マンションの「管理」にはプロが必須だけど…◆「無料サービス」は誰が負担しているのか
不動産は高額のものだけに、業者は購入検討者と会うために、様々なプロによる「無料サービス」を提供します。
とはいえ、そこはプロですから、ある人に無料でサービスを提供したら、必ず他の誰かからお金(報酬)をもらわなければ食べていけません。
例えば、マンションの購入相談に出かけていくと「ここがいいですよ」と無料で物件を紹介してくれる会社があります。しかし、そこで紹介されるマンションは、売主が紹介手数料を払っているものが優先され、ネットで見かけた物件が紹介されることは稀です。
お金を使わなくても、良い物件なら勝手に人が集まるからです。
他にもモデルルームにいけば、今度は無料で資金相談に乗ってくれるFPさんがいます。実際にはかなり難しい金額の物件について「わたしでも買えますか?」と聞いた場合「ちょっと厳しいですね」というシビアなアドバイスを貰えることはないでしょう。
当然です。彼らは誰かから、何らかの目的のために報酬をもらって、そこで無料サービスを行っているのですから。
◆プロを値切ると管理組合に何が起こる?
マンションは買うと必ず管理組合の組合員になり、大抵は輪番で理事会の役員が回ってきます。私はずっと立候補で理事を10年、理事長の勉強会の代表をしていますから、かなり変わり者ということになるかもしれません。
管理組合がお金を使う場合、総会を通して認められた中からしか使えないので、支出の合意形成は大変です。「何にお金がいるのか」を考えるよりも、支出提案を理事会や総会で通過させることが理事の仕事になるのですが、これは実際やってみないと分らない。
大きなマンションだと、年間の予算や、大きな修繕工事での支出が億円単位になったりします。管理会社に全部お任せしているとすぐに「ボラれているのでは?」と住民に言われるので、最低限、検算はするしかありません。
真面目な理事さんほど、情報収集に熱心で、管理士事務所などプロのコンサルの主催する「無料セミナー」にお出かけしてアドバイザー探しをすることになります。さすがに、自腹を切ってまでお勉強したいという理事はいませんから、セミナーは無料、そこで気に入ったプロにお願いすることになります。
元々がコスト削減を目的にしているので、この相談費用も1円でも安く済ませたい。つまり、理事会はプロの知見をただで手に入れたがる傾向がとても強いのです。
これ、マンションの住人に対しては「削減できなければ1円も払わないで済みます」と総会で言えるから通りやすいんですね。
この場合、プロは霞を食って生きていけませんから、コミッション目当てで管理組合の支出をとにかく無理やり削減するしかありません。管理費の多くは人件費ですから、管理員や清掃員などの人減らしに走りがちになります。
管理支出を無視した削減結果として、管理事務室に行っても誰にも会えない…となると、肝心の「住民の満足度はどうなのか?」と、本末転倒な結果になってしまいます。
コスト削減が主目的でコンサルに入ると、やがてそのコンサルコストが削減目標になってしまうので、プロはさっさと済ませて抜けようとします。
同じ問題は、修繕工事の工事設計を行うコンサルの起用でも起こります。相手は建築士資格などをもった「プロ」なので、費用は相応にかかるはずなのに、管理組合側が1円でも安いで会社を選んでしまうと、アドバイスして選定した施工会社からバックリベートを貰うしか報酬を確保する方法がなくなります。
この 「不適切コンサル問題」は、最近マスコミでも問題として取り上げられることが多くて、私もよく組合側の人間として取材を受けます。
しかし、「相手が食っていける最低限の報酬も払ってなければ必ず起こる問題で、組合も悪い」とコメントすると必ずボツになります。
◆管理費って削減しないといけないの?
「1円でも払いたくない病」に罹患している理事会は結構多いもので、コスト削減が自己目的化しがちです。
マンションに住む人は、裕福な人が多いものです。都内の新築なら日本の国内平均の2倍くらいの年収のある人が組合員ということも多いでしょう。旅行はいつもグリーン車、普段は外車に乗っていますという人が、管理費が月に千円ばかり安くなって喜ぶかどうかは疑問です。むしろ、カウンターに若いコンシェルジュさんがいたはずが、いなくなったり、老人ホームみたいになったりしたら怒るのではないでしょうか?
都内の新築マンションだと、もう1㎡買うのに100万円する世界です。このお値段のものをきちんと維持するコストを、月に数十円削ったところで、住民からの感謝につながる気はしません。
私のマンションでの管理コストの削減は、「浮かせた剰余金を改善に使う」のが目的で進めてきました。お金がなかった時に直せずにみすぼらしくなった植栽を改善したり、震災で漏水して止まっていた水景施設を復活させたりに使っています。
なにかマンションをよくして「爪痕を残せた」という実感がないと、理事会の役員がコスト削減そのものだけを目的にしていても、やる気には繋がらないと思うのです。
マンションは建物が劣化したり、共用施設の利用方法等で多くの問題が起こってきます。これを、速やかに解決するために「速やかに何かを決める」ことが理事会のなすべきことの全てで、そのためにお金を惜しむのも変な気がするのです。
自分で庭の草むしりをするようなことは嫌だからマンションを買ったはずで、これは理事会の役員でも同じです。自主管理のような苦労は誰だってしたくないのが普通ですから、コストを削った結果として管理員・清掃員でもできる仕事を理事がやるのはおかしいわけです。
私のマンションは、管理士・司法書士・弁護士・施工管理技士・税理士との顧問契約があり、年に管理費会計の2%を、管理会社ではカバーしきれないプロのお仕事を依頼するために使っています。これらはいずれも何千時間も勉強してようやくとれる資格ですが、理事にはこなせない士族的な難しい仕事は、お金を出して士族に頼めばいいでしょう。
駐車場の外部貸しの税務申告は税理士さんに、滞納の訴訟は弁護士さんに頼むと勝手に進むことで、理事会は新しい問題の解決に向かうことができます。
戸数が多ければこれだけ多くのプロを起用しても、かかっている費用は、月に専有面積1㎡あたり5円に過ぎません。マンションは多くの人が集まり住む住居です。このスケールメリットを生かせることが最大のメリットであると思うわけです。
プロの相談費用が確保されていない場合、相談者にとってメリットのある提案がなされていない例が、特にマンションの関連では多い気がします。
つまり、払うべきお金は払って、プロには自分のために働いてもらわないと変なことがあちこちで起こるのではないかと思うのです。
今回私がTwitter 上でよくやり取りしている、不動産系のプロ集団『全宅ツイ』から本が一気に6冊も刊行されたと聞きました。
私は、素人でごく普通の一般人なのになぜか末席に入れていただいていますが、各領域のプロのお話を是非読んでみたいと思います。
プロに適正料金を支払い、しっかり働いてもらうためには、その内情を知ってみることに意味があると思うからです。
◆はるぶー/湾岸部所属
湾岸部にされてますが住まいは足立区。大体“プロ”じゃないのになぜか全宅ツイの所属。500戸強のマンションの管理組合の理事を11年。理事長の集まる勉強会RJC48の代表をしています。