ウサギが風船を持っているロゴマークで知られるベビー・子供服の製造卸会社、フーセンウサギ(大阪市)が10月15日、大阪地裁に自己破産を申し立て、破産手続きの開始決定を受けた(負債総額:30億円)。

 大正10年創業の老舗で、ベビー向け高級ブランド「CELEC(セレク)」やライセンスブランドを多数取り扱っていた。

全国各地のショッピングセンターをはじめ直営店を多数展開。最盛期の1997年2月期には299億円の売り上げを計上した。

 カーレース・ファンの間では「フーセンウサギレーシングチーム」のメインスポンサーとして有名だ。バブルの余韻がくすぶる91年5月に富士スピードウェイで開催されたF3「全日本富士1000kmレース」から、93年11月にかけて31回参戦。戦績は93年10月の鈴鹿サーキットの「フジテレビ日本グランプリレース」の9位が最高。フーセンウサギが一番輝いていた頃だ。

 しかし、2000年代に入ると、長引く不況やデフレでベビー・子供服市場の環境は一変した。13年2月期には62億1300万円まで売り上げはダウンした。それまでは、ブランド力が決め手になっていたが、高級品やブランドに対する親のこだわりが薄らいだ。高級子供服に代わって台頭してきたのが、衣料品専門店が展開する低価格品やインターネット通販だった。高級ブランドを多数扱っていたフーセンウサギは、この変化についていけず、業績は年々低下していった。

 フーセンウサギに限らず、少子化が進み、ベビー・子供服市場全体は縮小が続く。

 市場調査会社、矢野経済研究所のまとめによると、ベビー・子供服の市場規模は03年には1兆540億円と1兆円を超えていた。その後は縮小が続き、12年は7245億円。市場規模は3分の2にまで縮小した。販売チャネルも様変わりした。かつて子供服の主戦場とされた百貨店や量販店の売り上げが大きく落ち込み、躍進しているのは専門店でありインターネット通販だ。

 その結果、二極化が進んだ。ベビー・子供服と生活雑貨の大型店をロードサイドで展開している西松屋チェーンは、16年2月期までに店舗数を現在の860店から1000店に拡大、低価格のプライベートブランド(PB)を強化して売上高を2000億円(13年2月期は1225億円)に引き上げる計画だ。

 子供服専門の「ミキハウス」を展開する三起商行は、欧米やアジアにも展開しており、今年3月にはロシア1号店としてモスクワに大型路面店をオープンした。海外での出店はロシアで11カ国目。13年2月期の売上高は234億円で、海外売り上げは1割強だが、10年後には5割程度になるとみている。

 成長を続ける企業がある一方で、姿を消した企業も少なくない。03年以降の10年間は、ベビー・子供服のメーカーや小売店にとって暗黒の時代だった。

それなりの規模があった地方の専門店チェーンが次々と潰れ、ついに大手のフーセンウサギまでが倒産した。

●フーセンウサギ、再建失敗までの経緯

 フーセンウサギ破綻までの経緯を振り返ってみると、まず、業績悪化が続いていた06年6月、みずほ証券系の投資ファンド、ポラリス・プリンシパル・ファイナンス(現ポラリス・キャピタル・グループ)が第三者割当増資を引き受けると共に、創業者一族が保有する株式を買い取った。同ファンドの100%子会社となり、経営を刷新した。その後、ポラリスは2年で経営再生のメドをつけ、株式を公開して投資を回収するシナリオを描いた。新体制の下で、不動産売却や海外現地法人の整理、事業の見直しなど大幅なリストラを実施。ビジネスモデルも直営店方式から量販店向けの製造卸に転換した。

 しかし、売り上げは回復せず、13年2月期の売上高は62億円とピーク時の2割に激減。毎期、億円単位の赤字を計上した。在庫を担保とした融資などさまざまな資金調達策をとって急場をしのいできたが、今年9月に支払いの遅延が発生。信用不安が高まり、事業の継続を断念した。ポラリスは、ベビー・子供服事業の再生に失敗した格好となった。

 そんなフーセンウサギに関する不可解な動きについて、「TEIKOKU NEWS」(帝国データバンク/13年11月7日号)は次のように伝えている。

「フーセンウサギが大阪地裁に提出した申立書の債権者名簿に、大手旅行会社のトップツアー(東京・目黒区)の名前が記載されている。アパレルと旅行会社にどういった取引があったのか、さらに債権額が3億400万円という大きな金額から、問い合わせが複数寄せられている」

 また、「TEIKOKU NEWS」によれば、フーセンウサギは今年3月、トップツアーに対し在庫商品を3億1500万円で売却し、この取引には、売った在庫をもう一度買い戻すことができる「買い戻し特約」が付いていたという。つまり、フーセンウサギは在庫を担保にトップツアーから融資を受け、当座の資金繰りをつけていたのだ。

 なぜ、このような取引が成立したか? 06年5月にポラリスが運営するポラリス第一号投資事業有限責任組合がフーセンウサギの第三者割当増資を引き受け、フーセンウサギの創業者一族が保有していた株式を譲り受けた。他方、トップツアーはかつて東証1部に上場していたが03年に上場廃止になり、07年9月にポラリスが運営するティラミスホールディングスがトップツアー全株式を取得し、経営参加した。その後、今年8月にティラミスは持ち株を東武鉄道に売却した。

 この件に関してポラリスは、帝国データバンクの問い合わせに「ノーコメント」とし、フーセンウサギが倒産する数カ月前の今年8月、トップツアーを買収した東武鉄道は「詳細について現在調査中」としているそうだ。
(文=編集部)

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