2024年7月6日(土)より放送がスタート、完結にあわせて第二期の制作も発表され、まだまだ話題が続きそうな『小市民シリーズ』。
アニメ『氷菓』の原作として知られる米澤穂信の新作アニメということもあり放送前から注目を集めていた本作は、甘酸っぱい学園ものと日常で遭遇するミステリーが融合した作風で多くの視聴者の心をわしづかみにした。
綿密に練られたミステリー作品としての完成度が本作の魅力であるのはもちろんだが、モデル地として登場人物たちの生活を彩る岐阜市の映像的な魅力も作品の魅力に寄与している。
今回は、そんな作品の文字通り<背景>に協力した岐阜市役所の方に取材を行った。まちを守る行政の立場からアニメづくりに協力する理由やコンテンツとの連携によって目指す新しいまちづくりの可能性について紹介する。
――『小市民シリーズ』では、主人公たちが日常で遭遇する一見些細なミステリーを解決する過程でまちの景色がよく映る気がします。制作の方々は実際に岐阜市へ取材を行ったと聞いたのですが、その際にはどういった協力をしたのですか?
岐阜市担当 私たちの部署へ問い合わせをいただきロケハン段階から協力しました。
お話をいただいた段階では具体的な撮影場所が確定していなかったので、企画書をもとに候補場所のリサーチや提案を行いました。その後は施設を管理している人や企業を仲介したり、ロケハンに同行し現場での連絡調整を行いました。
―土地勘があり信頼もある行政の方が協力をしてくれるというのはとても心強いと思います。作品のエンドクレジットには「協力」として「岐阜市フィルムコミッション」の名前がありました。ロケツーリズム推進室という組織名称のほか、映像業界に浸透している「フィルムコミッション」という名称も併用されているとお聞きしています。この部署の業務を教えてください。
岐阜市担当 岐阜市では令和2年度より、テレビ番組や映画などの映像コンテンツを活用した観光振興を目的に「ロケツーリズム推進室」を設置しています。
この部署の仕事はコンテンツの力を借りて岐阜市内外にまちのファンを生み出すことです。作品の舞台として岐阜市を知ってもらい、<聖地巡礼>として実際に訪れてもらうなかで岐阜市の魅力を感じてもらうことを目指しています。
もちろん、この取り組みは作品側の理解と協力あってのものなので、私たちも可能な限り作品に寄り添うようにしています。
具体的な協力事項は問い合わせのタイミングや依頼内容によって異なります。企画書や台本に適した市内の撮影場所をリサーチすることもあれば、施設管理者との調整や現場への同行・仲介をすることもあります。また、放送にあわせて市のHPやSNSなどで告知を行うようなPR協力もしています。
―近年、国内外で話題の<聖地巡礼>ですが、流行りの背景にはコンテンツと地域が一方的な利用関係ではなく、それぞれの強みを生かした協働体制があるのですね。作中でたびたび現実の岐阜市と非常に似た景色や施設が登場し話題になっていましたが、こういった体制で作られているとしたら納得です。
【関連写真】聖地「いちごタルト」のお店や「岐阜公園の信長像」の写真を見る(3枚)
――今回の『小市民シリーズ』は放送前から注目されていたこともあり、放送開始から現在にいたるまでいろいろな反響があったのではないかと思います。具体的にはどういったものがありましたか?
岐阜市担当 2024年1月の作品放送予告直後から、既にSNS上でモデル地の特定がされたことで話題となっていました。例えば、作中の洋菓子店のモデルとなった「洋菓子店AND LADY」はかなり早い段階から反響があったようです。お店に話を伺ったところ、市内外から多くの作品ファンが訪れていると聞きました。
それ以外にも、岐阜公園や長良川といった定番の観光地が登場しており、まちのPRという点でも効果はとても大きいです。
さらにありがたいことに、製作委員会や連携企業が主導するコラボキャンペーンも行われ市内がとても盛り上がる機会にも恵まれました。例えば、岐阜駅観光案内所での作品オリジナルグッズの配布や協力施設での声優のサインやキャラクターパネルの設置などが放送中に実施されました。10月以降もモデル地マップの配布や謎解きスタンプラリーなどが企画されており、放送終了後も変わらず多くの方に来訪していただいている状況です。
―作品を観て訪れる人はせっかくならまんべんなく追体験したいと思うので、こういったまちぐるみのおもてなしはファンとして嬉しいですね。
マップや謎解きといった自然とまちを巡りたくなる工夫は、ファンの心理をくすぐりつつ市内の経済効果も期待できる取り組みだと思います。
――最後に少し大きな話となりますが、コンテンツを活用した地方創生について岐阜市として考える今後の展望があれば教えてください。
岐阜市担当 今回の『小市民シリーズ』では、作品サイドと市内の皆様のご協力もあり、非常に多くの方に岐阜市をプロモーションすることができました。
作品や作者、監督や俳優のファンが舞台を実際に訪れる<聖地巡礼>は今や観光振興における重要な取り組みの一つです。また、作品の舞台となることでその場所に住んでいる人が地元に魅力を感じ誇れるようになるシビックプライドの醸成という点でもこの取り組みには意義があると思います。
加えて、岐阜県にはアニメ作品のモデル地がとても多いことも特徴です。厳密な理由はわかりませんが、この機会を活かすべく県内の有志の自治体で協議会を設立し、ノウハウや事例の共有を通じた県全体での発展にも取り組んでいます。
この取り組みには作品との連携が不可欠ですので、岐阜市としては引き続き作品の支援に取り組みながら、まちのプロモーション活動を拡げていきたいと思います。
―確かにまちのプロモーションとして効果は絶大ですね。ただ、だからといって作品を好き勝手使うのではなく、適切な関係を結んでお互いにメリットがあるかたちで協力する、というのはアニメに限らず今後のコンテンツ業界全体にとっても重要な視点だと思います。そういった取り組みを行政が率先して進めているのも安心感があります。
今回取材した岐阜市から感じたのは、自分たちのまち、作品、作品のファンそれぞれを気遣う「三方良し」の姿勢。『小市民シリーズ』が好きな人であれば、まちの各所でこだわりに気づくこと間違いナシなので、作品を再度履修してから訪問してほしい。
【『小市民シリーズ』とは】
過去の苦い経験から平穏で慎ましい生活を望む高校生小鳩常悟朗と小山内ゆきが、皮肉にもトラブルに巻き込まれ解決していく学園ミステリー。第2期は2025年4月に放送予定。
アニメ『氷菓』の原作として知られる米澤穂信の新作アニメということもあり放送前から注目を集めていた本作は、甘酸っぱい学園ものと日常で遭遇するミステリーが融合した作風で多くの視聴者の心をわしづかみにした。
綿密に練られたミステリー作品としての完成度が本作の魅力であるのはもちろんだが、モデル地として登場人物たちの生活を彩る岐阜市の映像的な魅力も作品の魅力に寄与している。
今回は、そんな作品の文字通り<背景>に協力した岐阜市役所の方に取材を行った。まちを守る行政の立場からアニメづくりに協力する理由やコンテンツとの連携によって目指す新しいまちづくりの可能性について紹介する。
――『小市民シリーズ』では、主人公たちが日常で遭遇する一見些細なミステリーを解決する過程でまちの景色がよく映る気がします。制作の方々は実際に岐阜市へ取材を行ったと聞いたのですが、その際にはどういった協力をしたのですか?
岐阜市担当 私たちの部署へ問い合わせをいただきロケハン段階から協力しました。
お話をいただいた段階では具体的な撮影場所が確定していなかったので、企画書をもとに候補場所のリサーチや提案を行いました。その後は施設を管理している人や企業を仲介したり、ロケハンに同行し現場での連絡調整を行いました。
―土地勘があり信頼もある行政の方が協力をしてくれるというのはとても心強いと思います。作品のエンドクレジットには「協力」として「岐阜市フィルムコミッション」の名前がありました。ロケツーリズム推進室という組織名称のほか、映像業界に浸透している「フィルムコミッション」という名称も併用されているとお聞きしています。この部署の業務を教えてください。
岐阜市担当 岐阜市では令和2年度より、テレビ番組や映画などの映像コンテンツを活用した観光振興を目的に「ロケツーリズム推進室」を設置しています。
この部署の仕事はコンテンツの力を借りて岐阜市内外にまちのファンを生み出すことです。作品の舞台として岐阜市を知ってもらい、<聖地巡礼>として実際に訪れてもらうなかで岐阜市の魅力を感じてもらうことを目指しています。
もちろん、この取り組みは作品側の理解と協力あってのものなので、私たちも可能な限り作品に寄り添うようにしています。
具体的な協力事項は問い合わせのタイミングや依頼内容によって異なります。企画書や台本に適した市内の撮影場所をリサーチすることもあれば、施設管理者との調整や現場への同行・仲介をすることもあります。また、放送にあわせて市のHPやSNSなどで告知を行うようなPR協力もしています。
―近年、国内外で話題の<聖地巡礼>ですが、流行りの背景にはコンテンツと地域が一方的な利用関係ではなく、それぞれの強みを生かした協働体制があるのですね。作中でたびたび現実の岐阜市と非常に似た景色や施設が登場し話題になっていましたが、こういった体制で作られているとしたら納得です。
【関連写真】聖地「いちごタルト」のお店や「岐阜公園の信長像」の写真を見る(3枚)
――今回の『小市民シリーズ』は放送前から注目されていたこともあり、放送開始から現在にいたるまでいろいろな反響があったのではないかと思います。具体的にはどういったものがありましたか?
岐阜市担当 2024年1月の作品放送予告直後から、既にSNS上でモデル地の特定がされたことで話題となっていました。例えば、作中の洋菓子店のモデルとなった「洋菓子店AND LADY」はかなり早い段階から反響があったようです。お店に話を伺ったところ、市内外から多くの作品ファンが訪れていると聞きました。
それ以外にも、岐阜公園や長良川といった定番の観光地が登場しており、まちのPRという点でも効果はとても大きいです。
さらにありがたいことに、製作委員会や連携企業が主導するコラボキャンペーンも行われ市内がとても盛り上がる機会にも恵まれました。例えば、岐阜駅観光案内所での作品オリジナルグッズの配布や協力施設での声優のサインやキャラクターパネルの設置などが放送中に実施されました。10月以降もモデル地マップの配布や謎解きスタンプラリーなどが企画されており、放送終了後も変わらず多くの方に来訪していただいている状況です。
―作品を観て訪れる人はせっかくならまんべんなく追体験したいと思うので、こういったまちぐるみのおもてなしはファンとして嬉しいですね。
マップや謎解きといった自然とまちを巡りたくなる工夫は、ファンの心理をくすぐりつつ市内の経済効果も期待できる取り組みだと思います。
――最後に少し大きな話となりますが、コンテンツを活用した地方創生について岐阜市として考える今後の展望があれば教えてください。
岐阜市担当 今回の『小市民シリーズ』では、作品サイドと市内の皆様のご協力もあり、非常に多くの方に岐阜市をプロモーションすることができました。
作品や作者、監督や俳優のファンが舞台を実際に訪れる<聖地巡礼>は今や観光振興における重要な取り組みの一つです。また、作品の舞台となることでその場所に住んでいる人が地元に魅力を感じ誇れるようになるシビックプライドの醸成という点でもこの取り組みには意義があると思います。
加えて、岐阜県にはアニメ作品のモデル地がとても多いことも特徴です。厳密な理由はわかりませんが、この機会を活かすべく県内の有志の自治体で協議会を設立し、ノウハウや事例の共有を通じた県全体での発展にも取り組んでいます。
この取り組みには作品との連携が不可欠ですので、岐阜市としては引き続き作品の支援に取り組みながら、まちのプロモーション活動を拡げていきたいと思います。
―確かにまちのプロモーションとして効果は絶大ですね。ただ、だからといって作品を好き勝手使うのではなく、適切な関係を結んでお互いにメリットがあるかたちで協力する、というのはアニメに限らず今後のコンテンツ業界全体にとっても重要な視点だと思います。そういった取り組みを行政が率先して進めているのも安心感があります。
今回取材した岐阜市から感じたのは、自分たちのまち、作品、作品のファンそれぞれを気遣う「三方良し」の姿勢。『小市民シリーズ』が好きな人であれば、まちの各所でこだわりに気づくこと間違いナシなので、作品を再度履修してから訪問してほしい。
【『小市民シリーズ』とは】
過去の苦い経験から平穏で慎ましい生活を望む高校生小鳩常悟朗と小山内ゆきが、皮肉にもトラブルに巻き込まれ解決していく学園ミステリー。第2期は2025年4月に放送予定。
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