得たいなと思いました。

――本作に関して、どういったモチベーションを持って取り組まれましたか。

酒向 『PART5』のあと、そのまま『PART6』をやるものと自分では思っていたのですが、それが叶わずに、自暴自棄になって荒んだ生活を送っていたのですが(笑)、そんな時に「この企画をやらないか」と声をかけられたので、それまでの燻ぶった思いをまとめてぶつけました。

つまり、モチベーションは「『ルパン三世』のアニメを作る」ということですね。この業界に入ったのは『ルパン』を作りたいからでしたし、仕事をする上での原動力なんですね。

――しかし本作は、まったく違うルパンになりますよね。そこは大丈夫でしたか。
『LUPIN ZERO』酒向大輔監督&大河内一楼が示すルパン&次元の出発点

酒向 主人公二人が若くなるだけで相当新しいイメージが合って、そこからいろんな選択肢があったんですけれども、今回はルパンの入門編として作って、これまでのシリーズへの橋渡しにしたいと考えていました。なので、これまでのルパンの印象は残したかったんです。

少年期のルパンは原作にも出てきたんですが、次元は完全に創作なんですよ。まったくイメージが湧かなくて、キャラクターデザインの田口(麻美)さんに丸投げしちゃったんですが、あの次元くんが上がってきて、それを見て「あ、この作品はイケるな」と思えたんです。

――キャラクターデザインが大きなポイントになったわけですね。

酒向 いや、田口さんの絵は本当に良いんですよ。版権イラストも本当に評判が良くて。で、もうひとつのポイントが音楽です。
今回はどうしても「ルパン三世 PART1」のスコアを使用したかったので、関係各所へ確認し、使わせていただけることになりました。そして世界で山下毅雄さんに最も詳しい大友良英さんにリメイクをお願いしたところ、快諾頂けて実現しました。

結果としてはルパンと次元のドラマにして良かったと思っていて、そこでキャストが3つ目のポイントになりました。音響監督の丹下さんの努力もあって、畠中さんと武内さんは常に一緒に収録できて、二人のお芝居がギクシャクした出会いから仲間になっていく過程を見事に作ってくれたので、二人だけを追いかけて観ていただければ何の心配もない内容にできたと思います。

――畠中祐さんと武内駿輔さんのコンビはベストチョイスだった?

酒向 本当に助けられましたね。嬉しい話が一つありまして。
普通、アフレコの台本は声優事務所の方から各声優さんに渡されるんですが、畠中さんは早く読みたくて自分で取りに行ったそうです。それだけ物語にのめり込んでいただいていたのか、と。
あと話数を重ねるうちにグルーヴ感が出てきて、あの二人の実際の関係性――友達のような相棒のような、それに近い距離感を感じさせるんですね。こちらはそういう部分を知らず、たまたまこのキャスティングになりましたけれど、結果としてそういうことが全部上手く噛み合って良くなっていったんだと思います。

大河内 畠中さんは前にも何回かご縁があって、どういう魅力を持つ役者さんか分かっていたので期待通りというか不安はなかったんですけれど、武内さんとは初めてのお仕事で。でも第一声を聴くなり「わ、めっちゃ次元だ!」と(笑)。
少年の声を出そうと無理していないところもすごく良くて、最初の一言で納得させられましたね。しかし、そもそも酒向さんは何故そんなに『ルパン三世』が好きなんですか?

酒向 僕、この世で一番面白いアニメが『ルパン三世』だと思ってるんですよ。子供の頃たまたま観た『カリオストロの城』で夢中になったんですね。

大河内 観始めたのは赤ジャケ(『PART2』)の時代ですか?

酒向 最初に観たのは再放送の緑ジャケと赤ジャケ(『PART1』と『PART2』)で、リアルタイムはTVスペシャル。入口はそんな感じだったんですけれど、いろいろ考えていくと『ルパン』のコンセプトって世界中を見て回ってもないんですよ。『007』シリーズみたいな似ている作品はあるんですけれど、泥棒が主人公で相棒がガンマンと侍、そこに美女が絡んで警察から追われている、そんな面白い設定は他にないなと。まあ、それは僕個人の屁理屈であって、ただただ「好き!」ってことなんですが(笑)。

大河内 モーリス・ルブランのルパンは読まれたんですか。

酒向 小学生の時、図書室に並んでるのは観ましたけれど「ああ、あるな」くらいで(笑)。『カリオストロの城』を観た時は、アニメーションとしての快楽とキャラクターの魅力が刷り込まれたんじゃないですかね。

大河内 でも『カリオストロ』って難しくないですか。「俺は今、宮崎駿を好きになったのか、それともルパンを好きになったのか?」って思いません?

酒向 それは大人になってから考えることですよ!(一同笑) ただただ面白いと思って、次に「死の翼アルバトロス」とか観るじゃないですか。

大河内 ……宮崎駿じゃないですか!

酒向 違うんですよ! 当時のレンタルビデオ屋で『カリオストロ』の横に「アルバトロス」と「さらば愛しのルパン」が収録されたビデオが並んでたんです。で、それを観たらやっぱり面白いじゃないですか。そこからアニメージュを読み始めてエンドテロップでスタッフなんかもチェックするようになりましたし、最終的にテレコムにも入ることになるんです。つまり、僕は『ルパン』を入口にアニメおたくになってしまったんです。

大河内 エンドテロップを見るようになったら完全にそうですよね(笑)。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

――では大河内さん、本作で表現しようと思ったものは?

大河内 『PART5』をやったことで、自分としてはかなり満足していて、もう一度ルパンを作ることはないと思っていたんですが……『PART5』の次ではなく、前ということだったので、参加させていただくことにしました。ルパン三世誕生の物語ということだったんですが、僕は「人間と人間の関係」を描きたいと思っているので、ルパンだけじゃなく相手がほしい。そのルパンの一番最初の”相手”は、不二子でも銭形でもなく、次元がいい。
『PART5』のラストは不二子で締めているんですけれど、次元としては「いやいや、俺との関係の方が先だろう」と。23話(「その時、古くからの相棒が言った」)で一応そういうやり取りを描いてはいるんだけれど、今回ちゃんとルパンと次元の始まりを描きたいと思ったんですね。
『LUPIN ZERO』酒向大輔監督&大河内一楼が示すルパン&次元の出発点

――次元という人物は魅力的ですものね。

大河内 次元は前から好きでしたけれど、『PART5』を書く前とその後では好きの度合いが変わりましたね。23話が書けたことと小林(清志)さんの演技に感動したので、自分で言うのも何だけれども傑作回になったなと。今となっては、小林さんじゃないとあの台詞(「ルパン、お前との付き合いは俺が一番古い/お前に引導を渡せるのは俺だけだ、不二子なんかにやれるかよ」)は言えなかっただろうし、あの時が唯一無二のタイミングだったんだなと。それだけに『PART5』の後の次元を書け、と言われたら困ったけれども、その前の次元なら書けるんじゃないかと思ったんです。

酒向 補足すると、『LUPIN ZERO』の次元が『PART5』の次元なのか、と言われればそれはわからないです。ただこれまでのシリーズで描かれてきた出来事が「事実」としてあるわけで、僕個人としてはそれらを踏まえて想像したものを描いたということです。

大河内 いわゆる「酒向史観」。

酒向 そう、僕なりのルパン史観です。

――昭和30年代の日本を舞台にする楽しさや難しさ、というのものはありますか?

酒向 作業が終わった後にもっと良い資料が見つかった、なんていうことがありますね。「何だよ、これ使えたじゃん!」って(笑)。ただ『PART5』に続いて設定の白土(晴一)さんに教えていただいたのは「すべては物語ありき」だということ。今回は沖浦啓之監督の『人狼』(2000年)みたいな作品のように時代を忠実に描く必要はなくて、あくまでもルパンを描くことが大前提です。

大河内 昭和30年代を舞台にしたことで、未開の土地の少女を出したりすることができたのは面白かったですね。『あしたのジョー』にハリマオっていうボクサーが出てくるんですが……。

――マレーシア出身の空中戦を得意としたボクサーですよね。

大河内 チョコレートが大好きで「ガウガウ!」って喋る野生味あふれるキャラなんですが、いくら未開の出身だからってそんなわけないだろうと(笑)。でも、あの時代のあの作品の中では許容範囲になっていて、今回もそういう昭和初期の乱雑で鷹揚な空気感で書いているんです。ルパンや次元は中学生なのに劇中で煙草を吸うんです。今だったら大問題で確実にアウトなんですけど、当時の風景ではありえる一風景として存在している。

――学生の次元が銃を持ち歩いているという設定も、まだ戦後の香りが残る昭和30年代ならあるかもしれない、という絶妙な距離感を感じました。

酒向 確かに、そういう部分は助けられているかもしれませんね。

大河内 物語に出てくる事件も当時ならあるだろう、という方向のものを描いています。

酒向 ……最後に畠中さんの話、もう少しして良いですか?

――どうぞ!(笑)

酒向 畠中さんのお芝居ってどんどん湧き出てあふれ出るイメージがあったんですね。だから、今回は畠中さんの演技を受けとめられる「器」――ルパンのポーズや表情を用意した映像を作ってアフレコに臨んだんです。

――映像を観ることで、さらなるフィードバックもある?

酒向 『PART5』の時もそうでしたけれど、持って行った映像で演技が全然変わるんですよ。それは今回、本当に上手くできたと思っているんです。

――かなりの自信作に仕上がったわけですね。

酒向 個人的には畠中さんの代表作になったと思います! いや、そう勝手に言っているんですけれど(笑)、本当に素晴らしいので、ぜひ観ていただきたいですね。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS