『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社)を5月に上梓した星野陽平氏への当サイトのインタビューでは、“芸能界の政治力学”などについてお伝えし、大きな反響があった(5月25日付『鈴木亜美、北野誠…なぜ芸能人は突然“干される”のか?芸能界を歪める芸能プロの“政治”』、6月11日付『鈴木亜美、セイン・カミュ、浅香唯はなぜ干された?音事協の力、私生活に介入する事務所』参照)。

 今回は、星野氏が本書内で提示した問題が、なぜマスコミでは取り上げられないのかなど、メディアの“芸能界タブー”について語ってもらった。

●マスコミが触れたがらない芸能界のタブー

--本書に対する周辺の反応はいかがでしたか?

星野陽平氏(以下、星野) 本書はインターネット書店でもリアル書店でも品切れが続出し、第3刷が決定しました。ネットでの書評を見ても評判は上々で、手応えを感じています。ただし、今のところ、本の存在がネットの世界でしか広がらないというもどかしさもあります。

--マスコミでは取り上げられないということですか?

星野 本書を出版する際、パブリシティのため、いくつかマスコミを回ったのですが、なかなか厳しい反応でした。ある担当者には、「自分は面白い本だと思うけど、上司が渋い顔をする」と言われましたし、別のメディアでは「社内の別の編集部から横やりが入るから、本を紹介するのは難しい」とも言われました。本の帯に「日本最大のタブー」と記していますが、それをあらためて確認させられました。

--どうして、芸能界の問題はアンタッチャブルになっているのでしょうか?

星野 簡単にいうと、芸能はキャッチーで大衆受けする半面、メディアからしても、比較的お金になりやすい“商品”なため、利権が絡んでくるのです。そのため、芸能スキャンダルは日常的に氾濫していますが、ある一定レベル以上の情報は規制されて、表に出ない仕組みになっているのです。

--規制されるか否かの線引きは、どのあたりにあるのでしょうか?

星野 芸能プロダクション全体の問題に踏み込むと危険です。特に本書は、芸能プロダクションの生命線に関わるテーマを扱っていますから、マスコミで紹介してもらうのは至難の業でしょう。

 私が調べた限り、メディアで最初に「芸能界タブー」が認識されるようになったのは、1971年の「相愛図事件」です。当時の「週刊ポスト」(小学館)が「凄い芸能界相愛図」と題して、イニシャル表記ながら有名芸能人同士の乱れた下半身事情を、作詞家・なかにし礼氏の告発というかたちで掲載しました。

ところが、雑誌発売直後になかにし氏は「取材に応じなければ、あなたの私生活を暴く」とポストの記者に脅されたとして刑事告訴し、記者2人が強要罪で逮捕されました。

--その事件の真相は、どうだったのでしょうか?

星野 ひとつ確かなのは、なかにし氏が記者たちを告訴せざるを得ない状況に追い込まれたということです。俎上に載せられたタレントが広範囲にわたり、かつ記事の内容があまりに強烈で、しかも告発者が芸能界内部の人物だったため、業界としてなかにし氏排除で足並みが揃ったわけです。有力芸能プロダクションのほとんどが加盟する日本音楽事業者協会(音事協)がなかにし氏に事情聴取し、さらになかにし氏が所属していた渡辺プロダクションもなかにし氏へ仕事の注文を中止しました。ところが、なかにし氏が記者を告訴した当日、渡辺プロはなかにし氏に作詞を依頼しています。

--「週刊ポスト」側の対応は、どうだったのでしょうか?

星野 音事協は「週刊ポスト」を発行する小学館に厳重抗議し、加盟する芸能プロに対して小学館が発行するすべての出版物の取材を拒否するよう呼びかけました。

これをやられると、出版社は潰れてしまいます。結局、逮捕された記者は不起訴処分に終わりましたが、そうした事件が何度も起きるに従って、「芸能界を怒らせると怖い」という認識がマスメディア全体に広がりました。

●現在の芸能界のタブー

--現状の「芸能界タブー」は、どうなっていると思いますか?

星野 2012年のミス・インターナショナルのグランプリを獲得した吉松育美さんが、移籍を断った大手芸能プロダクションの幹部からストーカー行為などの嫌がらせを受け、グランプリ授賞式に出席できなくなったという事件がありましたが、吉松さんの告発は海外では報じられましたが、国内ではほとんど報じられませんでした。これに見られるように、近年、芸能界に対するマスコミの“自主規制”はますます強まり、一方で、芸能プロダクションのマフィア化が進行しているのではないかと懸念しています。この10年でいえば、大手芸能プロと因縁がある芸能関係者が何人か死んでいますから、芸能界の水面下は異常なことになっているかもしれません。

--死者が出ているとなると、穏やかではありませんね。

星野 05年12月に、日本レコード大賞の審査委員長だった阿子島たけし氏の金銭スキャンダルを糾弾する怪文書がバラまかれ、その直後、阿子島氏の自宅で火災が発生し、3日後に焼け跡から阿子島さんの遺体が発見されました。その年のレコ大は、EXILEに大賞を獲らせるかどうかで、大手芸能プロ同士が水面下で綱引きをしていたといいます。また、08年にはフリーアナウンサーの川田亜子さんが練炭で自殺するという事件がありました。川田さんは大手芸能プロ幹部と交際し、婚約までしていましたが、その後、この幹部への不信感が募ったことで婚約を解消しました。ところが死の直前に、その芸能プロ幹部から「練炭を買ってこい」と、2度命令されていたという情報もあります。自殺との関連は不明ですが、いずれにせよ、まだ表に出ていない情報が山ほどあるのです。

--どちらも事件の可能性があるのでしょうか?

星野 それはわかりませんが、芸能界の異常性が社会でほとんど議論されないことは問題だと思います。例えば、長らく国民的イベントといわれてきたレコ大の審査方法が公正でないことは多くの国民が知っているのに、改革の動きがまったくないのは不自然です。私は本書の執筆に当たり、アメリカの芸能界の仕組みについて調べましたが、日本のレコ大のような仕組みはアメリカでは違法です。

●アメリカと日本の芸能界の違い

--アメリカでは、どのような規制があるのでしょうか?

星野 かつてレコ大の審査委員長をしていた人から、「大賞の直前にノミネートされた歌手が所属するプロダクション2社から同額の商品券が届くので、大賞は事実上、その2人のどちらかからしか選べない。音事協で談合しているのでしょう」と聞いたことがあります。業界内部の話でとどまればいいですが、公共の電波を使った放送の裏では、このような行為が平然と行われているのです。

アメリカでは、番組スポンサードとは別に水面下で金銭を発生させて、それにより流す曲を決めるようなことは、「ペイオラ」と呼ばれる違法行為に当たり、放送通信事業を規制・監督する連邦通信委員会(FCC)という機関が取り締まっています。

--アメリカと比較すると、日本の芸能界は不正行為が放置されている印象ですが、なぜなのでしょうか?

星野 その背景には、差別の問題があると思います。かつて芸能に従事している人は「河原乞食」とか「河原者」と呼ばれ、厳しい差別を受けていました。昔、アイドルが芸能界入りする時、親が猛反対するという話がありましたが、その背景にもこの問題があるのだと思います。

--そうした社会の意識レベルから改革しなければ、芸能界の問題は解決できないということでしょうか?

星野 そうです。ただ、タレントと芸能資本(芸能プロダクションなど)の関係についていえば、現在のような芸能資本側の圧倒的強さは固定的なものではなくて、時期によっては流動的です。例えば、戦後しばらくの間、映画会社間の俳優の移籍を禁じる「五社協定」ができるまでは、俳優は映画会社に対して強い立場にあり、俳優に仕事をあっせんする「俳優ブローカー」が強い影響力を持っていました。戦前も映画会社のカルテルが未熟で、俳優が結束して独立プロダクションを起こして、配給系統まで持っていた時期がありました。

--タレントも団結して、自由な芸能活動ができるようになる可能性もあるのですね。

星野 制度として役者が差別されていた江戸時代でさえ、役者は権力者に抵抗していました。江戸中期まで役者は弾左衛門という被差別民の頭領に支配され、櫓銭(やぐらせん)という興行税を払っていました。ところが、1707年に弾左衛門に許可なく江戸で興行を打ったとして弾左衛門の配下300人に芝居小屋を破壊された小林新助という人形を操る芸人が弾左衛門の不当性を幕府に訴え、新助の主張が認められるという事件がありました。これをモチーフにして歌舞伎の代表的な演目『助六』が生まれたという説もあります。『助六』は、主役の助六が意休という老人から友切丸という宝刀を奪うというストーリーです。友切丸は当時の役者にとって「興行の自由」でした。今のタレントにとっては「実演の権利」でしょう。

--タレントが団結してユニオンをつくって、大手芸能プロ支配体制が崩れれば、芸能界は大きく変わりますね。

星野 そういうことです。本書で指摘している部分を改善しようとする動きが出てくれば、芸能界も風通しがよくなると思います。
(構成=編集部)