『AIR』や『CLANNAD』で知られるゲームブランド・Keyが、新しいゲームデザインとして2004年に発表したキネティックノベル『planetarian』。2016年に配信版と劇場版として2つの視点からアニメ化され、ファンの間でも大きな感動を持って迎えられた。
だが、それで終わらない。2017年3月またうれしい奇跡が訪れる。
それがプラネタリウム特別版の上映だ。津田尚克監督が丹念に作り上げた本編のうち、配信版『ちいさなほしのゆめ』をもとにプラネタリウムでしか味わえない映像として再構成し、3月4日より郡山市ふれあい科学館にて上映される。

プラネタリウム特別版の制作に当たったのはD&Dピクチャーズ。最新のデジタル映像技術を駆使したプラネタリウム映像の制作、プロモーションなどを主に行っている、いわゆるその道のプロフェッショナルだ。

今回、D&Dピクチャーズの中山武大プロデューサーと花光昭典監督にインタビューを敢行。プラネタリウム特別版の見どころやプラネタリウムの魅力などじっくりと話を訊いた。
【取材・構成:細川洋平】

planetarian~ちいさなほしのゆめ~プラネタリウム特別版
上映期間【郡山市ふれあい科学館】
2017年3月4日(土)~4月5日(水)

――まず『planetarian』のプラネタリウム特別版の制作に至った経緯はどういったものだったのでしょう。

中山武大(以下、中山)
僕の知り合いにアスミック・エースに所属している人がいて、その人が『planetarian』のプロデューサーである青井宏之さんを紹介してくれたんです。『planetarian』でプラネタリウム映像をつくりませんかと。それがきっかけですね。
プラネタリウムを題材とした作品ということで面白い企画だなと思いましたが、一方で難しさもありました。プラネタリウムというのは公共的なものなので、作品の内容的に公共施設での上映にそぐわないではないかと。

――いくら名作とは言え。

花光昭典(以下、花光)
プラネタリウムは子どもを対象とした上映が通例であり、中学生以上を対象とした作品は少ないんです。

▲左から花光昭典監督、中山武大プロデューサー

中山
こういった映像作品とコラボレーションを行う場合、こちらから「この作品をプラネタリウムで上映しませんか」とお願いすることが多いのですが、そういうタイトルは『かいけつゾロリ』や『名探偵コナン』などファミリー向けが多いんです。それで企画を進めようか迷っている時に、弊社にいる60歳くらいの社員に配信版を見てもらったんです。
彼が面白いと思うんだったら、一部の人だけではなく、より多くの人に楽しんでもらえるのではと思ったからです。で、感想は「いいよ!」。それで背中を押されました。

あともう一点、日本のプラネタリウム界ではJGSS(Japan Giant Screen Society Film Festival)というフェスティバルが年に一回開催されているんです。2016年は11月に開催されたんですが、その時にこっそり『planetarian』の全天映像トレーラーを花光に作ってもらってゲリラ的に流したんですよ。すると、それを見た各地のプラネタリウムの職員達から、「実は『planetarian』のファンで!」というリアクションを結構もらったんですよね。


――プラネタリウムで働いている方たちにも好きな人が多いことがわかったんですね。

中山
そうなんです。それで手応えを得て「作ろう!」と。上映する館には郡山市ふれあい科学館さんが手を上げてくださり、3月からやりたいということだったので、急ぎ目ではありましたが制作に取りかかることになりました。

――通常、どのくらいの期間でプラネタリウム作品を作っているのでしょうか。

花光
今回は1ヶ月で作りましたが、通常のスケジュールであれば最低2ヶ月はほしいですね。


中山
全ての素材が集まったのが1月中旬。David productionの方々がすごく協力的で、素材をたくさん頂けたことも大きな助けになりました。

――花光さんが監督することになったのはどういった流れだったのですか?

中山
ウチで映像をドーム化できるのは2人。通常ですと1人1作品の担当となるのですが、今回は時間との戦いという部分もありましたので、2人で制作に当たりました。

花光
僕と柴田潤の2人で作業を行い、彼には映像作りを進めてもらって、僕が演出面含めて監督という形で関わっています。

――実際に『planetarian』の映像をどのように再構成していったのでしょう?

花光
『ちいさなほしのゆめ』を元に編集して、38分の作品に仕上げました。
ストーリーは網羅しつつ、ポイントとしてはやはり星座解説のプラネタリウムシーンでしょうか。まさにプラネタリウムの演出ができるので、力を入れて作りました。

中山
制作前には、「ほしのゆめみの星空解説」に終始するといった案もあったんです。屑屋のプラネタリウム体験を、リアルに観客の皆さんに体験してもらおうと。ただ、そうすると作品ファン以外の方が見た時に、戸惑ってしまう懸念がありました。またストーリーもすばらしいので、そこはやはり伝えたい。それで今の形に落ち着きました。

加えて、プラネタリウム作品というのは25分~30分という尺で作らないといけないんですが、郡山市ふれあい科学館さんは「40分くらいまでならいいですよ」と言ってくれたんですね。ならストーリーも何とか入れられるかなと。他のプラネタリウムさんではもう少し短くしてくれと言われる可能性がありますから、現状の38分バージョンは郡山さん限定になるかもしれないですね。

――今回の映像はどのような画角・視野角になるのでしょうか。

花光
まず、郡山さんのプラネタリウムはシネコンの座席の様な角度のある席の組み方をしています。そこに対して、シーンによっては全天映像になったり、あとは通常のスクリーン映像になったりですね。カットの切り替わりが長ければゆっくりと全天映像で映したいなと思っていても、アニメはやはりカットが頻繁に切り替わりますからね。全天映像を映す場合、ある程度画面を眺める時間がないと人は全部を認識できないんですよ。だから今回は会話シーンでは画角を狭めたり、全天映像の使いどころで効果的になるような演出を心がけています。

中山
プラネタリウム作品の上映が通常25分~30分に抑えられているのも、情報量が多くてそれだけでもかなりのボリュームを感じるからなんです。なので38分でも十分に楽しんでいただけると思います。

――上映期間中は本作のファン以外の目にも触れると思います。気をつかったポイントはありますか?

中山
ファン層が全く違うという点は意識しましたね。郡山市ふれあい科学館さんで同時上映される番組が『くまのがっこう ジャッキーのおほしさま』というお子さん向けの番組なんです。一方『planetarian』はボリュームゾーンが20代から40代。プラネタリウムに普段来ないような方ですよね。でも、そういう方たちは“いいもの”には手間を惜しまずに来てくれる。従来のプラネタリウムというのはお母さんがちょっとした時間に子どもと一緒に来る場所だったわけですが、『planetarian』を上映することで新しい人たちを呼び込めたらいいね、という話はしていますね。

――ゆくゆくは作品のモデルであり聖地ともなった明石市立天文科学館でも上映できたらいいですね。

中山
ぜひ上映したいところですが、明石はまさにイエナさんのモデルとなったカールツァイス・イエナ社製の投影機を使っている反面、デジタルプラネタリウムではないので、昨年イベントを行った際も映画本編はプロジェクターを持ち込んで映したというわけなんですよ(※)。もちろん明石での上映は難しくても、他の地方ではアニメフェスティバルで上映したいという声もありますし、今後も展開を広げていきたいですね。

※2016年8月31日に開催された、明石市立天文台とのコラボレーションイベント「planetarian twilight theater」。

花光
エアードームという空気でふくらませて直径5メートルくらいになるプラネタリウムを持ち込んで各地で上映する、ということも今は頻繁に行われているので、それならどこでもできますし。

――それはまさに“星の人”ですね!

花光
そうですね(笑)。エアードームを持って全国行脚して、学校の体育館で上映しているというリアル星の人は結構いるんですよ。

――今回は「ほしのゆめみ新規録り下ろしボイス」もあるとうかがいましたが、どういったシーンで見られるのでしょうか。

花光
星座解説のシーンですね。本編で星座解説をする季節は夏から秋にかけての星座なんです。ただ、今回上映するのが、春ですので、春の星座解説を新規に録りまして、全天映像も作り直して星空解説します。解説原稿は、現在、東京・築地にあるタイムドーム明石というプラネタリウムの解説員である、橋本京子さんという方に書いていただきました。

中山
橋本さんは先ほどお話しした昨年のJGSSで『planetarian』のトレーラーを上映した後に、僕の元まで駆け寄ってきて「私『planetarian』大好きなんです!」と言ってくれた方で、実は「星ナビ」(アストロアーツ社)という雑誌の『planetarian』特集や解説コラムにも関わっている方だったんです。まさに解説原稿にふさわしい方が書いてくださっています。

花光
今回、春だけではなく、夏、秋、冬と四季分収録しまして、年間通しての上映に対応できる形になっています。

中山
他の季節にもぜひ上映できたらいいなと思っています。他にもいくつかの館の担当者さんがファンだということがわかりましたので、このまま全国に広げていきたいですね。

――お話をうかがっていると、劇場はもちろん、昨年9月に明石市立天文科学館で行われた上映イベントともまた全く違う、まさにプラネタリウムでしか味わえない体験になりそうですね。

中山
そうですね。やはり全天映像というのは今回郡山で上映されるのが最初ですから。感動していただけると思います。今回の『planetarian』は郡山でまず1ヶ月。今後、もし他の施設で「短くてもいいからウチでやっていいよ」という館があればぜひ回りたいと思っています。

――あと素朴な疑問ですが、最近のプラネタリウムはどのような発展を遂げているのでしょうか。

中山
プラネタリウム業界には「子どもの頃に1回、デートで1回、子どもができたら1回。人生で3回しか行かない」という冗談があって、つまりそのくらい足が向きにくい場所でもあるんですよね。皆さんにとってはエンターテインメントというよりは知的好奇心を満たすようなイメージではないでしょうか。最近注目されているVRは一人称視点での360度体験を味わえますが、プラネタリウムは周囲360度、その映像が動く、というまた違った体験ができる場所になっています。

花光
ヒーリングやお勉強といったイメージが強くて、エンターテインメントというイメージは少ないですが、プラネタリウムは技術的な進歩の恩恵をすごく受けています。ここ数年でリニューアルしている館は多いんですよ。だから最近行ってないという方にも新しい、全天の迫力ある映像が体験してもらえると思います。

それから天文学的にも進歩や発見がある中で、表現や説明できる部分が増えているので、火星や月の姿は“ほぼ”わかっているので、シミュレートされていたりもしますし。

中山
以前は地球から見た映像しかありませんでしたが、今では宇宙空間から見た星の映像なんかも見られるようになっていますね。

花光
そのほかにも、都心の有名なプラネタリウムを除いて、全国では入場料がだいたい大人500円前後というコストパフォーマンスの良さや、一作品が30分前後というコンパクトさも魅力ですね。

――これを機会にまた行きたい/行ってみたいという方が増えるといいですね。それでは最後にメッセージをお願いします。

中山
まずは郡山市ふれあい科学館さんのプラネタリウムは、世界で一番地上から高いところにあるプラネリウム(地上高104.25メートル)としてギネスに認定されています。また全国的にも大きなサイズの館となっています。残念ながらイエナさんはいないんですが(笑)、駅から近いですし、ショッピングモールの上にあるので、作品の舞台である花菱デパート的な感覚でいらしていただけると思います。

またこの作品をプラネタリウムで上映できるというのはすごく嬉しいことですし、ファンの方々の情熱がこういう形で実を結ぶことになりました。僕たちとしても気合いを入れて作っています。プラネタリウムというのは本当に夢のある場所です。皆さんと一緒に体験できたらなと思っています。

花光
作品と共にプラネタリウムならではの魅力を感じていただけたらなと思っています。ぜひ見に来てください!