TVアニメ『エスタブライフ』と共通する世界観で描かれるオリジナル劇場アニメ『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』が1月5日(金)から劇場公開中だ。
人体実験によって改造人間となったキサラギは、分断された「東京」の制覇を目論む不死身の吸血鬼集団「不滅騎士団」に ”裏切者” として追われていた。
新宿クラスタに逃げ込んだキサラギは、親友クルスとその妹・ルナルゥの元へと身を寄せることになる。しかし、吸血鬼に加えて、新宿クラスタのヤクザたちも追っ手に加わったことで、事態は予想外の大抗争へと発展していく――。

破天荒な設定とアクションで一気に突き進む本作はいかなる思いを持って結実したのか、本作では原案・脚本も担当した谷口悟朗監督、主人公・キサラギ役を演じた小野友樹さんにお話をうかがった。

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――本作はTVアニメ『エスタブライフ グレイトエスケープ』と共通の世界観で描かれている作品になりますが、今回新宿をメインの舞台にしたのはどういう理由から?

谷口 ぶっちゃけてお話しますと、私は最初この映画を(TVシリーズとは)まったくの別物と考えていまして、エクアたちも出さなくていいかなと思っていたんですよ。ですが、プロデューサーたちから逃がし屋たちも出して欲しいと希望がありまして。まあ、確かに既にあるものを変えていく方が作業的には効率が良いし、その分のカロリーを別のところに突っ込めるかと考え直して、だったら舞台は新宿かな、と。
それ以外のクラスタだと、パンツ一丁だったりペンギンが支配していたりと癖が強くお話的にやりづらいんです(笑)。

――小野さんは、本作の新宿クラスタの世界観をご覧になられて、どんな印象を抱かれましたか。

小野 新宿はスタジオもあるのでよく通っている、割と馴染みのある場所なんですが、このクラスタは歌舞伎町あたりのエリアを拡大してさらに荒廃させたような印象がありますよね。

谷口 はい、あの辺りはバブル期の新宿のイメージです。街の汚い部分が夜のネオンの光に隠されている――その雰囲気が小野友樹さんにはよく似合う、と。

小野 なるほど!……って、え?(笑) でも今の監督の説明を聞いて、何となく自分の中で腑に落ちたところがありました。
その日その日を生き抜いていく切迫感と華やかな夜の街が両立している世界――そんな新宿のイメージが本作の世界観にドンピシャだったのかな、と思っています。

――本作の登場人物は誰もが曲者という印象なのですが、その中でも小野さん演じる主人公のキサラギは強烈なキャラクターだと思います。構成要素の一つひとつの癖も強いのですが、谷口監督はこの人物をどういう思いで生み出されたのか、また小野さんはどのような印象を受けましたか。

谷口 本作の企画であるスロウカーブさんとは先に『revisions リヴィジョンズ』(2019年)で組んでいたのですが、これは元々あったストーリーや世界観に後から私が乗っかった形で進めたものだったんですね。「じゃあ次は企画の立ち上げから一緒にやりませんか?」みたいな話になって、いくつか挙げた企画の中に 自分の身体を手術しながら吸血鬼と戦う医者のキャラクターがあって、「これを持ってきたらハマるかな?」と考えたのが始まりですかね。
他の記号は実写映画的にクセが強いものを選定した、と言えばいいでしょうか。
例えば「ヤクザ」って実写映画の中では大事な要素のひとつじゃないですか。クセが強くって。

――小野さんから見たキサラギ像はいかがですか。

小野 キサラギは性格上のクセはそこまでなくて、周囲の環境に翻弄されて、結果としてそうならざるを得なかったっていう印象を持っています。というのも、本編で挿入される過去のキサラギの姿がすごく素直な感じなんですよね。 確かに改造人間ですし、ヴァンパイアを殺せる血を持っているというぶっ飛びの設定を抱えてもいますけれど、心は誰よりも人間だな、と思いながら演じさせてもらいました。


――そのギャップは興味深いですよね。

小野 だからこそ今回僕にキサラギの声を託してくださったっていうのがすごく嬉しくて。数年前に『純潔のマリア』でご一緒した時に「人を殺している声でありながら、根底に愛がある声を持っている」と谷口監督が言ってくださっていたんです。本作のジャパンプレミアの舞台挨拶でも谷口監督がそのことを話してくださったので、「だからキサラギを僕に預けてくれたのか!」という答え合わせができたんですね。
良かったと思ったのは、それを収録前に聞いてしまっていたら、おそらく演技が変わっていたと思うんですよ。

谷口 いらん色気が出てきてウィスパー気味に喋ったりして「そっちじゃないよ、この野郎!」みたいなね(笑)。


小野 いや、本当に(笑)。今日この話を聞いて、僕の中での『BLOODY ESCAPE』が完成したなって思えました。ありがとうございます。

――本作は非常にバイオレンス度が高めの内容になっています。そういう要素を今回の映画で入れようと思ったのは、どういう狙いがあったのでしょうか。

谷口 それは(作品の)「特徴」としてのものですね。
TVシリーズは橋本裕之監督を中心とした女の子3人組が明るくワイワイとしたイメージでまとめられていましたが、それとは違う雰囲気にしようと考えた時に、ヤクザやヴァンパイアといった血なまぐさいものを持ってこないと、私自身がTVのイメージに引っ張られる危険性があったんですよ。
ちなみにヴァンパイアは、さっき話した原型になった企画の流れから入ってきたのですが、もしどちらかの要素を否定されていたら、代わりにでかいサメを持ってきたと思います(笑)。

小野 タイトルロゴのデザインにも、そんな本作の世界観を強く感じるんですよね。 いわゆるスタイリッシュな今時のアニメみたいな感じじゃなく、昭和の任侠映画じゃないですけれど、僕はそういったニュアンスを受け取りました。
台本を読んでみて、やはり同じキャラクターは登場してもTVシリーズとは描く角度が全然違うんだなと察しましたので、そのつもりで向き合わせていただきました。

谷口 さらに補足しますとですね、ここ数年の間でキレイ過ぎるアニメ映画が増えたかな、という印象があるんです。扱っているテーマだったり、もしくは男女の恋愛の機微だったり……いや、別にそれがダメというつもりはないんですが、それはややもすると特定の見せ方や洗練された作品ばかりになってしまう危険性があるのではないかと感じています。
私が元々好きなアニメーションが持っている多様性……と言えばいいのかな、もっとこう下世話で乱暴な部分を観客に思い出してもらう必要を感じたし、自分も思い出す必要があった。それを1回ぶつけてみたかった、という気分はありますかね。

(C)2024 BLOODY ESCAPE製作委員会

――アフレコ収録時の印象的なエピソードなどありましたら、お聞きしたいのですが。

小野 オーディションで合格を戴いて、収録の1週間前くらいに谷口監督からお手紙を戴いたんですよ。概要としては「今まで培ってきた芝居の技術などは1度忘れてほしい」「キサラギというキャラクターと ”飢え” というものをひとつ大事にしてほしい」というメッセージが、熱い言葉と共に書かれていたんですね。
技術に関しては、これはもう当日抜き身で一緒にやらせていただくしかない、と。そして飢えに関しては……断食したんですよ。

――ええっ!

小野 感情を掘るのもいいんですが、ここは飢えを物理的に感じてみようということで、当日まで一応2日間。 頭が働かなくなると困るので一応栄養だけは摂って、固形物は抜いていきましたね。

――実際それをやってみて、効果はあったんでしょうか。

小野 どうなんでしょう(笑)。「こういう意味じゃない」ってわかりながら、でもやってみたかったんですよ。お手紙という形でこんなお願いを戴くこと自体が僕は初めてだったので、その思いに応えたかったんですね。

谷口 逆に言うと、そういうお願い無しにみんなどうやっているんですかね? 読み合わせをしたわけでもない、立ち稽古したわけでもない、世界観に関して何の情報が共有できているかどうかすら定かじゃない役者を集めて収録をする方が怖いじゃないですか。
しかし、まさか物理的に食事を抜くとはね……斉藤壮馬さんや内田雄馬さんだったらまあ演じられるキャラクター的にそういうキャラだよねと思うんですが、ちょっと知能指数が低すぎるのでは(笑)。

小野 いやいや、そういうことを考えなきゃいけないな、という僕なりの答えですし、やっぱりいい勉強になりました。

――先ほど谷口監督は本作に関して「実写映画に近い」とおっしゃっていたんですが、私は観ていて80年代OVAやB級アクションのようなジャンル映画のテイストも感じられました。その辺りの意識はあったでしょうか。

谷口 私が想定していたのは、それよりちょっと前の洋画とか邦画が持っていた、要するにワンテーマで突っ走っちゃうタイプの作品だったんですよ。言っちゃうと、そうした方が観やすいし、尺的にもあまり大河ドラマをしているわけにもいかないので。とはいえ、80年代OVAと言われて腑に落ちたところもありますね。当時の「作り手がやりたいことをストレートに描く」という姿勢は、結果的に繋がっちゃった部分もあると思います。

――本作の、理屈ではなくアクションで物語を繋いでいる部分からそれを想起したのかもしれません。

谷口 実は日本のアニメのほとんどが台詞の力で物語を構成している部分がありまして、国内のファンが観る分にはそれで構わないと思っています。でも作品を世界標準にしていこうと思ったら、できる限りアクションでそれを見せていかないといけないんです。
これを脚本家さんに書かせようとすると、やっぱり彼らはテキスト=台詞で発想するわけですよ。それを絵コンテでいちいち修正していくのはちょっと面倒だな、と思って……。

――だから今回、谷口監督が脚本も担当した?

谷口 はい、もう私が書いた方が早いんじゃないかと。

――では小野さん、キラサギ以外で印象に残ったキャラクターといえば、誰になりますか。

小野 まあ……ジャミになっちゃうんですよね(笑)。冒頭から強烈なキャラクター性が示されていて、何か重大な何かを背負っているわけでもないのに、彼がいないとキサラギが終わってしまっていた場面がいくつもあるんですよ。あと、雄馬くんの声も素の感じがすごく出ていて……。

谷口 ちょっと殴りたくなる声ね(笑)。

小野 非常に殴りたかったですね(笑)。

――谷口監督はいかがですか?

谷口 お気に入りといえばそれはもう全員になっちゃうんですが、実際に作業を進めていくなかで「この作品、イケるんじゃないかな」と思えるニュアンスを与えてくれたのはキサラギを最初に襲うゼッシュですかね、置鮎龍太郎さんに演じてもらった。
あとは、TVアニメ『エスタブライフ』の時は「ワン」しか言ってなかったのに、今回突然日本語を喋った三木眞一郎さん(ウルラ)かな(笑)。

小野 そうですよね、あれ、ビックリしました。どうしてなのか、僕も知りたいんですよ。

谷口 実はTVシリーズの最後に喋らせよう、みたいなアイデアもあったんですけれど、結局そのままで終わっちゃった。でも、私だって三木さんをわざわざ呼んで「ワン」しか言わせないのはちょっと意味がないと思うから(笑)。
まぁ、それは半分冗談だとして、実は設定的に意味があって、理由もちゃんと考えているですが、そこはまだ秘密にさせてください。

――ありがとうございました。では最後に、それぞれの本作お勧めの見どころをご紹介いただければと思います。

小野 断食の結果なのかどうかはわからないですけれど、谷口監督から「力が抜けた芝居になっていた」みたいなことを言ってくださったんですね。お腹が満たされた状態でする芝居と、どこか足りないものがある状態でする芝居……そのアプローチの中でもし違いが出たとしたら、言葉を真に受けて正解だった部分もあるな、と感じましたね。
実際音で聞いてみても、普段の僕のお芝居と声の出し方がまず違うんですよ。そこは是非注目していただきたいポイントの1つですね。

あと、僕は主に上田麗奈さんと一緒に収録したんですけれど、やはり彼女なりに普段と違うアプローチを求められて、自問自答しながら頑張っていたところをすごく見ていたんです。そんなルナルゥの声の存在感も合わせて楽しんでいただけると嬉しいなと思います。

谷口 彼女は良い意味で声優として次のステージに行っているなっていうのがわかっていました。声優の中には、演技の際にも作品ではなく自分を押し出そうとする人もいるんですね。ベテランならまだしも若手でそれをやられるとつらい。今回のキャスティングは「声優の典型的な技術を封印した、素の状態で演じられる人」というのが1つの大きなポイントでした。それがどういう形でまとまったかは、ぜひ確認してもらいたいですね。

小野 ゼッシュ役の置鮎龍太郎さんも、僕は声を聞いてしばらく置鮎さんと気づくことができなかったんですよ。あの大先輩でさえも、この作品においては普段とちょっと違う引き出しでトライしてらっしゃったのかと思うと、ちょっとグッときましたね。

谷口 劇場作品ならではの音響やアクションにもこだわりましたので、そこも是非楽しんでいただけるとありがたいと思っています。

(C)2024 BLOODY ESCAPE製作委員会