「巨額の補助金をもらうためだけに、駅前に図書館を移転させるのだと思います」
そう言って憤慨するのは、今冬、南海和歌山市駅前の再開発エリアに、市民図書館の新装オープンが予定されている和歌山市の市民だ。その計画を立てたと思われる黒幕的な存在がいた。
1月27日付当サイト記事『ツタヤ図書館建設でCCCと和歌山市に癒着疑惑浮上…コンペ前から内定で計画進行か』でも報じた通り、総事業費123億円になる和歌山市駅の再開発プロジェクトの資金計画から始まって、基本設計、実施設計、施工監理など一連の業務を一社で独占的に受託していたのがアール・アイ・エー(RIA)だった。
同社は、まちづくりを得意とする建設コンサルティング会社。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が2011年にオープンした代官山蔦屋書店の設計と、その周辺一帯の開発を手掛けたことでも有名だ。
RIAは、和歌山市のまちづくりに関する調査や計画立案も手掛けていたことが、筆者の取材によって判明した。ただし、市からの直接依頼ではない。和歌山市が12年からまちづくりに関する計画立案業務を委託したのは、「全国市街地再開発協会」だが、その下請けで実務を担当したのがRIAだった。
全国市街地再開発協会は、国土交通省系列の公益社団法人で、全国の自治体や建設コンサルタントが会員になっていて、まちづくりに関する各種情報提供や再開発の調査研究を行っている。ある関係者は、こう解説する。
「まちづくり・市街地再開発のコンサルティング会社は全国に200社程度ありますが、そのなかでもRIAのように全国規模で対応できるところは数社に限られてきます。そういうところは、協会を通さず直接受託するほうが圧倒的に多いはずです」
下の図は、和歌山市が再開発協会と交わした契約書の一部だ。委託金額は、12年・1900万円、13年・300万円、14年・87万4800円と、総額にして3年間で約2300万円。ところが、和歌山市の同協会への業務委託は、すべてが随意契約だった。
なぜ、これらの調査・計画立案業務が公募されなかったのか。和歌山市は「全国市街地再開発協会は、まちづくりの分野においては国交省唯一の公益社団法人であり、ほかの民間企業には真似のできない特殊な技術や知識を有しているため」(都市再生課)と説明する。
しかし、この実務を担当したのは、下請けで入ったRIAだ。和歌山市の担当者によれば「和歌山市の実情に詳しいRIAさんを紹介してもらった」という。なぜ、直接依頼せずに、国土交通省系列の公益法人を間に挟まないといけなかったのだろうか。
再開発協会に直接聞いたところ「自治体のニーズに合わせて、それぞれの分野で優れた技能・実績を持つ事業者を組み合わせて、依頼された業務をこなしている」と回答があった。つまり、再開発協会に依頼すれば、事業者を広く一般公募したり、指名入札の手続きなどを踏まなくても、必要な事業者を選定できるということのようだ。
市駅前再開発の計画の目玉に図書館をもってきたのも、RIAではないかといわれている。その強力な証拠となるのが、和歌山市が再開発協会を経由してRIAに依頼していた「まちなかエリア活性化検討業務」について、14年9月に発表した報告書だ。和歌山市が検討してきたまちづくりの計画には、それまで一言も出てこなかった市民図書館の駅前移転が、この報告書の中に突如として出てきた。
そこには、前年開業したばかりの佐賀県武雄市図書館・歴史資料館や、まだ建物が建設中だった宮城県・多賀城市の図書館まで、詳細な設計図面入りで紹介されていた。いずれも、CCCが指定管理者となる“ツタヤ図書館”であり、多賀城市のケースはRIA自らが再開発プロジェクトを丸ごと手掛けていた事業である。
RIAのもう一方の顔は、一連の設計関連業務を落札する前から務めていた南海電鉄のコンサルタントである。ちょうど、再開発協会の下請けで和歌山市の仕事をしている14年中に、南海電鉄とも契約を交わしていた。南海電鉄の担当者はこう話す。
「14年度に、再開発事業のサポート業務というかたちでRIAさんと契約しています。サポート業務とは、プロジェクトの調整支援です。われわれも再開発事業のノウハウとか事例に詳しくない部分がありますので、そういったところをサポートしていただいております。コンペはしておりません。社内の適切と思われるところで決めさせていただいています。契約の詳細については、お答えいたしかねます」(南海電鉄施設部)
南海電鉄は、総事業費123億円にも及ぶ再開発事業の計画について、公募もせずにRIAとコンサタント契約を交わしていたという。これにより、RIAは南海電鉄のコンサルタントとして、14年7月から関係者会議に出席して、南海電鉄が行う再開発事業をサポートしていたわけだ。
ここで問題になるのは、利益相反である。RIAは、同一事業について、同じ時期に、一方では下請けとはいえ、自治体からの依頼で公共施設の再配置を提案し、もう一方では巨額の補助金をもらう側の民間企業の依頼で「プロジェクトの調整支援」を行っていたことになる。
南海電鉄は「RIAさんとは単費で契約しております」と、RIAに依頼した業務は自社の私的費用で賄い、公的な補助金は一切使っていないことを強調する。
だが、和歌山市の業務を下請けとして担当した報酬の原資は税金である。それにもかかわらず、移転の必要のない図書館を駅前に持ってくることで、和歌山市や和歌山県の負担を増やしながら、南海電鉄が64億円という巨額の補助金を受給できるように企図したのではないだろうか。
和歌山市駅前の再開発業務にかける三者の関係を図にしてみた。12年から、ほとんど切れ目なく、RIAは和歌山市の再開発業務を手掛けていることが一目瞭然。唯一、競争入札が行われたのは、赤色で示した南海電鉄が施主となる駅前施設の設計関連業務のみ。それについても、2月17日付当サイト記事『ツタヤ図書館、建設で談合疑惑浮上…和歌山市、入札前から特定業者と資金計画について会議』で報じたように、資金計画が落札の2年前に発表されていたことから、談合疑惑が持ち上がっている。
つまり、事業の計画立案者が公的な審査を経て選定されることなく、ズルズルとその後の事業を直接担っているようにみえる。
94億円もの公金が投入される再開発事業のプロセスが、これほど不透明であっていいのだろうか。これは、一民間企業に対する利益供与に当たらないのか。これまで市議会では、再開発の不透明なプロセスについて詳しく取り上げられたことは一度もない。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)