韓国芸能界の現実を巡る報道で、ことさら刺激的な言葉は「奴隷契約」という言い方だろう。その契約内容は非常に過酷なものだった。
『韓流アイドルの深い闇』著/金山 勲より)■あまりにも過酷な契約内容
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 韓国芸能界の現実を巡る報道で、ことさら刺激的な言葉は「奴隷契約」という言い方だろう。

 これは芸能プロダクションとタレントとの間に取り交わされた契約内容が、タレント側にとって不利な条件になっているという意味だ。

 この契約のことが表向きになったのは、2009年8月9日。

 韓国の民放テレビ局MBCの時事番組『時事マガジン2580』に、人気アイドルグループの東方神起が出演したことがきっかけだ。彼らはギャラにかんして、所属事務所のSMエンタテインメントが、グループを売り出す費用を差し引いた上で、残りの売り上げ利益を東方神起40パーセント、事務所側60パーセントと、不利な分配率にされていたと主張したのだ。

 契約期間も13年間と長期に拘束される契約を結ばされており、13年ならアイドルスターとしての生命が尽きるまでの契約だと、その不当性を訴えた。

 東方神起はこれらの主張を盛り込んで、SMエンタテインメントに対する訴訟を進めていることも改めて表明し、人気アイドルと大手芸能プロダクションとの間の契約問題が、社会的問題として取りざたされるようになったのだ。

 当時は、まだ「奴隷契約」という表現はなかったが、この契約を基本的人権に反するものだとする過激なマスコミの反応もあった。

 東方神起は、日本でもテレビドラマの主題曲を歌ったり、ドーム球場を超満員にするコンサートを成功させており、この契約問題は日本のメディアでも大きく報道された。

 同じく、テレビ東京のドラマに出演するなど、歌手兼アイドルグループとして、日本でも大人気であった女性ボーカルグループKARAのメンバー3名(ハン・スンヨン、ニコル、カン・ジヨン)も、不当な待遇を理由に訴訟を起こしている。3人は2011年1月に、所属事務所のDSPメディアに専属契約解除を申し出て、翌2月にはソウル中央地方裁判所へ訴状を提出した。

 この訴訟については、4月になって所属事務所がホームページ上で「すべての争いを円満に解決し、メンバー3人はKARAでの活動を再開することで合意した」と発表し、一件落着したかにみえた。

 しかし、その具体的な内容までは公表されていなかった。

 訴訟前年の2010年の日本国内でのアルバム売り上げが約25万枚(13億円)といわれているが、2011年1月当時、3名のメンバーは正当な利益を受け取っていなかったと主張しており、当時の月給は1人当たり14万ウォン(約1万4000円)だったとも噂されていた。

 この騒動以降、メンバーは揃わず、現在KARAは事実上解散状態だ。

■海外で取り挙げられた「奴隷契約」

 2011年6月、イギリス国営放送BBCが、K–POPの世界進出をニュースとして取り上げた。

 内容は、韓国の芸能人が、日本を含め海外市場に続々と進出していることを紹介した後、その背景には幼い歌手に対する待遇問題にかんして暗い側面が存在すると解説。そのうえで、このようなK–POPの成功神話が、いわゆる「奴隷契約」と呼ばれる長期間の不平等専属契約の上に成り立っているものだと指摘した。

 そして、実例として、東方神起の元メンバーと所属事務所との間で起こされた法廷訴訟を取り上げたのである。

 これ以降、「奴隷契約」という言葉が世界的に拡散し、K–POPを語るキーワードの一つとなったといえるだろう。

 同じく6月には、韓国のMBCが『時事マガジン2580』で、再度この問題を取り上げ、韓国芸能界の不公正な契約実態を「奴隷契約」だとして放送した。

 韓国内の大手メディアが「奴隷契約」という過激な表現をしたことで、韓国社会に大きな反響を呼んだ。

 当時、韓国のエンターテイメント業界に、「奴隷契約」という言葉に反発する者も多く、特に事務所関係者はこの言葉を侮辱と受け取り、怒りに近い感情を持っていた。

 私も何人かの関係者の話を聞いたが、主旨は押しなべて「軍事政権から民衆の力で民主化を成し遂げた、韓国民と韓国に対する侮辱だ」というものだった。

 もちろん事務所側の人間にとって、この件は死活問題だったが、韓国の近代政治の流れまで持ち出して反発しようとする韓国人の誇り高さは、在日として育った私には驚きだった。

 タレントの側にも同様の感情があったようで、「奴隷契約」との表現で名誉を傷つけられたとして、人気歌手を含めた芸能関係者が、MBCに出演拒否を通告して正式に謝罪を求める騒ぎもあった。

 だが一方では、有名で裕福な芸能人のこうした主張に、一般の人々の反応は冷たいものだった。