「受験の神様」にして精神科医の和田秀樹氏が上梓した初めての自伝的小説『灘校物語』(サイゾー)が面白いと評判だ。和田氏の青春の母校である灘校を舞台に主人公ヒデキの七転八倒の物語が描かれている。
ヒデキはとにかく好奇心旺盛で飽きっぽく、過集中という性格。和田氏はみずから、「発達障害人生を送ってきた」としみじみ語る。一方対談相手の「えらいてんちょう」こと矢内東紀氏は、双極性障害のうえ発達障害とのこと。人気Youtuberとして注目を浴びる一方、近刊『「NHKから国民を守る党」の研究』(KKベストセラーズ)では党首の立花孝志を徹底批判し、N国党の躍進を分析。どのメディアもN国党の圧力を恐れ、忖度して批判をしないなか、批判の急先鋒となって注目を浴びた。今回はそんなおふたりが「人間は、なにを価値基準にして、動くのか」を語り合う異色の対談第3回。
■愛されたいなら「可愛い老人」になれ
『愛されたいなら“可愛い老人”になれ』特別対談③受験の神様・...の画像はこちら >>

矢内東紀(以下:矢内) 「和田秀樹先生が、ある書籍のなかで、お母様から、“アンタはコミュニケーション障害だから、弁護士か医者にならないと、生きていけないから”と言われて、医者になった、みたいなことが書かれてましたけど」

和田秀樹(以下:和田) 「そうそう。そのうえでさ。やっぱり僕、内科とも精神科とも喧嘩して、老年精神医学って道に入るわけですよ。で、老年精神医学をやってると、もうみんな、なれの果てというかさ、そういう人をたくさん診るんですよ。元大臣とか、元会社の社長とかが、ボケちゃっててさ。それで、そういう人たちを見ていると、一時的に偉くなっても、結局、下のことを可愛がってないヤツって、誰も見舞いに来ないよね。

上にペコペコして出世したヤツって」

矢内 「ああ、いい話だなあ、それ」

和田 「だから、そういうのを見てるとさ。たとえば、小泉進次郎でも、橋下徹でも、いまの安倍晋三総理でもさ、僕は、老人をいっぱい見てて、思ったんだけど。人生のピークって、後ほどいいわけよ。早く死ぬ気がない人は。だから、結局、若いうちに偉くなろうとして、運よく偉くなれたとするじゃない? じゃあ、橋下なら橋下が50くらいで総理大臣になったとしてもさ、そうやって若いうちに偉くなればなるほど、晩年、カスになるわけじゃない? カスというか、もう、抜け殻みたいになるわけだ。まあ、中曽根康弘元首相とか、ナベツネ(渡辺恒雄読売新聞社主)みたいに、ずーっと地位にしがみついて、エライ人のまま死ねる人はいるかもしれないけど、普通はそうはいかないわけでさ」

矢内 「中田先生が、そのへんを『13歳からの世界征服』(百万年書房)という本で書いてますけど。

要するに、老人っていうのは、老いていって、可愛くなんなきゃいけないのに、若い人に相手にされるために、金と権力にしがみついて、さらに可愛くなくなって、さらに相手にされなくなる、みたいな」

和田 「おっしゃる通り。だから、若くして出世しようとすればするほど、セコいことをしなくちゃいけなくなっちゃうでしょ。だから、いま、たとえば、(安倍総理のことを)忖度してるわけのわからない公務員だとか、何も言えなくて安倍さんにペコペコしてる自民党のヤツとかさ、そういうヤツを見てると、この人たちって、年取った時、どうする気なんだろうと思っちゃうんですよ」

矢内 「中田先生がイスラム国渡航事件の時に、かばったのが、和田秀樹先生と池内恵先生だけだったって、僕のなかで、すごく重くあってですね。僕も、かばったというか、一緒に逃亡したんですけれども」

和田 「僕が知る限り、中田氏はさ、イスラム青年会議の日本代表だったしさ。要するに、昔のイスラムの過激派ってね、たとえば、連合赤軍とかは、PFLP(パレスチナ人民解放戦線)とは仲がいいけど、ほかの国のイスラムの偉いヤツらには、誰にも相手にされてないわけだよ。でも、中田さんは、イスラム国とも仲がいいかわりに、ほかの国の王子とかとも仲がいいわけだからさ。

そこが全然、違うんだよね」

矢内 「(中田先生は)イスラム国についても、すごく、客観的な視点で書かれているというか。“イスラム国なんか嫌いだ”というふうに公言されたうえで、その、客観的な記述というのを心がけている。やっぱり、学者だなというふうに思いますね」

和田 「いや、たいしたものだよね。だから、まあ、世間は勝手なことを言うけどさ。たまたまね、中田は高校の同級生じゃん」

矢内 「ええ。小学生時代から塾で一緒の」

和田 「それで、大学の同級生に、岡本って、開成を一番で出て、東大の医学部を一番で出たという、すごい賢いヤツがいるのよ。

その岡本は、アメリカの大学の准教授かなんかになって、理化学研究所のディレクターかなんかで帰ってきてね。もう、アルツハイマーの日本の研究の第一人者だったのにさ。アメリカが“資料を持ち出した”とかっていって、スパイで訴えたんだ。それで、みんな、かばわないのに、オレは、たまたま、産経新聞のオピニオン・コラム『正論』のメンバーだったので擁護記事を書いたんですよ。なんで岡本はスパイ扱いされてるのに、日本の企業の金でできた技術を全部持ってって、アメリカの大学で教授になってる中村修二は、ヒーロー扱いされてるんだと。“この国は、頭がおかしい”って書いたんだよ」

矢内 「いやあ、いいことおっしゃる。

和田秀樹先生は、ホントに友情に熱いですよね。不公正に対して怒るということは、やっぱり、障碍者じゃないとできないというか。そういうことをいうと、損じゃないですか。はっきりいって。仕事ももらえなくなるし」

和田 「いや、だからさ、結局、損か得かより、あとで考えたほうがいいっていうか」

矢内 「というか、考えられないですよ。中田先生が言ってたのは、考えていたら、もうできないというか。それこそ、たとえば、人が線路に落ちた時に、体がパッと動くこととか。つまり、動かないほうが自分の生存率って上がるんだけど、でも動いちゃう人間というのが一定数いて。それこそが、ADHDとか」

和田 「そうだね。たぶん、そうなんだよ」