■自分勝手な論理だとしてバッシングされた人たち

世界中に混乱をもたらしたコロナ禍。日本の言論界(?)も例外ではない。

4月上旬には、かつてコピーライターとして一世を風靡した糸井重里のツイートが炎上した。

「わかったことがある。新型コロナウイルスのことばかり聞いているのがつらいのではなかった。ずっと、誰ががが誰かを責め立てている。これを感じるのがつらいのだ」(原文ママ)

打ちミスがあることからも、思ったことをそのままつぶやいたと考えられるが、これにカチンときた人たちがいる。たとえば、日本をディスることが生き甲斐みたいな映画評論家の町山智浩だ。

このツイートを「庶民はお上に逆らうな」「奴隷だ」という意味だとして噛みついた。

おそらく、糸井にそこまでの意図はなかっただろう。ただ、彼は大学時代、学生運動に没頭して逮捕歴もある。このツイートにカチンと来た人のなかには、こっち側だったのにあっち側に行きやがったという怒りがあったのだ。

しかも、糸井にはコロナ禍で大きな被害を受けたというイメージもない。代表作となった西武百貨店の宣伝コピー「おいしい生活」を変わらず続けていそうなところも、不快感を生じさせたのだろう。

炎上は、演劇界でも起こった。自粛ムードで公演が中止され始めた3月、演出家の野田秀樹が劇場閉鎖は「悪しき前例」「演劇の死」につながると公式サイトで主張。翌月には、劇作家の平田オリザが舞台芸術の窮状と支援を訴えたが、どちらも反発を招いた。

特に、平田はNHKのインタビューで、

「製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。客席には数が限られてますから」

と発言して、火だるまに。

この人は根っからの文化芸術推進者で、製造業などを軽視し、民主党政権の『コンクリートから人へ』政策にも関わった。それゆえ、自分勝手な論理だとしてバッシングされたわけだ。

この発言から、東日本大震災後の反原発運動において「たかが電気」と語った音楽家・坂本龍一を思い出した人もいた。こちらは今回も、ドイツや韓国のコロナ対策を賞賛して日本政府を批判したあげく、

「経済学者も政治学者も社会学者も都市デザイナーも、もっと仕事をしろよ、と言いたい(笑)」「僕の音楽に力なんてないですよ。(略)役に立ってたまるか、とすら思います」(朝日新聞デジタル&[アンド])

などと、とんちんかんなことを言っている。ちなみに、坂本も糸井と同じで、学生運動に熱狂した全共闘世代だ。

■パンデミックは「生ける亡霊」たちも浮かびあがらせている

糸井重里、『報ステ』、小泉今日子。コロナ禍で浮かびあがったサ...の画像はこちら >>

とまあ、こうした炎上に共通するのは、叩かれたのがバブル華やかな時代のサブカル賛美的空気のなかでもてはやされた人たちだということだ。そして、そんな空気のなかで生まれたテレビ文化においても炎上が起きた。『報道ステーション』(テレビ朝日系)のことだ。

この前身は『ニュースステーション』で、バラエティ色の強かった久米宏が司会を務め、ニュースをワイドショー化することで成功した番組だ。司会が古舘伊知郎に引き継がれる際、タイトルが変わった。現在は局アナの富川悠太が司会だが、その富川がコロナに感染。

番組関係者にも4人の感染者が出た。

感染予防を呼びかける側としては、いかにもまずい。予防できなかった番組そのものが批判対象になってしまった。富川には気の毒だが『news every.』(日本テレビ系)の藤井貴彦アナがソフトなメッセージを地道に発信して支持され、株を上げたのとは対照的だ。

そこには「Nステ」から「報ステ」へと受け継がれたサブカル的手法への辟易や反発もあったのだろう。久米も古舘も政治などのメインどころにチャチャを入れる芸風で、コロナ禍のような非常時には役に立たない。

ともすれば「感じの悪さ」にもつながる芸風である。

そんな「感じの悪さ」を今、誰よりも象徴しているのが『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)のコメンテーター・玉川徹だ。もともと暴走しがちな人だが、コロナ禍がそれをさらに加速させている。

「勘違いして欲しくないんですけど、日本人と日本のために良かれと思ってやっているんですよ」(『大竹まこと ゴールデンラジオ!』文化放送)

という信念というか、思い込みにより、間違い発言を連発。4月には東京都の検査機関をめぐる発言で3分間にわたり、謝罪するハメとなった。

しかも、その数時間後には、その間違い発言を真に受けた古舘が『ゴゴスマ』(TBS系)に登場。

「テレビ朝日の玉川徹さんもおっしゃっているように(略)土日は民間しか検査していない」

とコメントして、司会の石井亮次アナに「いや、それは今朝の番組で明確に否定していました」と訂正されていた。「感じの悪さ」の連鎖に、見ていて苦笑してしまったものだ。

そんな古舘や糸井らがかつてもてはやされたのは、当時のサブカルバブルが「軽さ」や「奇をてらうこと」を好んだからだ。そして、そんな空気を象徴していたアイドルが小泉今日子である。2年前に不倫で大手事務所のバーニングをやめて以来、目立たなかったが、検察庁法改正案をめぐり、反対するツイートを連続投稿。

「私、更に勉強してみました。読んで、見て、考えた。その上で今日も呟かずにはいられない」

などとつぶやいた。ただし、具体的に何を考えたのかは伝わってこない。この人は昔、中森明夫をはじめとする新人類文化人に持ち上げられ、そのオモチャになることでサブカルの女王的存在にのしあがった。今回も左寄りの反権力層、いわゆる「アベガー」のオモチャになることで復権しようとしたのだろう。

この背景にも、コロナ禍がある。仕事がなくなり、ヒマを持て余した芸能人たちがよくわからないまま政治運動になだれこんだのだ。そんななか、指原莉乃が『ワイドナショー』(フジテレビ系)でこの問題に言及。「#検察庁法改正案に抗議します」をつけてツイートすることへの誘いが自分のところにも来たとしたうえで、

「もちろん勉強したうえでこれを書いてる人もたくさんいると思うんですけど、もしかしたら、なんかたった一人の言ってることを信じて、書いてる人もいるんじゃないのかなって思っちゃいます」

と、冷静なところを見せた。ネットリテラシーにも長けた、現役有数のバラエティタレントと比べたら、小泉などはとっくに「過去の人」でしかない。

思えば、コロナ禍によって株を下げた有名人の大半がかつては売れていた人たちだ。パンデミックはそんな「生ける亡霊」たちも浮かびあがらせているのである。