アスクルが8月2日に開く定時株主総会を前に、時々刻々と事態が動いている。

 アスクルの独立役員会が7月23日に会見し、独立役員会のメンバーで指名委員会委員長の戸田一雄・社外取締役(元松下電器産業副社長)は、筆頭株主ヤフーによる岩田彰一郞社長の退陣要求について「上場企業のガバナンス(企業統治)を無視している」と、激しく非難した。

 戸田氏は会見で、「ヤフーの要求には、株主総会直前に本人(=岩田氏)から辞任を申し出させることで指名・報酬委員会の議論を回避し、トップ人事を決めようとする意図がうかがえる」と指摘。「(支配株主の意向で)こうも簡単に変わってしまうのか。なんのための社外取締役なのかと、強く思う」と憤慨した。

 独立役員会アドバイザーの久保利英明弁護士は、「ガバナンスというのは、資本市場を機能させるために重要なファクターだ」と述べ、日本取引所グループ(JPX)の社外取締役を務める立場として、この問題を「座視しているわけにはいかない」と語った。

 株主総会では、計56.76%の株式を持つヤフーとプラスが岩田氏の再任に反対する方針で、岩田氏の退任は避けられない情勢だ。

 そこで独立委員会は折衷案を提示した。

「本年総会では岩田社長を含む取締役候補案を選任し、来年に向けた指名・報酬委員会で、ヤフーの意見を踏まえて十分な時間をかけて議論する」というものだ。

 だが、ヤフーはこと折衷案を切り捨て、一気に勝負に出た。ヤフーは7月24日、すでに反対している岩田社長に加え、独立役員の社外取締役3人の再任にも反対し、ネットで議決権を行使したと発表した。

 独立社外取締役は戸田一雄氏、宮田秀明氏(東大名誉教授)、斉藤惇氏(プロ野球コミッショナー)の3人。岩田氏については「低迷する業績の回復、経営体制の若返り」、社外取締役3氏については「岩田氏を任命した責任」などを理由に反対した。

 独立役員でない、残る社外取締役の今泉公二氏(プラス社長)、小澤隆生氏(ヤフー取締役)の再任にヤフーは賛成した。

 ヤフーの決定は、岩田社長の退陣要求を「ガバナンス無視」と非難した独立社外取締役を排除することに眼目を置いている。

 対するアスクルは7月26日、定時株主総会前日の8月1日に取締役会を開くと発表した。取締役会では、ヤフーが保有するアスクル株の売り渡しを請求するかどうかを審議し、決議する。岩田氏はすでに、売り渡しを求めた株式をファンドなどに引き受けてもらうことを検討していると明かした。

 ヤフーの社外取締役3人に対する再任反対は、売り渡し請求の決議に備えたものだ。8月1日の取締役会でアスクル株の売り渡し請求を決議しても、翌日の株主総会で岩田氏と3人の社外取締役は再任されない。

そうすれば、総会後の取締役会で、前日の決議を撤回することができる。「独立社外取締役の再任に反対した真の狙いはここにある」とみているアナリストもいる。

ヤフーとアスクルの関係が悪化したきっかけ

 ヤフーの親会社だったソフトバンクグループ(SBG)は、アスクルとの相乗効果を引き出すように求めていた。ところが18年、ヤフーのトップがアスクルと良好な関係を築いてきた宮坂学氏から川邊健太郎氏に交代。今年6月にはヤフーの親会社がSBGから通信子会社のソフトバンク(SB)に変わり、これを機にSBの意向が全面的に出てきた。

 SBの子会社に組み込まれ経営の独立性を失ったヤフーについて、アスクルの岩田社長は「かわいそう」と同情を口にしている。

 アスクルは7月28日、同社の社外取締役らで構成する独立役員会から「ヤフーを批判する声明の提出があった」と発表した。

 ヤフーがアスクルの独立社外取締役3人の再任議案に反対する議決権を行使した点について、「上場子会社のガバナンスを蹂躙(じゅうりん)している」と批判、さらに「(ヤフーは)独立社外取締役の存在意義をまったく認めていない」と断罪した。

 アスクルの独立役員会は社外取締役ら6人で構成されている。8月2日開催のアスクルの株主総会で社外取締役3人の再任は否認される。それによりアスクルには独立した社外取締役がいなくなる。

 強引な手法でアスクルを手に入れたSBGだが、孫正義社長は「資本市場の信頼性を失わせた」との汚名を長らくそそぐことができなくなる恐れもある。


(文=編集部)