「これこれこういう理由で、お安くなっています」という“訳(わけ)あり商品”を、よく見かけます。アウトレット品やB級品、不揃い、半端サイズ、色限定、箱にダメージあり、規格外野菜、ケーキの端切れなど、衣料品、工業製品、農水産物、食品といったさまざまなカテゴリーで見られます。

 サービス財でも、ホテルで部屋からの眺望が悪い、カラオケルームに隣接しているなどの理由で、安価に提供されたりします。レストランの平日限定、早朝ゴルフなどのアーリーバード、居酒屋のハッピーアワーや、小売店の雨の日セールなども広い意味では訳あり商品といえるでしょう。

 訳あり商品に共通することは、お得感に敏感な顧客セグメントを対象に、それほど重視されない商品属性のデメリットを提示して(訳あり)、次にその消費者が本当に重視する属性に関しては問題ないことを説明し、その分、価格が安いメリットを強調していることです。

 前述のレストランの例における「訳(理由)」とは、利用に時間的制約があることで、味や品質といった本質的なものは同等だけど、よりお得に飲食ができることです。ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を提示する両面提示広告でも、一見、誠実な姿勢を見せているようでいて、実は消費者が重要視するであろう側面をポジティブに、重要視しない側面をネガティブに伝えることで、商品・サービスの魅力を高めているのです。

 売り手にとっては、正規品の値段を下げずに、規格外品を売ったり在庫処分をしたりするために、価格に敏感な顧客セグメントに売り込む大義名分となります。

 顧客の満足度は、購買後の知覚パフォーマンス(価値)と購買前の期待との差で規定されるので、この期待値を低めに設定する「訳」は、同じ知覚パフォーマンスでも満足度を高める傾向があります。

 また、「訳があって安く買えたのだから」と自身の購買決定を正当化させる理由となるため、「あの商品を買う必要が本当にあったのか」という衝動買い後に起きる認知的不協和(後悔)も解消されやすくなります。

 訳あり商品に踊らされないためには、「訳」が自分にとって本当に優先順位の低い商品属性かどうか、購買前によく考えることです。

・悪いことも伝える広告:両面提示広告とその順序効果

 メーカーのウェブサイトで評価の高いレビューばかりだと、「どうせ、評価の悪いレビューは削除しているんだろう」と考えて、信憑性を疑いませんか?

 いくつかの消費者行動研究でも、ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を提示する両面提示広告では、ネガティブ情報が許容できるレベルであれば、むしろ情報の信頼性を高めるため、説得の効果が高いことが示されています。

 古典的な例では、フォルクスワーゲンのビートルが、“The 1970 VW will stay ugly longer“(1970年型ビートルは、そのみにくさを他車より長く保ちます)と、スタイルの醜さを逆手にとって、耐久性のよさをアピールした広告があります。

 さらに両面提示の場合、ポジティブ要因とネガティブ要因のどちらを先に提示するべきかという順序効果の研究では、受け手がどれだけ広告を詳細に吟味して理解しようとするかによって違うことが確認されています。

 情報処理の動機が高い場合は初期メッセージに(初頭効果)、逆に動機が低い場合は最終メッセージに(親近性効果)、より強く影響されるのです。

 したがって、関心の高い商品・内容の場合は最初にポジティブ情報を、関心の低い商品・内容では最初にネガティブ情報を提示するほうが、最終的な評価が高まるといえます。

(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)