日本のあらゆる問題に疑問を持ち『ゴーマニズム宣言』にて問題を提起し続け、その歴史をまとめた『ゴーマニズム戦歴』(ベスト新書)も好評な漫画家・小林よしのり氏。
先月発売された『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』(文春新書)が話題沸騰中の伊藤祐靖氏。

この国の未来を憂うふたりが、国防と自衛隊の存在意義について問う、注目の対談!英語がよく判らない? 恐ろしくレベルの低い他国の軍隊

小林 これは『民主主義という病い』(幻冬舎)でも描いたんだけど、本来、民主主義の国民国家は全員が兵隊でした。古代ギリシャのアテナイで生まれた直接民主制で投票権を持つ市民は、全員が戦士。市民とは政治や国防を担う人間のことで、家政や経済活動は民主制に参加できない女性や奴隷がやっていたんです。だから敵が攻めてきたら、直接民主制に参加している男たちは全員が命懸けで戦わなければならない。それが国民国家の起源なんです。フランス革命でできあがった近代的な国民国家も、市民には国防の義務があった。

それが本来の民主主義ですよ。「戦争をする」と民主的に決めたら、それを決めた市民自身が戦いに行くことになるわけ。

伊藤 安易には決められないですね、そうなると。

小林 そういうことです。ところが今の日本では、戦場に行かされる自衛官にほとんど発言権がありません。わしがやってる「ゴー宣道場」にも自衛官が何人か来るんですけど、発言を動画で公開されると怒られるので、挙手せずに最後のアンケートで意見を書きますね。

アテナイの民主制だったら自衛官だけが参政権を持っているはずなのに、彼らは表立って政治的な議論さえできない。逆に、家政や経済活動だけしている人間が政治をやって「これが民主主義だ」と言ってるんだから、実はおかしな話なんですよ。みんなが当事者意識を持って必死で民主主義に参加するには、徴兵制が有効だという考え方もある。

伊藤 たしかに国にとっては、国民全員が真剣に社会のことを考えるという意味で、徴兵制は良いことなのでしょうね。自衛隊にとっては、手間がかかるので大打撃だろうと思いますけど(笑)。どの国でも軍隊には社会の下のほうの階層が入ってくるので、そもそも教育に手間がかかるんですよ。

自衛隊はよその軍隊に比べたらマシですけど、それでもジャンケンを知らないとか、自分の名前を漢字で書くのが精一杯というのがいますから。

小林 本にもお書きになってましたが、それでも自衛隊のボトムの部分は他国の軍隊に比べてものすごく優秀なんでしょ? あの話は実に面白かった。米軍の下のレベルはもっとメチャクチャ低いと。

伊藤 他国と一緒に訓練した自衛官は、よそのレベルの低さにみんな驚きます。米軍にいたっては、英語がよく判らない奴が1割ぐらいいますから。逆に外国の軍人が日本の自衛官を見ると、「共同訓練のために優秀な奴らを選抜してきたんだろう」と思うようです。

入隊したばかりの奴らだと言っても、「嘘つけ、これはみんな将校だろ?」と信じない。

 

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ゴーマニズム戦歴(ベスト新書)
小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論  日本人は国のために死ねるのか(3)
国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動 (文春新書)

 


他国の軍隊にあって、日本人にない「決断力」

小林 たぶん、よその国は下の階層の公共性が欠如してるんですよね。でも、上の階層は日本より優秀なんでしょ?

伊藤 優秀というわけではありませんが、日本人に無いものを持ってます。

小林 どういうことですか。

伊藤 ひとつは決断力です。自分の意志で物事を決められるんですね。

それから、議論ができる。相手の意見をねじ伏せるディベートではなく、話し合って最善の策を出すという本来あるべき形の議論ができるんですね。残念ながら、日本人はそこが苦手だと痛感します。縄張り争いや僻み根性のために、相手の意見をねじ伏せることばかり考えるんですよ。そのくせ、自分の意見に責任は持とうとしない。「俺はこう思う」とは言わず、「これは前からこう決まっている」とか「あの人がこう言っていた」などと、自分以外のところに根拠を求めるんですね。
せっかく世界一レベルの高い下士官を持っていながら、中間管理職としての指揮官があまり伸びないのはもったいないところです。

小林 昔から日本は組織力が強いけど、トップで決断する人間が弱いと言われてきましたよね。それに対する不満が広がったから、安倍晋三や橋下徹みたいな独断的なリーダーシップの持ち主が人気を集めるようになった。今の野党が自民党に勝てないのは、そういう独裁者型の指導者がいないからですよ。しかし、そういうリーダーが正しければいいけど、間違っているとどうにもならない。結局、ボトムの部分が優秀で、組織力や団結力があるという日本人の民族性を活かすしかないのかもしれないね。

伊藤 日本独自の社会構成があると思うんですよ。明治維新のときも、71年前の終戦直後も、欧米のやり方を慌てて真似たり、押しつけられたりしただけで、それが自分たちに向いているかどうかわからないまま受け入れてしまった。江戸時代に戻せとは言いませんけど、本当に議会政治が必要なのか、総理大臣というものがいなければいけないのかといったレベルから考え直す時期ではないかとも思います。

 

小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論  日本人は国のために死ねるのか(3)
 玉砕まで戦い続ける日本人

小林 そもそも組織力が強いのは軍隊にとっては良いことですよね。今の自衛隊でも、たとえば中国の人民解放軍なんか蹴散らせるんでしょ? 日清戦争のときも向こうの軍隊はどんどん逃げていったらしいから、人民解放軍もそんなに強くないと思ってるんだけど。

伊藤 全然強くないです。組織戦闘が成り立たないでしょうね。戦闘というのは一般的に、およそ1割が被弾などでケガをすると攻撃を止め、2割が死傷すると撤退が始まると言われているんですよ。でも中国は、たぶんその半分だろうと言われてる。アメリカはその2倍、日本は玉砕まで戦い続ける。人類の紳士協定からすると、日本のやり方はルール違反なんですよ。その意味で日本と中国は両極端。戦闘が始まってちょっと形成が悪くなったら、向こうは統率が取れなくなって、敵に寝返って仲間を売ったりする奴が出てくると思います。もちろん、あまり相手を見くびってはいけないし。自信を持ちすぎるのも良くないんですけど。

小林 やっぱりそうか(笑)。勝てるんじゃないかと思ってたんだよ。だから尖閣諸島にも、なんで軍艦を送らないのかなと思ってしまう。そうなったら向こうも軍艦で来るからますます戦争の可能性が高くなるんだけど、漁船に見せかけて実は戦闘員が乗ってるみたいな中国のインチキ臭さがあまりにも不愉快で、いつまでこのストレスに耐え続けなきゃいけないのかと思いますよ。

(第4回に続く)

 

小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論  日本人は国のために死ねるのか(3)
 小林よしのり
こばやしよしのり。1953年福岡県生まれ。漫画家。1976年、大学在学中に描いた『東大一直線』でデビュー。以降、『おぼっちゃまくん』などの作品でギャグ漫画に旋風を 巻き起こした。1992年、社会問題に斬り込む「ゴーマニズム宣言」を連載開始。1998年、「ゴーマニズム宣言」のスペシャル本として発表した『戦争 論』(幻冬舎)は、言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。現在『SAPIO』にて連載中。近刊に『大東亜論』第一部・第二部(小学館)、『民主主義という病い』(幻冬舎)、『ゴーマニズム戦歴』(ベスト新書)などがある。

 

小林よしのり×伊藤祐靖 新・国防論  日本人は国のために死ねるのか(3)
 伊藤祐靖
いとうすけやす。1964年東京都生まれ、茨城県育ち。日本体育大学から海上自衛隊へ。防衛大学校指導教官、「たちかぜ」砲術長を経て、「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件に遭遇。これをきっかけに自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に関わる。42歳の時、2等海佐で退官。以後、ミンダナオ島に拠点を移し、日本を含む各国警察、軍隊に指導を行う。現在は日本の警備会社等のアドバイザーを務めるかたわら、私塾を開いて、 現役自衛官らに自らの知識、技術、経験を伝えている。著書に『とっさのときにすぐ護れる女性のための護身術』、国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』 (文春新書)がある。