「NHK職員の給与は、かつてマスメディアの中ではそう高くありませんでしたが、1980年代後半から上昇してきました。とくに島桂次氏が会長になってから、朝日新聞や読売新聞並みになったといわれます。また、NHKには基本給・世帯給で構成する『基準賃金』、残業代にあたる『基準外賃金』のほかに諸手当があり、それが充実しています」
例えば、本部および横浜、さいたま、大阪、京都、神戸の各放送局職員に対して支給される「地域間調整手当」、転勤者用住宅等に入居していない者に支給する「住宅補助手当」、北海道の各放送局では10月にまとめて支給される「寒冷地手当」などがある。また、“第二の給与”ともいわれる厚生保険費(人件費に含まれる)は、職員住宅や保養所の運営などに活用されており、これを職員1人当たりで割ると200万円ほどになるという。
「NHK職員は高額給与批判に対し『一生懸命やっている』と反論しますが、どの程度が適正なのかは冷静に議論・検証されるべきでしょう」(小田桐氏)
NHKの14年度の事業収入は、受信料6428億円とその他201億円を合わせて6629億円、事業支出は6539億円。黒字はわずか90億円だが、NHKは営利を目的としない特殊法人であり、赤字にさえならなければよい。むしろ、帳簿上大きな利益を出していたら、そちらのほうが問題視される。
しかし、小田桐氏によれば、NHKには現金預金1111億円、短期保有有価証券1002億円、長期保有有価証券2162億円があり、4000億円を超える金融資産を持っている。有利子負債が215億円あるが、今日にでもすべて現金預金で返済可能だ。
NHKの収入の97~98%が受信料であり、安定しているのは誰もが知るところだが、ではなぜ、これほどNHKはお金持ちなのか。
「実は、1971年度を境に、毎年収入の伸びが低下していきます。テレビの普及自体が限界に近づく中で、増収の頼みの綱である地上波は、白黒からカラー契約への切り替えが頭打ちになりました。受信料不払い世帯への徴収には限界がありましたが、89年6月にBSが本放送を開始し、カラー放送以来の新しい収入源になったのです」
1950年から2009年までの財政状況をグラフ化したものを見れば、一目瞭然だ。受信契約件数はあまり伸びていないにもかかわらず、事業収入は89年(平成1年)以降、大幅に増えていった。4000億円程度だった収入が、91年には5135億円になり、97年には6117億円となったのだ。BSの受信契約者は順調に伸びてきたのだ。
BSの伸びは、視聴者ニーズの変化によるところが大きい。小田桐氏自身、「民放はもちろん、NHKも地上波はあまり見なくなった」と語るが、スポーツや映画のみならず、多様化したニーズに的確に対応しているのはBSということのようだ。
今後もNHKの独り勝ち状態は続きそうな気配だ。アベノミクスで景気が上向いたとはいえ、広告収入がメインの民放の経営が景気に左右される構造は変わらない。その広告費も、企業は年々、テレビや新聞からネットメディアに比重を変えている。
そんな中、今年1月、日本ユニシス特別顧問の籾井勝人氏が新しいNHK会長に就任したが、就任早々、特定秘密保護法に関して「通っちゃったんで、言ってもしょうがない」「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」など発言し波紋を呼んだ。籾井氏の就任に先立ち、安倍晋三首相は昨秋、NHK経営委員に自らに近い4人を任命。その中のひとりである作家の百田尚樹氏は東京都知事選の応援演説で「南京大虐殺はなかった」と発言、哲学者の長谷川三千子氏は朝日新聞東京本社で93年に拳銃自殺した新右翼活動家をたたえる追悼文を委員就任前に寄稿していた。
小田桐氏は「政治との距離、中立性がNHKの一番の問題」といい、NHKが毎年、事業計画と予算について国会で了承を得なければならない仕組みが、NHKの独立性を阻害している要因の1つと指摘する。
「イギリスのBBCは10年に一度大議論して、受信許可料を決めたり、事業計画などを作成します。NHKも3カ年や5カ年の中長期計画を立てていますが、国会の予算承認も、その頻度でいいのではないでしょうか。予算の承認が毎年では、時の政権の顔色をうかがうようになるので、経営委員の承認で済ませるようにする。ただ、現状は経営委員の選び方が不透明です」
経営委員会のメンバーは委員長を含めて12人で、国会の同意を得て首相が任命する。
(文=横山渉/ジャーナリスト)