歴代総理の胆力「小渕恵三」(1)オレは“真空総理”
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「師匠」が「受け」と「待ち」、あるいは「我慢」「辛抱」まずありきの合意形成型リーダーシップで与野党ににらみを利かせていた竹下登元総理だっただけに、小渕恵三もその政治姿勢を踏襲していた。

 会話のやりとり一つ取っても、前任総理の橋本龍太郎のようにスパッと切り返すことはなく、時には何を言わんとしているのか分からないときもある。筆者は総理になる前から小渕と親しくさせて頂いていたが、度々、こうした場面に直面したものだった。なるほど竹下は「言語明瞭、意味不明瞭」の“幻惑会話”で相手を翻弄していたが、これも小渕は見習っていたかのようだった。

 また、自ら「オレは“ボキャ貧”だからな。ボキャブラリーが貧困だから、いい言葉がなかなか出て来ないのだ。相手に対しては、『お疲れさま』の一言だな」と口にしていたが、これも本音半分、はぐらかし半分に聞こえたものだった。

「オレは“真空総理”だから、対立することがない。元々、考え方がないから、対立しないということだ。無、空ということだよ」

 この小渕の言葉は、小渕が総理のとき、会期延長を巡って官房長官との対立があるのではと記者会見で問われたときの答弁だったが、この「真空総理」とはその少し前に中曽根康弘元総理が雑誌で使ったもので、これを逆手に取って“お返し”したものであった。

 小渕と親しかった政治部記者の言葉が残っている。

「総理になった小渕に対し、海外メディアからは強力なリーダーシップを感じさせないから『冷めたピザ』と言われ、直言で知られた田中真紀子(元外相)からは『凡人』とも言われたが、こうしたことはじつは小渕にとっては痛くも痒くもなかった。元々、小渕は『謙虚であれ、誠実であれ、柔軟であれ』の“三あれ主義”を標榜、実践もしてきた男だから、何でも受け入れる器量があった。相手を立て自分が出しゃばらないことは、相手が話し合いの余地を残してくれることで、決断の際の選択肢が増えるというメリットになるとの考えだった。“竹下手法”を徹底的に踏襲していたのです」