『今日から俺は!!』『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』『あなたの番です』……この1年あまり、もっともネット上の反響を集めたドラマ枠は、日本テレビ系の『日曜ドラマ』で間違いないだろう。

 突き抜けたツッパリコメディー、SNSをからめた学園監禁サスペンス、2クールの超長編ミステリー。

いずれも他枠とは一線を画す挑戦的な作品だっただけに、今冬の『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(読売テレビ、日本テレビ系)にも大きな期待が寄せられていた。

 同作の前評判は、「巷にあふれる悪質なハラスメント、組織の不正、権力者への忖度などのグレーな事件にシロクロつける」という物語と、ダブル主演の清野菜名と横浜流星の華麗なアクションで、“スカッと爽快な勧善懲悪ドラマ”。

 ただ、ミスパンダのビジュアルや、飼育員さんが彼女を催眠で操るなどの設定に「子ども向き」と揶揄する声があるのも事実。初回放送の段階では、その声に同意しかけていたのだが、ここにきて意外に味わい深い作品という印象に変わりつつある。

詰め込んだキャラクター設定の是非

『日曜ドラマ』は、『今日から俺は!!』の三橋貴志(賀来賢人)と伊藤真司(伊藤健太郎)、『3年A組』の柊一颯(菅田将暉)、『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』の遊佐清春(賀来賢人)と異色のヒーローが続いているが、今作の川田レン/ミスパンダ(清野菜名)と森島直輝(横浜流星)は、それら以上にぶっ飛んだ設定のキャラクターだった。

 レンは、「“天才美少女棋士”と言われていた」「10年前の放火事件で姉妹のリコを亡くし、ネガティブな性格に」「驚異的な身体能力を持ち、黒のアイマスクをつけたミスパンダに変身する」「溺愛されている母は火事がきっかけで療養施設にいる」「母から檻に閉じ込められるなど虐待されていた」。

 直輝は、「大学で精神医学を学ぶ一方、“メンタリストN”としてテレビ出演」「対象者の眠っている記憶や力を呼び起こして別の人格を刷り込み、コントロールできる」「ミスパンダには『飼育員さん』と呼ばれている」「Mr.ノーコンプライアンスの指示で世の中のグレーゾーンにシロクロつけている」「8年前に父が突然失踪し、遺体で見つかった事件の真相を追っている」。

「よくこれだけ詰め込んだな」と思わせるキャラクター設定であり、アメコミや特撮に近いものがある。こうして文字に書くとキャラクターが渋滞しているように見えるのだが、実際は見れば見るほど愛着が湧く人が増加。ネット上には、「ミスパンダがだんだんかわいく見えてきた」「おどおどしているレンとのギャップがいい」「クールなのに、人一倍正義感の強い直輝に惹かれる」「アクションシーンが本当にカッコイイ」「2人の不思議な関係性がじわじわと好きになっている」などの声が回を追うごとに増えているのだ。

求められるストーリーありきのアクション

 アメコミや特撮の世界観に近いのは、悪人を成敗する痛快さとアクションシーンも同様。

直輝の「この男、真っ黒だな。救いようがない」というセリフとともに2人が暴れまわる姿は、翌朝の仕事や学校が気になる日曜夜の鬱な気分を忘れさせてくれる。しかも、今をときめく横浜流星と清野菜名がそろい踏みするのだから、若年層にはたまらないのではないか。

 一方、大人の世代にとっての取っ掛かりは、国会議員のスキャンダル、企業のハラスメント、大学不正入試、スポーツ界の疑惑、進学校のいじめなど、現代社会の闇。あくまでエンタメ重視で「本質をあぶり出す」というほど掘り下げてはいないのだが、社会を騒がせているテーマに特化することで「単なる若年層向けに留めないぞ」という制作姿勢を感じさせる。

 ただ、これまでの放送では、若年層が見やすい「アクションありきのストーリー」という前提になっている感があるのも事実。中盤以降、若年層以上の視聴者をさらにつかんでいくためには、大人層が見ごたえを感じる「ストーリーありきのアクション」というテイストを色濃くしていくべきだろう。

 4話終了の時点で、レンと直輝の過去が徐々に明らかになってきたが、父の死、Mr.ノーコンプライアンスの過去、佐島あずさ(白石聖)の誘拐事件とコアラ男、火事の真相など、まだまだ謎が多く、オリジナル作だからこそ考察も含め、最後まで楽しめるのではないか。

読売テレビが抱えるプレッシャーと意地

 もうひとつ、『シロクロ』が単なる若年層向けでないことを感じさせているのは、当作を手がける読売テレビの気合い。プライム帯では16年ぶりとなる自社制作の連ドラだけに、意気込みが作品に表れているのだ。

 前述した清野菜名と横浜流星のダブル主演、2人が演じるキャラクターのディテールやアクションへのこだわり、現代社会の闇を暴き、多くの謎を潜ませたオリジナルストーリー。

 さらに、カメラワーク、カット割り、テロップなどの遊び心ある演出、メンタリスト・DaiGoや『名探偵コナン』などさまざまなパロディ、横浜の肉体美や胸キュンしぐさなどのサービスカット、横浜が演じる直輝の父親役に田中圭をゲスト出演、NGT48時代の暴行事件で係争中の山口真帆を重要な初回に起用。

 放送の間をつなぐチェインストーリーの制作、YouTube「パンダちゃんねる」でのアクションシーン公開、1月のグラミー賞で女性初・史上最年少で主要4部門独占受賞したビリー・アイリッシュ『bad guy』の主題歌起用など、「やれることはなんでもやっておこう」という全力投球の姿勢が伝わってくる。

 仕掛けの大小こそあるが、これらはすべて日本テレビがコアターゲットとして狙い撃ちしている10~40代の視聴者を引きつけるための策。実際、「コアターゲットを対象にした2話の総合視聴率が冬ドラマの中でトップだった」という話を聞いたが、その点では一定以上の成果を得られているのではないか。読売テレビの人々は、キー局である日本テレビからのプレッシャーを感じているし、日本テレビに意地を見せたいところだろう。

 読売テレビは近年、木曜深夜帯で『ブラックリベンジ』『ブラックスキャンダル』『黒い十人の女』などの挑戦的な作品を手がけてきたように、ドラマの制作力ではキー局に決して負けていない。

 見る側にとっては、これほど全力投球でさまざまな要素が詰め込まれた作品なのだから、その中で好きな要素だけを楽しめばいいのだ。少なくとも、大量制作されている医療・刑事ドラマに飽きたという人には、180度ベクトルの異なるこの作品をおすすめできる。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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