現代社会に生きる私たちにとって、もはや必須のツールとも言える「SNS」。コミュニケーションがとれる便利さの半面、更新や返信に追われて疲れてしまったり、炎上に巻き込まれるリスクもある両刃の剣とも言える。

本記事では、「SNSがあるからプロデューサーの仕事がやれている」と断言するバラエティプロデューサー角田陽一郎と、大ロングセラー『考具』の著者である加藤昌治。新刊『仕事人生あんちょこ辞典———50歳の誤算で見えた「ブレイクスルーの裏技45」』の著者二人が、「SNSを「自分ブランディング」のツールとして賢く使うテクニックをお届けする。



SNSを賢く使い、「自分ブランディング」のツールにする!【角...の画像はこちら >>





■コミュニケーションの面積視点でSNSを見ると



加藤:私論なんですけど、何でSNSに疲れるかと云うと、いっぱい返さなきゃいけないからだと思うんです。で、疲れないために、「コミュニケーションの面積」で考えたほうが好いと思ってるんだよね。





角田:なるほど。





加藤:一回一回がへなちょこだと回数をこなさないといけなくて、面積が増えないから回数が要る。

だけど、すごく濃いコミュニケーションが一回あったら、別に一回でいいんじゃないかな。





角田:それ、僕でいうと「すごく濃い」っていうのが「リアルで会うこと」なのかなと思う。「SNSやるより、会って飯行きましょうよ」みたいな話でもいいってことだよね。





加藤:直接しゃべってるかどうかは別として、一緒に居る時間が長いと、なんとなくそこに共有してる感じが生まれてくるわけじゃない。





角田:うんうん。





加藤:で、いま自分はその感覚をなかなか持ちにくいので。

その点、SNSは便利なわけですけどね。





角田:20代の時はさ、一緒にゴルフ行くとか、ザギンでブークラ行くみたいなのをやらないとプロデューサーなんかできないと思ってたんだ。



 でも今、僕はSNSがあるからプロデューサーがやれてる。SNSがあれば、「なんか、このアーティストいい」とか言ってるとアーティスト本人からリツイートがきたりして、相互フォローで繋がっちゃったりして、「今度出てください」「いいですよー」みたいになる。つまりSNSでキャスティングしてるんだ。





加藤:それ、かとうが「知ったもん負けの法則」と呼んでるやつ。

初めてお目にかかる前に、お相手が先に角田くん情報を入手している。



 角田くん情報に関しては、書籍に関する紹介記事とかもいっぱいあるだろうから、ご本人が直接書いてないものも含めて、たくさん読めちゃう。「コミュニケーションの面積」がある程度すでに担保されてるわけよ。



 だから、本人同士はちょっとしたやり取りでいい。本を書いてるとかメディアに出てる人は、別に相手が聞いてようと聞いてまいと、そこにある程度の面積があるから。





角田:じゃあ、そうじゃない人はどうすればいいと思う? 例えばミュージシャンで、ファンを全くシカトする人もいれば、いちいち「ありがとうございます」って書く人とかもいるんだよね。



 田中泰延さんもよく言ってるけど、その時にちゃんと名前出して、何なら顔もちょっと出してやってるファンのツイートだったりを覚えるわけだよ。



 だから、自分には業界人のアドバンテージがあるとはいえ、加藤くんの言う「コミュニケーションの面積」って、SNSがなかった頃よりは、ちっちゃいところから耕せる領域になってるじゃんか。だから、今面積がない人は、むしろSNSで面積を増やしやすいってことなんじゃないかな。





加藤:そう思う。





角田:それが一番顕著なのが、「Twitter のフォロワー、何人いたら一冊本出せますよ」みたいなの。出版社の人ってもはや、むしろ「Twitter のフォロワー数が○○人だから、初版これくらいで」みたいな本の発注をするじゃんか。



 だからこそSNSやるの疲れるんだけど、僕はやっぱりあっていいものなんじゃないかなと思う。







■自分ブランディングを助けるSNS



加藤:SNSの使い方って、何かに反応して投稿するタイプのやり方と、ちゃんと運用するのって違うと思うの。



 なんとなく世の中的には業種に対するイメージ、これ先入観って云っていいと思うんだけど、「商人ってただブツを流通させてるだけで何もしてないじゃない?」みたいな前提があるような気がなんとなくするんですけど。



 でも商人は商人で素晴らしくて。だって、知らなかったものを教えてくれる人でしょう? この話で云えば、SNSを見ている人に対して「こういう情報ありますよ」を右から左に伝えてるだけでも、それは「面積」になると思うんだよね。



 じゃあ「商人」と、ばんばんリツイートしてるだけの人との違いは何かと云うと、自分なりの「仕入れ」の感覚とか、目利き感覚の有る無しだと思ってる。





角田:その真贋が分かるとこあるもんね。





加藤:もちろん間違っててもいいのよ? でも、自分が「いい」と思って仕入れたものを渡すことは、「ああ、この人ちゃんと仕入れたんだな」というのが分かるから、ある程度面積化すると思う。



 反対に、ただ流れてきたものをポンと送ってるのって、仕入れてない感じがある。この仕入れの感覚があるとちょっと変わってくんじゃないかなと、個人的には思うんだよね。





角田:その話で言うと、仮にTwitterとかがなくなっちゃったら、自分はフリーランスでは生きてけないんじゃないかなと結構思ってます。SNSで知り合った人から連絡をもらえたり、さっきも言ったようにSNS上で知り合ったことで番組のキャスティングもできている。



 それは「角田陽一郎はこう考えてる」ということを表明できるから、仕事に繋がってるってことなんだ。





加藤:連絡ツールという側面もあるけど、SNSを使って「角田陽一郎とは何ぞや」みたいなことを先出しできているということだね。





角田:そう。それが一番強いと思う。だから、僕が日課のように、「今日はこんなこと思った」とか「こんなことやった」みたいに書いているのは、やっぱりそれを外に出してないとフリーランスでやってけてないっていう事実があるからなんだ。





加藤:日記として使っているわけではないってことだよね。





角田:うん、日記としてはそんなに使ってない。「対外」しか意識してないかな。SNSは一種の「自分の窓」であって、投稿は「自分をどう表明するか」ってことだから、実は自分のブランディングなんだと思う。



 なので、自分のブランドを形成するにあたって、「俺は何でも言う人だ」っていうブランディングをしたいなら思ったことを書けばいい。但しそのブランディングは敵もつくるしクソリプも飛んでくるから、精神安定上は相当大変なことが起こります、ってことだよね。



 それを自分で決めることがブランディングだと思う。そこをちゃんと決められれば、SNSはちゃんと使えるんじゃないかな。「窓をどれぐらいの大きさで開けるか」を自分で決めるってことかな。





加藤:「ブランディング」っていうと、「自分のいいところを見せる」「自分の得意なとこだけを見せる」という感じにも捉えられるんだけど、これからブランディングを始める人は何を心がけたらいいのかな。





角田:「ブランディング」って言い方だとそう捉えられちゃうとすると、「アイデンティファイ」のほうがいいのかな。「自分というものを定義する」ってことだと思うんだよね。



 そうすると、いいことだけ書いてると「こいつ、いいことだけしか書かないやつ」っていうアイデンティファイをされちゃうよね。その定義によって自分が得するなら、それでいいんじゃないかな。



 でも、自分のことって自分では分からないから、判断がずれちゃう人が多いんじゃないかなとも思う。



 そこで、Twitter をやる時のポイントの一つに、「このことをつぶやくとフォロワーが増えて、このことをつぶやくとフォロワーが増えない」というマーケティングができてくるんだよね。



 バラエティプロデューサーである角田という人間が「渋谷でコーヒーを飲むこと」を書いたってやっぱりフォロワーは増えないけど、「アイドルの引退会見について、こう思った」って書くとやっぱりフォロワーが増えるわけですよ。



 「あなた」というブランディングの上で「どういうこと」をつぶやくとフォロワーが増えるか、増えないかは、やってみると分かってくる。





加藤:自分のブランディングや、培ってきた経験を表明する場としてSNSを利用する場合は、何に気を付けたらいいんだろう。





角田:例えば「サンボマスターの『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』が好きだ、すごく感動した」ってだけでは、そんなにリツイートされないよね。でも大体みんな「あの曲超いいんです、泣けました」ぐらいしか書かないんだ。



 そうじゃなくて、「『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』を聴いて試験勉強をしてたら、●●大学に受かりました」って書いたら、もしかしたらリツイートされるかもしれない。つまりそこには、「その曲を聴いた」にさらに「自分が●●大学に受かった」という、事実みたいなことが一個乗っている。そこに他人がリツイートする価値があるってことなんだよ。





加藤:単なる感想はいらないってこと?





角田:「自分が書いた140字の情報が、他人にとっても価値あるものなのか」って考えた時に、「感動させる」とか「知らないことを教える」とか「役に立つ」とか、いろいろな「価値」があるじゃないですか。なんなら「むかつかせる」もそうかもしれない。



 少なくとも付加価値を一個付けることが大事なんじゃないかな。自分の体験をただ外に出せばいいんじゃなくて、外の人にとっても「ほう!」って思う何か一個付けるんだ。







■経験・体験をアーカイブ化せよ



加藤:自分のブランドをある程度の形にしたい気持ちはある人がSNSを始める、ないしはもう一回仕切りなおすとしたら、どんな変え方がいいんだろうか?





角田:自分のTwitter の投稿や、それをまとめたnote の文章が溜まることは、自分の情報を外に貯蓄してるってことだと思う。自分という考え方を「アーカイブする」とも言える。まずそれをやるということなんじゃないか。



 ブランディングの話でいえば、『仕事人生あんちょこ辞典』の【履歴書】の項でも話したけれど、プラスチック関係の人が「プラスチックコーディネーター」と名乗ったら、本を書けたわけではないけどフォロワーは増えたし、結果テレビの取材も来たんだよね。



 だから「プラスチックコーディネーター」と名乗り「プラスチックコーディネーター」



という名前でTwitter をやることが、結果的にその人の個人をちゃんとつくり、その考



えを外に対して貯蓄することになり、やりたい仕事に近づくことになる。





加藤:その話をそのまま受け取ると「プラスチックコーディネーター」という自分への名付けが大事だって話と誤解しそうな気がするんだけど、角田くんが云ってることはさ、本当は「アーカイブ」のほうに重点があるんだよね。



 その時に、「名付けが大事」って話も「ガワが大事だ」みたいな感じではないわけだよね? 「先にプラスチックコーディネーターって思いつかないとだめなんですか?」って誤解がありそうな気がする。





角田:ああ、そういう人はいるね。「自分は思いつかないんですよ」って言うんだ。





加藤:「自分が見えてくる」ためにも、まずは自分の経験・体験をどんどんアーカイブ化していく。それが自分のブランディングに繋がるってことなのかな。





角田:そうだね。本当は「卵が先か鶏が先か」なんだけどね。





加藤:たまごニワトリ。でも、やったことがない人にとっては、まず「アーカイブする」ってことに対する恐怖心が強いと思うんだよ。



 「自分の人生をアーカイブしていく」ことに価値があって、そのアーカイブがしやすい世の中になったんだからアーカイブしないと損だ、と角田君はずっと云ってるじゃない。



 その「アーカイブの場」として、人が読まない日記ではあんまり意味がなくて、「外にアーカイブしていくことが大事だ」という話だよね。





角田:「外に自分を置く」ことには結果的に危険を伴うわけだよ。クソリプが飛んでくるとか、プライベートが暴かれるとか。だから「そこにアーカイブするのが嫌だ」っていう感覚もまず分かる。



「先に卵」という意味でいうと、「自分はこういう人間で、この情報をアーカイブする。この情報はアーカイブしない」ってはっきり決めたほうがいいと言ってるのは、それをやることでちょっと安心できるからなんだ。



 その時に一番ガードを固くするなら、自分の名前を出さないで全く違う人格でやる、『仕事人生あんちょこ辞典』で解説している「サードネーム」みたいな話になるわけだよね。



 その上で、サードネームだろうがファーストネームだろうが、セカンドネームでもいいんだけど、自分の決めた名前で、自分の決めた思想の下、「渋谷で飲んだコーヒー」のことをコメントするなり、「昨日観たテレビ」のことをコメントする、みたいなことでアーカイブしていく。



 そこで「自分がこういう人間だ」ということを定義しないで「ああ、コーヒーおいしかった」みたいなことを書いても、そのアーカイブはそんなに見てもらえない。よっぽど文章力があれば別だけど、誰と分からない人の文章なんて見てもらえないよ。







■「興味があること」×「個人的なこと」がブランドになる



加藤:「何を書くか」what to write が大事なんだけど、それがアーカイブとして読まれるために「こういうことを意識してやると、いいことがある」みたいなアドバイスがほしいかな。





角田:そこは「A×B」で考えるんだ。



僕は「結局は新しいものしかヒットしない」と思ってるんだけど、ところが人類の一番の問題点は「もう99.9パーセントは世に出ちゃったから、新しいものなんてない」ってことでしょう?



 凡人である我々が「新しいもの」を見つけられなくて困ったとしても、「新しい組み合わせ」ならできるんだよ。じゃあ「新しい組み合わせ」をつくろうという時に、それを「A×B」って定義するんです。



「A×B」の「A」っていうのは、この世に存在する何でもいい。むしろ「あなたが興味あること」でいい。



 広島東洋カープに興味があったら「広島東洋カープのこと」を書けばいい。でもそれだと「新しさ」がないから、「×B」が必要になる。



 この「B」は、「僕(Boku)のB」だって言ってるの。「『A』というものを、僕(B)が見たらどう思うか」を文章に書きましょうっていうことなんです。



 その時に、例として、僕は『最速で身につく世界史』の話をするんだけど、あの本の場合「A」が世界史で、「B」がバラエティプロデューサーである角田なわけですよ。



 僕なんかより世界史の本を書ける人はたくさんいるし、バラエティ番組のプロデューサーという意味で僕なんかより優秀なプロデューサーもたくさんいるけど、「バラエティプロデューサーが書いた世界史の本」は僕しか書けない。だからきっとそこそこ売れたんじゃないか、って話をしてるわけです。



「Aだけ書く」というのは学者的な文章だよね。「Bだけ書く」というのはごく個人的なことだ。でも、それをかけ算したところに新しさが生まれる。



 「プラスチックコーディネーター」というBだけだと全然興味を持ってもらえないけれど、「プラスチックコーディネーターが『嵐』をプラスチックに喩えた」みたいな内容を書けば、少なくとも嵐のファンはその文章を読んでくれるかもしれない。



 さらに、文章が面白くてどんどんフォロワーが増えると、僕のBが「ブランド(Brand)」のBに変わるんだね。





加藤:ある程度自分の中に、「まあまあこれがBだな」ってのがあれば始められる感じがするけど、「わたしのBって何なんだろう?」って迷ってる人も多いと思うんです。その時には「Bは徐々に、だんだんできていくから、まずはアーカイブから始めていこうよ」ということなのかしら。





角田:「自分にBなんてない」って言ってる人も、意外にあるもんだよ。「40代の主婦」でもいい。「子持ちで40歳で共働きの私がSMAPの解散に思ったこと」でも別にいいわけですよ。



 ただし、40代主婦で子持ちの人って何百万人といるじゃん。子持ちの主婦ってだけなら3000万人ぐらいいる。



 だったらそこに「広島東洋カープファン」って付けると、ぐぐっと40万人に下がる。つまり、ちょっとだけ「個人的なもの」になる。



 さらにそこに「元風俗嬢」っていうところまで入れたら全国で40人になるかもしれないけど、「それはあなたのブランドとして間違ってますか、間違ってませんか」ってことは、自分で考えるしかないんじゃないでしょうか。



 それに、「自分の定義」が実はあるんだけど、外では内緒にしてる人は多いじゃん。「俺、本当はこういう人間なんだけど、会社で見せるのは恥ずかしい」みたいなさ。





加藤:はい。あるね。





角田:という気持ちは分かるから、あえてまずそれをやってみましょう、本当に恥ずかしいならサードネームでもいいからやってみよう。単純に、それができない人のほうが多いから、大事になる気がするんだよ。定義は後々変わっていい。間違ってたら直せばいいわけだから。





(構成:甲斐荘秀生)