■「少人数学級」を経験した教員の声を聞け
教員たちの怒りは止まらない。
10月26日に開かれた財務相の諮問機関である財政制度等審議会の歳出改革部会は、文科省が概算要求に盛り込んだ少人数学級の体制整備について議論した。
これを鵜呑みしたためなのか、部会では少人数学級を支持する流れにはならなかったようだ。部会終了後の記者会見で部会長代理の土居丈朗・慶大教授は、「一律に少人数学級をすすめるべきだという意見は大勢でなかった」と述べている。
この資料をつくった財務省、そして歳出改革部会の姿勢については、学校現場の教員から疑問と怒りの声が多く聞こえてきている。桃山学院教育大学人間教育学部の松久眞実教授が行った聞き取り調査では、次のような声があったという。
「少人数学級にすれば、学力は上がります。わたしは現在、21人のクラス担任をしていますが、これまでの30人以上の学級との違いを強く感じています」
その“違い”について、その教員は「20人程度であれば、しんどい子も含めて全員を授業に参加させることができる。しかし、30人を超えたら難しい」と説明している。
学級としての学力を向上させるには、授業に参加できていない子どもたちの存在を考えなければならない。
授業中にじっとしていられないなど、問題のある子が現在の学校では増えてきている。教員が「しんどい子」と呼ぶ子たちだ。そういう子も含めて、学級としてまとめ、授業に集中させることは簡単ではない。
しかし、これが20人ほどなら違ってくると実感してるという。財務省は「効果がない」と言うが、現実に「効果がある」と主張する教員がいる。財務省は、現場の声を無視していることになる。それは、ただ少人数学級に反対することを目的にしているのが財務省の姿勢だからにほかならない。
教員の負担を軽くするためにも、少人数学級は実現しなければならない。そういう現実を、財務省や歳出改革部会には理解できていない。
■「主体的・対話的で深い学び」をどう実現する?
別の教員は、「新学習指導要領では『主体的・対話的で深い学び』を謳っていますが、それを実現するためにも少人数学級が必要です」と語る。
現在の30人以上のクラスでは、教員が全員と「対話」するには、物理的にも時間的にも厳しい。子ども同士での「対話」も、人数が多すぎて困難だという。
その少人数学級に否定的ということは、新学習指導要領そのものに財務省や歳出改革部会は反対しているということになってしまう。新学習指導要領に必死に取り組もうとしている教員にすれば、聞き捨てならないことなのだ。
新学習指導要領をつくった文科省は、財務省に反論すべきだし、怒ってもいいところだ。
また、「ソーシャルディスタンスを保ちながら対話的で深い学びを実現するためにも少人数は欠かせません」という声もあった。
新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)予防のためのソーシャルディスタンスはもはや常識とされている。それは、学校においても同じことだ。
ところが、現在の教室ではソーシャルディスタンスの確保は難しい。「33人の小学4年生を担任していますが、現在の子は体格がいいせいもあって、けっこう距離が近い」と発言する教員もいる。そこで「対話」をやろうとすれば、ますます距離が近づいてしまうことになる。それだけでも、少人数学級を実現しなければならない理由になる。
「文科省が言う『深い学び』が現在の30人以上のクラスで保証できますか?」という声も、複数の教員から聞かれた。
新型コロナが治療できるようになったとしても感染防止に気を配る必要はあるし、他の感染症に対しても防止策に注力していかなければならない。それが、新型コロナでの教訓でもあるはずだ。だから、現在の過密状態の教室を放置しておくわけにはいかない。
少人数学級を実現し、ソーシャルディスタンスが確保できる学級規模にしなければ、子どもたちは安心して学べない。対話的で深い学びを実現することができないのだ。
■感染対策の観点からも少人数化が必須
新型コロナによって学校現場は、「3密(密集、密接、密閉)回避」に必死に取り組んできている。その努力を推し進めるためにも、少人数学級の実現が必要になる。
しかし財務省は、「学力向上に効果はない」と言うばかりで、感染防止策に触れようとはしない。新型コロナ感染予防のための学校現場の努力を評価しないどころか、無視している。教員たちが怒るのも、無理はないだろう。
萩生田光一文科相は11月13日の閣議後記者会見で、「令和の時代の新しい学校の姿として、私としては30人学級を目指すべきだと考えている」と言及している。
文科省として30人学級、つまり現在のクラス定員の上限を40人から30人とする目標を公言したわけだ。
そうした現場の声も聞かないで「学力に効果はない」とする財務省の姿勢には、かなり問題があるのではないだろうか。