暮れも押し詰まり、今年最大の芸能ニュースはジャニーズ騒動でほぼ決定だろう。
創業者・ジャニー喜多川の死から4年、女帝とまで呼ばれたメリー喜多川の死からわずか2年で、このような事態になるとは思わなかったが、日本史を眺めれば、こういうことも珍しくはない。
栄華を極めるほど、その反動も激しく、意外なほどすぐに逆風が吹き荒れるということだろうか。創業者や創業時の指導者たちが健在なうちはよいが、権力の継承とともに衰退が始まり、敵視する勢力や恨みを抱く勢力がそこにつけこむようになる。ジャニーズの場合においても、その構図は明らかだ。
ジャニーの晩年、SMAPが解散。そのきっかけは、事務所を実際に仕切っていたジャニーの姉・メリー喜多川に対する、SMAPのマネージャー・飯島三智の造反だったとされる。また、ジャニーの仕事を受け継ぐと宣言していた滝沢秀明も、ジャニーとメリーが相次いで世を去ったあと、事務所を離れることに。当初は権力闘争に敗れたようにも見えたが、現時点では、数名のタレントを引き連れての独立に成功したかのようなかたちだ。
そして今年、英国のテレビ局BBCと「週刊文春」による「ジャニーズ糾弾キャンペーン」のような動きが起きた。ジャニーが生前にやっていたとされる、タレント及びその予備軍たちへのセクハラの責任を問い、償えというものだ。
しかし、生前も死後も、警察への被害届は出ていないし、被害についての証言もかなり雑。逆に、被害はなかったとする証言は無視された。
BBCや文春に続いた報道も、NHKなどを含め、かなり雑というか、一方的なものが目立つ。にもかかわらず、事務所はジャニーズに好意的でなかった勢力の報告書に乗せられ「法を超えて」救済するなどと公言してしまった。ジャニーを大悪人に、ジャニーズタレントたちを悪の味方に仕立てて叩きたい空気感に抗うより、負けを認めて出直そうとしたのかもしれない。
が、そもそも、そういう勢力を信用したことが悪手だったのだ。その勢力は貪欲で、その後もゴールポストを動かしたりしながら、攻撃の手を緩めない。ジャニーズが出直すために作られた新会社には、社長をはじめ、その勢力の人たちが幹部に居座り、まるで乗っ取られたかのような印象だ。
ちなみに、その勢力には、思想でいえば左寄り、野党的、反日、フェミニストといった傾向の人が多い。それゆえ、SNSでは「#ジャニーズ潰しは慰安婦スキーム」というハッシュタグが生まれ、群馬県草津町の町長がセクハラで濡れ衣を着せられかけた事件と同じだという声も出た。
なお、その勢力が立ち上げた「PENLIGHT」という組織がある。ジャニーズファンの集まりだと公称しているものの、ファンとしてのリアリティーは感じられない。
ジャーナリストの石井孝明は「Colaboの背景、不気味なネットワーク−行政が乗っ取られていた?」という記事のなかで「ここまで野党議員の支援を受けるColaboと『人権屋さん界隈』の政治力に驚く」として、こう書いている。
「野党は選挙で勝てないから個別論点で行政のハッキング(乗っ取り)をしているようだ」
ジャニーズ騒動もまた、大局的には勝てないこうした勢力が局地戦で挽回し、利を得ようとしているようにも映る。
そのあたりを見抜けなかったのが、ジャニーズの悲劇だったわけだが、敵は豊臣家を追いつめた徳川家康のように狡猾だ。家康は秀吉亡きあと、内輪もめや寝返りを利用したり、膨大な金を浪費させたり、意のままになる者を送り込んだり、難癖をつけたりして、豊臣家を弱体化させていった。
NHKの大河ドラマ「どうする家康」では、その家康をジャニーズタレントの松本潤が演じた。なんとも皮肉な話だが、ジャニーズもこのまま滅亡してしまうのだろうか。
ただ、最大の争点というべきジャニー喜多川のセクハラについては今も証拠が出て来ていない。じつは今回の騒動によって、筆者も考えを少し変えた。彼の生前から盛んに取り沙汰されてきた噂は実態よりも真実味が薄いのでは、と思い始めたのだ。
その性癖については創業当初から噂され、報道もされてきたが、生前に最大の注目を浴びたのは、1988年、元フォーリーブスの北公次による暴露本「光GENJIへ」が出たときのことだった。
仕掛け人は、当時、田原俊彦の女性スキャンダルをめぐり、ジャニーズと対立していたAV監督の村西とおる。
とまあ、この構図から浮かんでくるのは、この本の信憑性についての疑問だ。ポルノグラフィーとしても恨み節としてもかなりよく出来ているが、逆によく出来すぎている感もある。考えてみれば、村西はもとより、本橋もポルノには通じていたし、北は北で、とにかく面白い話を提供しなくてはならない必要に迫られていた。そんななか、けっこう盛られた内容もあるのではと想像してしまう。
実際、北に続いて暴露本を書き、かなりの成功を収めた平本淳也について、その出版社の社長が「ちょっと虚言癖があったりする」と評してもいる。また、北はのちに暴露を後悔したり、再び暴露をにおわせたりしながら、死の前日にはジャニーやメリーに感謝を述べるなど、その言動には一貫性がなかった。
そして、北や平本、さらには今回の証言者たちの回想がすべて事実だとしたら、ジャニーのプロデュースやマネジメントはどこかで破綻していたのではと思わざるを得ない。質的にも量的にも、バレないはずはないし、警察沙汰にならなかったのが不自然なほどなのだ。
個人的な印象としても、ジャニーの性癖はもうちょっとプラトニックなもので、その傾向は加齢とともに強まっていったのではという気がする。
ではなぜ、今回のようなことになったかといえば「光GENJIへ」の影響がおそらく大きい。あの本がよく出来すぎていたため、それを下敷きにしたかのような証言が虚も実もないまぜに拡大再生産され、その勢いに事務所が圧倒されてしまったのではと。人間の精神とは脆いもので、大勢から集中的に糾弾されれば、まともな判断もできなくなる。まして、証言者たちは芸能活動については負け組で、その感情は恨みや嫉みといったネガティブなものにあふれているのだから。
冒頭で関ヶ原の戦いに触れたが、あそこで家康が勝てたのは、石田三成に対する福島正則らの恨みや嫉みをうまく利用できたからだった。最大の決め手というべき寝返りをした小早川秀秋にしても、一度は豊臣家の後継者候補と目されながら、秀頼の誕生で他家に養子に出された存在であり、その感情は複雑だ。
そういえば、11月に放送された「英雄たちの選択」(NHKBSプレミアム)で、秀秋が取り上げられていた。彼の寝返りのおかげでなんとか天下を得ることができた、というイメージを嫌った徳川家が、関ヶ原から2年後に夭折してくれたのをよいことに、その人格を惰弱で卑怯な印象に改変していった可能性を指摘するなど、秀秋の再評価を試みるという趣向だ。
その最後に、歴史家の磯田道史が興味深い話をしていた。歴史を考える場合「勝者、敗者、滅亡者」の三つの視点があるとして「歴史は勝者が作る」というのは必ずしも正確ではないと指摘したのだ。
「たしかに、最初は勝者が作って威張るんですよ。そのあと、敗者は必死で勝者が作った歴史を改竄して自分たちの正当化を始める。敗れても生き残っていれば、歴史改竄をもう一回始めるんですよ。いちばん困るのは滅亡者。滅亡者は歴史を語る口がない。死人に口なしにされるんです。滅亡者の歴史を見るときは、我々はよぉく気をつけて見ないといけないっていうことなんですね」
ジャニーズ騒動は今、敗者が歴史を改竄しようとしている状況なのだろう。ジャニーやメリーはすでに「死人に口なし」とされている。このままジャニーズが滅亡者になってしまうと、事実上の「冤罪」が正当化されかねない。
それに近い現象は歴史上、けっして珍しくないのだ。大日本帝国は戦後の自虐史観により、その方向性自体が悪として語られがちで、それこそ、特攻で死んだ若者を「犬死に」だと軽んじる人までいる。安倍晋三についても、暗殺されて当然だったという人まで出て来て、死体蹴りが盛んに行われた。
その点、ジャニーズはまだ滅ぼされてはいない。が、歴史改竄はすでに始まっていて、ジャニーもタレントたちも、その名誉やイメージがズタズタにされつつある。完全に滅んでしまうと、ジャニーズそのものまで「死人に口なし」になるのだ。そうならないためにも、滅ぼさせてはいけない。
文:宝泉薫(作家、芸能評論家)
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