ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は21日(日本時間22日)、米マイアミのローンデポ・パークで決勝が行われ、日本が米国を3-2で下し、2009年第2回大会以来14年ぶり3度目の優勝を飾った。栗山英樹監督のもと、大谷翔平は群を抜く輝きを放ち、世界中で注目された。



 理想の上司と言われる指揮官・栗山英樹。世界一に輝いた指揮官はどうチームをマネジメントをし、どんな戦略を実践してきたのか。栗山英樹の著書『「最高のチーム」の作り方』から抜粋する。







 次々と「常識」を覆し、チームを勝利に導いていくリーダーとしてその手腕に定評がある指揮官・栗山英樹氏。氏はいかにしてチームを作っているのか。『「最高のチーム」の作り方』に、その秘密が書かれている。



 例えばかつて、日本シリーズ後、大谷翔平に宛てた手紙――。



かつてなぜ栗山英樹は大谷翔平に「手紙」を送ったのか? そこに...の画像はこちら >>

 



■ファーストに全力疾走する大谷翔平の姿にファンは感動する

 日本シリーズでは、バッター・大谷が全力疾走でファーストベースを踏むとき、足をひねったように見えたシーンがあった。



 どのくらいひねったのか、痛みはどの程度なのか、本当のところは本人にしかわからないが、症状の軽い重いに関わらず、試合中にそういったことがあると、心のどこかで恐怖心が芽生え、次から無意識のうちに少しブレーキをかけてしまうのが人間心理というものだ。



 しかし、彼にはそれがまったくなかった。最後まで全力疾走を貫き通した。



 実は冗談半分か本当か、試合後に「今シーズン、終わったと思った」と漏らしていたというから、本当は相当痛かったんだと思う。

それでも、大谷は走った。



 どうして今年の日本シリーズを、たくさんのファンの皆さんがテレビで観て、大谷を応援してくれたのかというと、実は二刀流とかではなく、彼のああいう姿だったんじゃないかと思っている。毎打席、ファーストに全力疾走するその姿に、ファンの皆さんは心を打たれたに違いないと。



 それを伝えたくて、日本一を決めた翌日、スポーツ新聞に寄せた大谷翔平への手紙に、こう記した。



「いつも厳しいことしか言いませんが、今日は一つだけ伝えます。
 翔平の道がどこにあるのか、翔平のファーストへ向かう姿、走塁にあると思っています。
 投手であっても常に全力で絶対にセーフになってやろうとする姿。
 シリーズでも初戦でベースを踏む際、足首を軽く捻り心配しましたが、最後まであの全てをかけてファーストを駆け抜ける姿を貫きました。



 常に全力を出し尽くす魂。



 そんな姿にしか野球の神様は微笑みません。
 野球の神様に愛されなければ天下は取れないのです。
 二刀流もその最も必要な魂があるからこそ成り立っていると思っています。」





■選手と交わしたたったひとつの約束

 正直、監督がひとりの選手に宛てた手紙を新聞に寄せるのはどうかと少しためらったが、依頼に応えたのには、僕なりの狙いがあった。


 大谷翔平という選手の姿をとおして、このチームが一番大切にしてきたものを、改めてみんなに確認しておきたかったのだ。



 4年前の日本シリーズのとき、まだいまのような立場にはなかった若い中島卓也や西川遥輝を試合に使ったが、そこで彼らにはあることをお願いした。



「とにかく最後まで全力疾走してくれ」



 それは彼らとの、たったひとつの約束でもあった。



「それさえ続けてくれれば、これからも絶対に使い続ける。だからどんな一流選手になっても、それだけはやめないでくれ。それが野球のすべてなんだ」と。



 彼らはいまも、その約束を守ってくれている。
 もちろん同じことは大谷にも伝えていて、ただ彼の場合、自分がピッチャーとして出場していてもつねに全力で走るから、よりその姿は印象に残りやすい。
 だからこそ、あの手紙でそれに触れることによって、「来年からも変わらず、これだけはやっていくよ」というメッセージを、チームのみんなに伝えたつもりだ。
 というわけで、あの手紙は大谷個人に向けて書いたつもりはなく、彼の姿を通じてチームのみんなにメッセージを伝えようとした、それが依頼に応えた真相だ。
 ただ手紙の文面には「まだまだありがとうとは言いません」と書いたが、その姿を最後まで見せてくれたことには本当に感謝している。



『「最高のチーム」の作り方』より抜粋)

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