【過去最多の認知件数】増加するイジメ問題を学校はどう防ぐのか...の画像はこちら >>



 先月起こった北海道旭川市の痛ましいニュースにより、いじめ問題がクローズアップされている。文科省によれば、2019年度のいじめ認知件数は過去最高となっており、いじめに起因すると推測される不登校者数も増加傾向にある。

そのような現状に対して、教育関係者たちは子どもたちのために何ができるのだろうか…。



■学校はいじめを把握できているのか

 北海道旭川市教育委員会(市教委)は4月27日、今年3月に市内の公園で中学2年生の女子生徒(当時14歳)が凍死しているのが見つかった問題で、いじめ防止対策推進法上の「重大事態」にあたると認定した。その後、医師や大学教授らでつくる第三者委員会による本格的な調査がはじまった。



 女子生徒は2月13日に自宅から失踪し、3月23日に遺体で見つかった。西川将人市長は4月22日の段階で、「いじめの疑いも含めて明らかにする必要がある」と述べていた。これを受けて市教委はあらためて調査を開始し、女子生徒がいじめによる被害を受けた疑いが生じたため、重大事態として対処することを決めた。



 しかし、西川市長があらためて調査を命じたのは、4月15日付の『文春オンライン』が、問題の背景には「上級生の凄惨イジメ」があったと報じたからだとも言われている。これをきっかけに市教委や学校には、苦情や問い合わせの電話が相次いだ。さらに国会でも質疑が行われる事態となった。
 市教委としても放っておくわけにはいかなくなり、いじめ防止対策推進法第28条1による「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」に該当するとして、「重大事態」に認定。第三者委員会による調査を決めたわけだ。
 報道がなければ市教委の判断は遅れていたかもしれないし、「自殺」だけで終わっていたかもしれない。



■いじめの認知件数は増加傾向

 教育関係者にとって、いじめは頭の痛い問題であることは間違いない。文科省が昨年10月22日に発表したところでは、2019年度に全国の小中学校などでのいじめ認知件数は61万2,496件で過去最多となっている。特に小学校では、5年前と比べて約4倍にも増えている。
 いじめによって心身に重大な被害を負ったり、長期の欠席を余儀なくされたりした「重大事態」も、最多となる723件にのぼっている。旭川市の事件は重大事態と認定されただけではなく、いじめによる自殺という深刻な結果につながってしまった。



 文科省の調査では学校がいじめと認知したものでも、いじめ行為がなくなり、心身の苦痛が解消したと学校が判断した割合は全体の83.2%にも達しているという。

学校が認知、指導をしたことで8割以上のいじめが解消されたということである。しかし、この数字をそのまま信じていいのだろうか。また、学校での指導がいじめ防止に効果的であるとするなら、なぜ認知件数が最多になったのだろうか。





■イジメに起因する深刻な問題も…

 いじめ防止対策推進法が2013年度に施行され、いじめに対する学校側の注意・監視が強まったことの効果はあるはずだ。また、従前はいじめと認知していなかったことを、いじめとして認知するようになったために認知件数が増えたことも、十分に考えられる。
 それにしても、過去最多となった認知件数は、それだけでは説明しにくいものだとも言える。

学校が注意深く見るようになったこともあるが、同時に、いじめの件数そのものが増えていると考えたほうが自然に思える。8割のいじめが学校の指導などで解消しているならば、これほどいじめ問題がクローズアップされることもないのではないだろうか。



 また、先ほどの文科省調査によれば、学校が把握した児童生徒の自殺者数は2019年で317人となっている。前年度の332人を下回ったとはいえ、その数は増え続けている。さらに、不登校の数も減ってはいない。2019年度の結果でも、小中学生で18万1,272人と過去最高となっている。

高校生においては5万100人である。
 その不登校の原因を学校が正確に把握できているかといえば、そうとは言えないだろう。不登校には、何らかのいじめが関係しているとも言われている。そのなかには、学校が把握できていないものも多くあるはずだ。



■学校による指導の効果はどうか

 8割以上のいじめが解消されていると言われても、自殺者や不登校者の数を見ればまったく楽観はできない。そして、学校が「解消されていない」と認める案件も2割近くもあるのだ。

いじめ問題は依然として大きな問題であり続けている、と考えざるをえない。
 いじめ防止対策推進法がつくられるきっかけとなったのは、大津市の中2男子生徒の自殺で教育委員会や学校のずさんな対応が表面化したことだった。推進法は、学校や行政などの責務を定めた法律である。



 いじめに関して教育委員会や学校の責任が厳しく問われることになったわけで、だからこそ教育委員会や学校はいじめが起こることにナーバス神経になった。責任問題にならないように、教育委員会も学校も注意・監視を強化するようになったわけだ。それでも、いじめはなくならない。



 いじめ防止対策推進法は学校や行政の責務を定めているとはいえ、実際には問題の発見・解決は学校に丸投げされている。学校にいじめを根本的に解決できる力があるのか、学校だけで解決できる問題なのかどうか、そこから考え直す必要があるのではないだろうか。
 誰かに責任をとらせることでは、いじめ問題は解消しない。根本的なところから検討し対応していかなければ、旭川市のような事件もなくならないだろう。学校が、いじめ問題という重荷を降ろせる日もやってこないのだ。